あれから色々決まりまして
恵理達がロッコの街に来てから、およそ二ヶ月が経過した。
その間に起こったことと言えば、まずは無事にラムしゃぶ丼の異世界での名前が決まったことである。
「そもそも、しゃぶしゃぶが日本独特の言い方だしな……強いて言うなら『レッソ』って言う茹で方が近い。だから、シンプルに『アム(子羊)レッソ丼』はどうだ?」
そのグルナの言葉で、恵理の店のメニューは『アムレッソ丼』と『ラグー丼』に決まった。ちなみに、すっかり暑くなったのでアムレッソ丼は夏仕様(しゃぶしゃぶにした羊肉を、水で冷やしてレタスとご飯に乗せる)である。
そんなグルナは恵理達に宣言した通り、開店してラグーソース(ミートソース)をかけたオムライス改めオムリーゾ(卵料理に『オムレット』があるので、米のリーゾとくっつけた)を出した。ちなみに彼も、男性向けとして魚醤に味噌を加えた挽き肉のガパオライス改め香草リーゾを作った。試食の時、恵理は三度目の(和風ピラフと味噌汁、そしてオムライスに続き)感動を覚えた。
話が逸れたがラグー飯については、グルナの他にも協力してくれることになった。廃坑になったことで飲食店もあと二店しかなく、しかもそれぞれ居酒屋とパン屋だった。グルナの両親の友人夫婦が営む『ともし火亭』。そして、パン屋もグルナの友人の店だ。
居酒屋ではラグーソースをかけたショートパスタの他に、つまみのクロケット(コロッケ)の中のパタタ(じゃがいも)にラグーソースで味つけをしてくれ。パン屋は、グルナが提案してくれたラグーソースとケーゼ(チーズ)をパンに乗せ、この世界では恐らく初の惣菜パンを作ってくれた。
(公衆浴場自体は、無事完成したけど……メニュー考案と、飲み物作りでここまでかかったのよね)
飲み物として目をつけたのは、ロッコで作られているりんご酒である。
ワインはあるが、異世界でもシードルが作られているのかと思ったら――まんまグルナの入れ知恵だった。何でも子供の頃、野生種のりんごを見て(当時はこっちの世界でも未成年だったが)滾って知り合いの男性(『ともし火亭』の主人)を誘導したらしい。
「まあ、とは言っても今までは『ともし火亭』で常連だけが楽しむ程度だったけど……おかげで、りんご酵母やりんご酢も出来たからな」
そんな酵母のおかげで、ロッコのパン屋で日本のようなふかふかのパンが食べられているのは余談である。
ちなみに、りんご酒というと甘いイメージがあるが、ワイン同様発酵に時間をかけると辛口になるそうだ。りんごを植えて育てるの自体はミリアムの魔法ですぐ出来たが、発酵は気温調整くらいしか魔法で操作出来ない。だから女子供が楽しむ甘めのものと、男性も楽しめる辛口のものを、公衆浴場と居酒屋で出す為に時間をかけたのだ。
(あとは、浴場の目玉商品の為にもね)
……ティエーラでは、髪を洗う為の石鹸自体はある。貴族以上は、香草などで香りをつけたものを使っている。
そこに、恵理はりんご酢と香草で作った『リン酢(誤字に非ず)』を提案したのだ。




