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リン酢を提案した理由は

 恵理の父は北海道出身だが、大学進学の為に東京に来てそのまま就職し、恵理の母と結婚した。

 海鮮やジンギスカンなど食べ物については、年に一回北海道の祖父母宅に行った時に、ここぞとばかりに食べていた。けれど、子供の頃からの乾癬(不規則な生活やストレスにより、皮膚が赤くなって表面にかさぶたのような皮膚片が出来る。頭部や肘、膝に出る)が悪化したのは問題だった。


「ただなぁ、ストレスって言っても生きていれば多かれ少なかれあると思うんだよな……だから、予防は正直難しいし。一度出来ると、病院に行っても塗り薬出されるくらいなんだよな」

「私が聞いたのは、アトピーの人だったから……あなたに効くかどうかは、解らないけど。でも、少なくともこれ以上悪くはならないと思うわ」


 そう言ってため息をつく恵理の父に、母が提案したのは石鹸シャンプーだった。母の言う通り、個人差はあるだろう。けれど少なくとも父には向いていたようで、頭部や膝に出る赤斑やかさぶたは綺麗に治ってくれた。

 だが石鹸シャンプーのデメリットとして洗浄力が強い分、髪を洗った後に髪がきしんだりごわついたりすることがある。

 髪は本来、弱酸性らしい。それが石鹸シャンプーを使うことでアルカリ性に傾くので、酸性で中和することで、きしみやごわつきがなくなるのだ。

 ……説明が長くなったが、実はティエーラでの洗髪に使われているのも石鹸で。

 つまりは石鹸シャンプー同様、洗髪後はアルカリ性に傾く。だから、中和するには酸性成分が必要なのだ。そして、酸性とくれば。


「お酢なのよ。だから、リン酢ね」

「日本人にだけ通じるネタだよな」

「まあね。でもお酢だけだと匂いが気になるから、お酢一瓶に香草数本入れて二週間放置。これで完成だし、髪はサラサラ。しかも、香草のおかげで良い匂いにもなるしね」

「ネェさん大絶賛だったな」


 台所にいる恵理の言葉に、そう返したのは転生者であるグルナだった。

 ちなみにルーベルはギルドマスターでもあるが、そのキャラと帝都で磨かれたセンスによりロッコの女性達のカリスマ的存在でもある。そんなルーベルが認めたリン酢(『酢』の漢字を当てるのは恵理とグルナだけだが)は即、公衆浴場で使われることが決定した。


「僕としたことが、ギルドマスターの勢いに負けてしまいました……ですが、女神から商品化の許可も出ましたし。まずは、ロッコで販売させて頂きますね」


 帝都でも売れることは間違いないが、まずはロッコの名物として売ろうと思います――そう言って微笑むのは、ティートである。

 一応、断っておくがいくら空き部屋があるとは言え、グルナもティートも恵理の店には泊まっていない。しかしサムエルやミリアム同様、昼や夜を食べるのにこうして来てくれる。

 どんぶり屋自体は、メニューが決まった後に開店したので普段なら他の客もいる。しかし、今夜は恵理とレアン、ティートにサムエルとミリアム、そしてグルナとアマリアだけだ。ルーベルとマテオはそれぞれ仕事や店があるのでいないが、終わったら顔を出してくれることになっている。


「いよいよ、明日からですね」

「うん……だから、今夜はカツ丼。異世界では『勝負事に勝つ』にかけて食べるのよ」


 炊きたてのタイ米の上に、魚醤と酒で味付けしたとんかつとオニョン(玉葱)を、卵で閉じたものを乗せた。恵理が作ったそれを、レアンがかいがいしく給仕する。

 パンがあるのでパン粉にして揚げ物自体は出来るが、客に出す数だけとんかつを揚げるのは夏には堪える(しゃぶしゃぶもあるのでかなり暑い)為、商品化はしていない。けれど、身内だけで楽しむなら問題ない。

 ……そう、レアンの言う通り明日から公衆浴場開店である。

 一応、帝都でも宣伝はしているし、馬車も増やした。だが、まずは近隣の町や村からの客がメインとなるだろう。


(そのお客さんに、次も来て貰えるように……どんぶり屋、頑張るわよ)


 拳を握り、こっそり気合いを入れる恵理を一同は微笑ましく見守った。

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