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異世界での豆腐作り

 ティエーラの一週間は七日ある。

 それが、魔法属性の光・火・水・風・地・治癒・闇を示す、白赤青黄緑灰黒だ。つまり日本で言う日曜日が白の日で、土曜日が黒の日となる。

 そして学校は基本、黒の日と白の日が休みになるが、そういう時はむしろ店が繁盛するので、街や国が一斉に休むのは年末年始くらいだ。あとはそれぞれが仕事に応じて、週に一度くらいに休みを取っている。

 実は最初、ロッコでは来訪者の動きが読めなかったので、週一の休みすら取らず様子を見ていた。ルーベルには「疲労はお肌の敵よぉ~!?」と嘆かれたが、恵理としてはパーティーで慣れっこだったし(むしろ、雨風をしのげる屋根の下に入れるだけ楽なくらいだ)他の面々も客が来ることでテンションが上がっていたので一ヶ月、無事に乗り越えられた。

 結果として、黒の日と白の日は親子連れも増えて多くの人が集まる。しかし、冒険者や旅人も立ち寄るので、街全体を休みにするのはやはり難しい。

 そんな訳で、大浴場と素泊まり宿は定休日を作らず、従業員が交代で休みを取ることにした。

 そして、飲食店が全店休みになるとそれはそれで困るので、赤青黄緑の日で一日ずつ休みを取ることにした。朝に客が立ち寄るパン屋と、酒場である『ともし火亭』は最初、休みを取ることを遠慮したが、パンはアイテムボックスに入れて休みの日はリンスなどを売っている店舗に置き、酒場で出すりんご酒は休みの日だけは恵理とグルナの店でも出すことにした。

 前置きが長くなったが、恵理の店は水曜日、ではなく黄の日が定休日になった。とは言え、休みの日は休みの日なりにやりたいことがある。

 ……そう、たとえばグルナに教わったひよこ豆の豆腐を作るとか。


「よし、柔らかくなってる」


 昨日の夜、たっぷりの水につけておいたひよこ豆を見て恵理はにっこり笑った。そしてボールを手にして、一言唱える。


粉砕ミキサー


 刹那、風魔法によりひよこ豆が粉砕される。

 あいにくティエーラにはミキサーがないが、風魔法なら――正確に言えば、恵理のような使い方をすれば代用出来る。

 もっとも、魔法をこんな風に調理に使う発想はティエーラ(ここ)にはない。いや、風属性を持っていないグルナは肉体強化を使ってひよこ豆を粉砕するらしいので、日本人ならではの発想かもしれない。


「ミリーに教えたら、食いつきそうよね……ただあの子、料理はしないから。何でもかんでも粉砕しないように、しっかり言い聞かせないと」


 岩や木を無表情で粉砕するミリアムの姿が浮かんだので、うんと頷いて怖い考えを締め括る。我ながらなかなか大きな独り言だが、今はレアンが獣人の里に帰っていて一人なので許してほしい。

 ちなみに里は、帝都よりもう少し北にあるそうなので馬車で片道四日ほど。里での交渉もあるだろうから、十日くらい――先週の緑の日に旅立ったので、戻ってくるのは今週末だろうか?


「豆腐もだけど、おからも……魚醤で炒めてひき肉みたいにしたら、卵とえんどう豆で三色丼が出来るわよね。てんさいで砂糖が手に入るようになったら、おからのパンケーキ風とか作れるし」


 考えるだけで、恵理の頬が緩む。もっとも、手は止まらない。粉砕したひよこ豆を布で包んでこし、豆乳とおからに分けてその豆乳を鍋に入れて混ぜながら煮詰めていく。

 そして豆乳にとろみがついたところで恵理は容器に移し、粗熱が取れたそれを『冷蔵箱』(店で使っている竈同様、電気の代わりに魔石で動く)にしまった。常温でも固まるが、万が一でも悪くなったら困るので冷え固めた後にアイテムボックスに入れる予定だ。

 ちなみに、魔石を使った竈や冷蔵箱はかつての勇者が持ち込んだ知識から生まれたらしい。

 ただ、道具類はどちらかと言うと地球の近世寄りに発達しているが、食事に関しては寂しいと言うか侘しい。一人では、やはり限界があったのかもしれない。


「さて、固まるまでの間……久しぶりに、体動かしてくるか」


 そしてそう呟くと、恵理は店を出て訓練場を借りる為に冒険者ギルドへと向かった。

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