空回りすれ違い
グイド視点
冒険者ギルドでの依頼が増えてきた。
何でも皇太子の婚約者、つまりは未来の皇妃を決めようとする動きがあるそうだ。数人の候補の中から選定し、来年の春から妃教育に入る予定らしい。
そのことが、ギルドの依頼数が増えてきたこととどう関係があるのかと言うと――慶事を迎えようとする中、今まで以上に盗賊や魔物の討伐が求められている。結果、それらを担う冒険者の仕事も増えるという訳だ。
(金が稼げるのは、ありがたいが……)
ギルドに張り出された依頼の数々を見て、グイドはこっそりため息をついた。
帝国は広い。今まではパーティーハウスの管理(掃除や洗濯)もあるので、一日以上は空けないように依頼を選んでいたが、そうも言ってはいられない。人数がいる以上、金はいくらあっても足りないのだ。
(そうだよな。少しくらい、俺がパーティーハウスを留守にしても……多少は汚くなるが、あいつらだって金を渡した方が良いよな。洗濯したくなくて、新しい服を買うとか言ってたくらいだし)
迷ったのは一瞬だった。数枚、依頼が書かれた用紙を手に取ってグイドは受付へと向かう。
「頼む」
「は、い……でも、あの大丈夫ですか? 昨日も、依頼を受けていますよね?」
「ミスはしていない」
「いえ、そうじゃなくて……少しは、休んだらどうですか? エリさんもでしたけど、そんなに無理をしたら体を壊し」
「あのババアと俺を、一緒にするなっ!」
そして受付嬢からの問いかけに、最初は煩わしげに眉を寄せ――次いでエリの名前が出たのに、グイドは思わず声を荒げた。
けれど、受付嬢も負けなかった。怒声に怯んだのは一瞬で、すぐにキッと顔を上げて言い返してくる。
「一緒になんかしません! エリさんは、そんな風に怒鳴り返したりしませんでした……それでもっ、あんなに良い人でもパーティーから追い出されたじゃないですか!? いくら頑張っても、あなただってどうせいつかは」
「このっ……」
「落ち着け……うちのモンが、すまなかった。今回は、俺に免じて許してくれ」
我慢出来ず、苛立ちのままにグイドは受付嬢へと手を伸ばし――それは二人の間に立ち塞がった、デファンスによって遮られた。
怒りが収まらず咄嗟に睨んでしまったが、ギルドマスターに頭を下げて謝られれば、グイドとしても退くしかない。
「今回だけだぞ」
それだけ言い捨てて、いつのまにか集中していた周囲からの視線を振り切るように踵を返す。
それから、しばらく依頼で留守にすることをパーティーハウスにいた者達に伝えると、グイドは荷物を背負って依頼主である商人の元へと向かった。
……だから、グイドは気づかなかった。
「何か、偉そうだよね~」
「楽出来るなら、適当に持ち上げてやろうって思ったけど」
「威張ってるくせに、大したことも出来ないし」
「……どうする?」
残された者達が、それぞれ不満を口にしていたことを。




