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洗濯物の毎日

グイド視点

 冒険者パーティー『獅子の咆哮』リーダー・グイドの朝は早い。

 ……それは毎朝、他のメンバー達の洗濯をしているからだ。


(やっぱり毎日やれば、負担が少なくなるな)


 しかも、今日は快晴だ。夏と言うこともあり、洗濯物もすぐに乾くだろう。

 青空の下でグルグルと洗濯機のハンドルを回しながら、グイドはしばし悦に入り――しかし、すぐにガックリと肩を落とした。


 エリやミリアムのように、冒険者にも女性はいる。後方支援である魔法使いや神官もだが、前線で戦う騎士もいる。

 そして『獅子の咆哮』にも、女性冒険者は数人所属している。

 そんな彼女達はレアンとは違い、下着を含めて男性であるグイドに洗濯をさせること自体には抵抗を示さなかった――そう、彼女達が文句をつけたのは別のことだ。


「やだ~、服のしわ酷いんだけど~」

「ありえない」

熨斗アイロン使ってよ、リーダー!」


 結婚をしたら冒険者を辞めるので、このパーティーにいる女性冒険者達も二十歳前後だ。そして若さだけではなく、エリを馬鹿に出来るくらいには容姿も整っている。

 しかし、いくら見た目が良くてもこの態度はいただけない。

 いただけない、が――言い返したら「出来ないなら人、雇って」と言われてしまう。

 ちなみに男性陣は、服のしわについては特に何とも言わない。

 言わない、が――文句を言わない代わりに何もしない。着た服や靴下は脱ぎっ放しで、使ったものは散らかしっ放し。おかげで、パーティーハウスはエリとアマリアが辞めた後、随分と荒れ果てた。


(この為にあのババアは、手下を雇ってたのか)


 エリとアマリアのことを思い出し、グイドは忌々しげに舌打ちをしたが――今は、前とは状況が違う。

 このパーティーで、まともに働いているのはグイドだけだ。仮にもAクラスなので依頼自体は難なくこなせるが、何しろパーティーの人数が多い。食うに困る程ではないが、洗濯や掃除はなまじ自分で出来るだけに、わざわざ人を雇って余計な金を使いたくないのだ。


(……そう、洗濯も掃除も簡単だからな!)


 自分に言い聞かせながら、洗い終わった洗濯物を脱水機に入れてまたハンドルを回す。そして、少しでも熨斗をかけずに済むように取り出した洗濯物を叩いてしわを伸ばした。

 その後、朝食――は作れないので、前の日に買っておいたパンをぶどう酒で流し込み、冒険者ギルドへと向かう。

 そして依頼を数件受けて夕方、パーティーハウスへと戻ったグイドを待っているのが、洗濯物の取り込みと掃除だ。

 乾いた洗濯物を取り込んで、しわが残ってしまったものに熨斗をかける。

 それから休憩場で談笑するメンバー達を横目に、グイドは床や椅子に放り投げられた服を洗濯かごへと運んだ。次いでテーブルに置かれたままの空の木の器や床の荷物を片付け、テーブルを濡れ布巾で拭き、床にモップがけをする。


(こんなんでわざわざ手下を使ってた辺り、やっぱババアは無能だな!)


 などと嘲うが、グイドはエリとアマリアが二人で手分けしていたことを、一人で抱え込んでしまっていることに気づいていない――いや、むしろ自分の間違いに気づきたくなくて意地になってしまっている。

おかげで洗濯を取り込む為に夕食を店でのんびり食べられず、彼女達を解雇してからは翌日用に多めに買ったパンと腸詰ソーセージくらいだ。しかも休憩場だと散らかす面々に文句を言いそうになるので部屋に戻り、食べた後そのまま潰れるように眠るので、他のパーティーメンバーとの交流もない。

 ……だから周りも、そして当の本人も気づかなかった。

 グイドの顔色や髪艶が次第に悪くなり、痩せて目の下に隈が出来ているのを。

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