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街興しの今

ルーベル視点

 無料馬車に乗り、ロッコの街に人々(一人もいれば、冒険者らしい複数。あと、親子連れもいる)がやって来たのは昼頃だった。


「「「いらっしゃいませ、ようこそロッコへ!」」」


 そう言って、笑顔で人々を出迎えたのはお揃いのエプロンドレスを着た女性達だ。

 案内人である彼女達は、ルーベルにしっかり教育を受けた精鋭だ。馬車が来る時間に合わせて、街の入り口で待機している。

 そして初日ということで、ルーベルはこっそり彼女達の様子を窺っていた。彼は色んな意味で目立つ為、姿を見えなくする魔法を使う徹底ぶりである。


「私達は、大浴場の従業員です。お風呂にいらっしゃった方は、このままご案内しますね」

「お食事がよければ、大衆浴場がある広場にいくつか店がございます」

「広場には宿もありますので、お泊まりの方はどうぞ。宿にもお風呂はありますが、大きいお風呂がよければぜひ我が大衆浴場まで!」


 そして口々に言い、彼女達は人々を広場へと促した。『リンス』を使った彼女達の髪は艶やかで美しく、訪れた女性達の目を奪っている。

 無料馬車はここロッコに来る者だけを乗せてくるが、金銭事情は人それぞれだ。あと、近隣の町村からだと日帰りも考えられる。

 それ故、用意した宿には酒場や食堂はつけず、あえて素泊まりにしている。それでも、各部屋にではないが一階に風呂があり宿泊代だけで入れるので、汗を流してサッパリ出来るのだ。


「えっ……何だ、あれ?」

「この暑いのに、食い物を外に並べて大丈夫なのか?」

「はい! あれは、蝋で作った見本ですから」

「「「はぁ!?」」」


 広場にあるエリ達の店の前には、ラグー飯や他のメニューの見本が並べられている。『食品サンプル』というそれは、甥のグルナの提案で用意した。器用な甥の手にかかり、色をつけた蝋が見る間に食べ物の形へと変わった時は、我が目を疑ったものである。


「って、変わった飯だな。あの赤いのは何だ?」

「トマテを使ったラグーソースで作られた、ロッコ名物の『ラグー飯』です」

「え? トマテのソースって帝都の親戚から聞いたことがあるけど、ここでも食えるのか?」

「値段も手頃ね。後で寄ってみるわ」


 そう言いながら、広場に到着した面々はそれぞれ大衆浴場と宿へと分かれた。

 昼時ではあるが、無料馬車のおかげで大衆浴場目当てには来ても、わざわざ食事目的には来ないだろう――そう、今はまだ。


(まずはお風呂を楽しんで貰ってって、エリも言ってたけどぉ……でも、ああやって『食品サンプル』並べてたら、どこかの店には立ち寄るだろうしぃ。一度食べたら、やみつきになるわよねぇ)


 甥の料理は勿論だが、エリのも他の二店のもそれこそ帝都でも食べられないくらい珍しくて美味しい。

 それに、大衆浴場も――流石に中まではついていかないが、営業前にルーベルもどんなものか体験している。

 大きな風呂を楽しむのも良し。蒸し風呂で汗を流すのも、香草湯で癒されるのも良し。

 風呂には他の者も入るが、男性は短い丈のズボンタイプ。女性は膝上丈のワンピースタイプの湯浴み着を着るので、思っていた以上に抵抗はない。しかもこの大衆浴場には、湯浴み着以外にも風呂で使う浴布や石鹸、更に髪を洗う為の石鹸と『リンス』が備え付けられているのだ。


(家のお風呂と違うから、お湯に浸かるくらいのイメージだろうけどぉ……入浴料だけで、マテオが作ってくれた香草入り石鹸やリンスが使えるしぃ。風呂上がりには、冷たいりんご酒も楽しめるわぁ。しかも、気に入ってくれたら中の売店で買えちゃうのよねぇ)


 ティートの提案で、大衆浴場の外にも売店と同じ商品を扱った店も用意した。

 確かに一度、外に出たらまた入る時に入浴料を払わなければいけない。初めは入浴後に売店で買うだろうが二回目以降、風呂以外の食事も目的になったら食べ終わった後に立ち寄れる店が必要だ。

 新しい商品の発想はグルナやエリがすごいが、ティートはそれをどんな風に売るか、そしてその為にどう人や店を使うかという考え方が出来る。


(若いのに、いや、若いからかしら? 頭の回転が早いわぁ……それに)


 そこまで考えて、ルーベルは以前、ティートと話したことを思い出した。

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