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そこには愛が

ルーベル視点・2

 一年ほど前、魔石の鉱脈が衰え枯渇したことで、ミリアムの父でありロッコの領主であるアルスワード侯爵は、街の運営を冒険者ギルドに任せた。

 それは最低限の税金(土地代的なもの)を払えば良い代わりに、侯爵家からの支援は受けられないということを意味している。


(だから、税金よりも稼ぐことが出来たら街は潤うんだけどぉ……先立つものがなくて。だから、駄目元で若旦那に相談したのよねぇ)


 アスファル帝国からルベル公国を繋ぐ街道を、ルウッツィ商会は定期的に行き来している。

 そしてその道中の街や村で、国から運んだ珍しい酒や食料を、あるいは事前に頼まれた帝都の服や化粧品などを売っているのだ。


「……それなら、我が国にある大浴場はいかがでしょう?」


 そうしたら、ティートは思いがけず名案を出してくれた。

 更に侯爵家に話を通し、別邸を大浴場として使う許可を得て――街の改築費用まで出してくれることになった。あの時は、新しい商売への先行投資くらいに考えていたのだが。


「もしかしてぇ、若旦那って最初からエリをここに来させる為に、街興しに手を貸してくれたのかしらぁ?」


 金銭のやり取りや資金繰りの話は基本、ルーベルとティートの二人で行う。

 それ故、打ち合わせが一段落したところで紅茶を飲みつつそう言うと――ティートはつ、と眉を寄せて口を開いた。


「……あの阿呆坊あほぼんは前リーダーが亡くなり、パーティーのリーダーになってから事あるごとに女神を馬鹿にして貶したんです」

「えっ?」

「年増だ無能だ役立たずだ、だから結婚も出産も出来ないんだと。雇って「やってる」から、せいぜい自分達の為に働けって……違うって言っても、僕やアマリアさんは身内だから。女神からは身贔屓からの言葉だと思われてしまって」

「何てこと……アタシがその場にいたら、ソイツぶん殴ってやったわ!」

「ギルドマスターなら、そうでしょうね……しかもあの阿呆坊は、エリさんを解雇して愛人の一人にしようとしたんです」

「はぁっ!?」

「アマリアさんのいるパーティーハウスでは、流石にそこまでは言っていませんでしたが……酒場では、そんな下卑た話をして笑っていました。無意識には下心もあったかもしれませんが、口では女神を馬鹿にして見下す為だと言っていましたよ」


 そこで一旦、言葉を切ってティートもまた紅茶のカップに口をつけた。

 そして、クイッと眼鏡のブリッジを上げて言葉を続ける。


「幸い、女神は奴の下種さには気づいていません。ですが、解雇されたら帝都にはもう未練がありませんから。昔、話していたように国境まで行かれたら……追いかけはしますが、少々、不便ですし。ある程度人がいた方が、女神の威光が伝わりますので」

「そういう意味でもぉ、この街はちょうど良かったって訳ねぇ」


 帝都からは少し離れているが、ルーベルのおかげでここロッコは近隣の街や村の中でも女性達の美への関心は高い。

 そして鉱山で男女問わず働いていた土地柄なので、仕事をする女性にも抵抗はない。

 そんな中、元々の美貌に加えてリンスや化粧水で己を磨き。しかも女だてらに店をやりくりするエリは女性達の憧れの的になっているのだ。本人は戸惑っているようだが、今の話を聞いた後となっては「よっしゃいいぞ、もっとやれ!」としか思えない。


「若旦那ってば……エリのこと、すっごく愛しちゃってるのねぇ」


 ついしみじみとそう言ったルーベルの前で、眼鏡の奥の目を軽く見張り。


「尊敬とか、憧れとか、大切とか、それこそ愛とか……そんな言葉では足りないと言いますか、全部ひっくるめていると言いますか……だから、一番近い言葉が女神なんですよ」


 次いでエリを思い浮かべているのか、眩い程の笑みでそう言ったティートに、ルーベルは内心やれやれとため息をついた。


(グルナ……この若旦那、手強いって言うか……すっごい重いわぁ……)

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