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街興しと味噌、着々と進行中

ご無沙汰しました。また更新、再開します。よろしくお願いします。

 カツ丼は、当然と言うかやはりと言うか好評で。特に男性陣からは、ぜひ内々の賄いではなく店のメニューとして出して欲しいと言われた。


「やっぱり、肉と揚げ物の魅力は絶大ね……とは言え、クーラーのないところで揚げ物するのもなぁ」


 朝、アイテムボックスを手に一人、テクテクと歩きながら恵理はため息をついた。

 先にある程度作っておいて、アイテムボックスに保管する方法もあるが、まず作る段階で暑い。元々が宿に併設していた酒場の厨房なので水場とかまど(一般家庭のような薪ではなく、魔石を使えるタイプでありがたい)こそあるが、あまり広くはないのだ。


「しゃぶしゃぶとラグーソースだけでも、暑いもんなぁ……気温もだけど、むしろ厨房の広さの問題よね」


 いずれ店を改築したら、とは思うが恵理とレアン二人だけの店なら、今の広さで十分だ。一度にあれもこれもと欲張ってはいけない――諦めるのではなく、やりたいことが複数あるのなら一つずつ叶えればいい。


「……小さなことから、コツコツと」


 そう呟いた恵理は街を出て、グルナの畑――ではなく、小屋へと向かった。そして貰った予備の鍵で中に入り、厨房の床にある収納庫を開けた。

 そこに並ぶ樽の一つを見て、恵理はふっと頬を緩める。

 グルナに作って貰った味噌汁を飲んだ時、恵理は自分でも作って飲みたいし、店で出したいとも思った。

 グルナは自家製味噌を分けてくれると言ったのだが、グルナも店をやるのならとそこは辞退した。日本のように、スーパーやコンビニで簡単に買える訳ではないからだ。

 ……そんな訳で今、恵理はグルナに教えて貰って味噌を仕込んでいる。アイテムボックスでは発酵出来ない為、グルナが使っている小屋の床下収納を借りられたのはありがたい。店だと暖かすぎるのだ(だから、グルナもこの小屋で味噌を仕込んでいる)本来なら冬からゆっくり仕込むことが多いらしいが、夏でも出来るそうだ。気温の為、発酵をするのが早い分、失敗しやすいらしいが幸い、今のところは順調である。

 うんうん、と頷きながら樽を開ける。そして味噌を一旦、小さな団子状に分けて用意していた大皿に取り出した。こうして、豆を空気に触れさせることで風味がアップするのだと言う。

 それから、恵理は取り出した順に(今まで底にあった味噌が上に来るように)樽へと戻した。これは天地返しと言い基本、間に一回の作業なのであと、二ヶ月ほど経ったら完成だ。


「無事に完成したら、味噌汁が飲める……初めてだから一つにしたけど、次はもう少し多めに作ってみよう」


 手を洗いながら決意を固めると、恵理はキチンと施錠してまたロッコの街へと戻った。


 ……帰り道、畑仕事や養鶏場に出入れしている人々を見かけた。

 店をやるようになったのと、ラグー飯を作るのに畑や水田を増やしたの――は、表向きで。ロッコでの仕事を増やすことを目的に、グルナは一人で管理していた畑や水田、そして養鶏場を他の人々に任せることにしたのだ。



 増やした仕事は、それだけではない。

 温泉街とくれば、日本なら無料送迎バスがある。けれど通常、国と国を繋ぐような大きな街道でなければバス――は勿論無いが、馬車すら走っていない。

 そこで、ティートが馬車を何台か往復で走らせようと言った。そうすれば行き来がしやすくなるし、その御者もまた仕事になる。


「ただ、無料では賃金が捻出出来ないので……女神。馬車や馬の購入や御者達の賃金に『女神義援金』を使わせて頂いてよろしいでしょうか?」

「「「女神義援金?」」」


 一ヶ月ほど前、真顔で妙なことを言ったティートに、店で話を聞いていたレアンやサム達が疑問の声を上げた。

 ティートが女神と呼ぶのは、恵理だけである。

 そんな訳で視線で問いかけられ、恵理は肩を竦めながら答えた。


「えっと……レシピを提供したのと、それをティートの店で出したのとで思いがけず、儲かっちゃったんだけど……元の世界のもので、私のオリジナルじゃないし。そもそも、店で食べられるだけで十分だったから、私、それを受け取らなかったのよね」

「僕としては、遠慮せず受け取って頂きたかったのですが……女神本人から「僕達のように、仕事で困った人の役に立てて貰えば」と言われまして。商会で、ひとまず管理させて頂いていたのですが……街興し、つまりは女神の為に使えるのなら感無量です」

「えー……」


 何だか、とても大事おおごとになっている。

 けれど確かに行き帰りに馬車が、しかも複数あれば客となる人々は来やすいだろう。そして地元の者にとっても、仕事が増えることは悪いことではない。


「……まあ、うん、お願いするわ」

「良かったです! あと、湯浴み着や欲布タオルの手配にも……これで皆、女神に感謝するでしょう」

「前言撤回! 出所を明らかにしないって約束しないと、許可しないわよ!?」

「女神……奥ゆかしいのは解っていますが、正当な評価は素直に受けるべきだと思いますよ?」

「もうっ、女神って言うんなら黙って言うこと聞きなさいっ」


 以上、恵理のどんぶり屋で夜、賄い飯の合間にくり広げられたやり取りである。

 あと大衆浴場の掃除もだが、用意した湯浴み着や浴布を洗う者も必要だという話になった。これらは、ルーベルの「これで、女性の働き口が増えたわぁ!」という一言で決定した。


(冒険者ギルドの受付だと、字の読み書きとかも必須だから……そういう条件がなくても、やる気があれば出来る仕事は助かるわよね)


 そう結論付けると、恵理は到着した自分の店に裏口から入った。


「店長、お帰りなさい!」

「……ただいま。今からご飯、作るわね」

「ありがとうございます!」


 恵理の言葉に、店のテーブルを拭いてくれていたレアンが尻尾を振りながら踵を返した。

 開店してからは、レアンは恵理のことを『店長』と呼ぶようになった。住み込みで働いて貰っているが食事は恵理担当なので、掃除や風呂の支度は彼がやってくれる。ちなみに、洗濯は各自だ。


(私は気にならないけど、あの子が私に下着を洗わせることに照れちゃうし……ルビィさんが、大浴場の洗濯係を女性にしたのは、お客の中に男性に洗わせることに抵抗がある人もいるからよね)


 ……そう言えば、かつてのパーティーでは恵理とアマリアが交代で洗濯していたが、今は誰がやっているのだろうか?


(まあ、関係ないか)


 浮かんだ疑問をすぐに打ち消し、恵理は開店前の賄いの準備を始めた。

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