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その笑顔が見たいから

グルナ視点

「ありがとう!」


 グルナが頷くと、エリが笑って礼を言った。そして、従業員を迎えに行こうと小屋を出ていこうとする。

 そんな彼女に、ふと思いついてグルナは声をかけた。


「なぁ、名前……エリって、どう書くんだ?」

「ん? ああ、恵みに理科の理で恵理」

「恵理、な。解った」

「良かったら今度、あなたの……前世の名前も、教えてね」

「っ!?」


 問いかけに、エリ――恵理が、肩越しに振り向いて言う。

 そして続けられた言葉に驚いているうちに、恵理はこの世界では珍しいショートボブ(元冒険者と聞けば納得出来るが、髪が短いのは基本幼児か聖職者くらいだ)の黒髪を揺らして立ち去った。

 恵理としては深い意味はなく、ただ自分のように『漢字』を知りたかったのだろう。

 解る、のだが――転生した自分とは違い、転移した恵理は当然だが日本人の容姿をしていて。異世界ティエーラの女性も可愛かったり、綺麗だったりするのだがグルナからすると『外国人』なのだ。同じく外国人の容姿になった自分を棚に上げて何だが、その小柄さ(日本人としては高いが、あくまでもこちらの感覚で)やしなやかな手足、涼しげな目元や肌の滑らかさは目を引くし保護欲をそそる。そんな女性に満面の笑みを向けられ、名前を知りたいと言われれば。


(前世も現世も魔法使い(童○)には、刺激が強すぎる……しかも、巨乳なんて最高としか……っ!?)


 そこまで考えたところで、グルナの背筋に強烈な寒気が走る。

 何事かと焦ったら、叔父であるルーベルが『若旦那』と呼んでいる黒髪眼鏡キャラのティートから、冷ややかを通り越して大寒波な視線を向けられていた。理由わけが解らず戸惑っていると、そんな彼の視線の先でティートが口を開いた。


「女神の美にひれ伏すのは、当然ですが……よこしまな目を向けられるのは、不愉快です」

「えっ!? 俺、そんなあからさまだったか!?」

「ええ」

「鼻の下、伸びてましたね。まぁ、師匠なんで気持ちは解りますけど」

「そんなぁ……」


 思わぬ指摘に慌てるが、ツインテールのロリ少女と金髪の爽やかイケメンにも頷かれて頭を抱えてしゃがみ込む。と、そこでグルナはふと引っかかった。


「まぁ、気をつけるけど……不愉快ってことは、あんたも恵理のこと気になってるの?」


 年下相手に大人気ないが、男同士の気楽な軽口のつもりで聞いてみた。

 ……そんなグルナに、赤くなるどころか眼鏡の奥の青い瞳を更に据わらせてティートが言う。


「くだらないことを言っていないで、早く作って頂けませんか……女神が、あれだけ楽しみにしているんですから」

「お、おう」

「……申し訳ありません。ちょっと、頭を冷やしてきます」


 ピシャリと言われて口ごもりつつも答えると、ティートはそう言って小屋を後にした。謝られたのに戸惑うが、だからと言って何と言うべきか解らず呆然と見送ったグルナの肩を叔父の大きな手がポンと叩く。


「グルナぁ? 謝り返すのも何だから、美味しい料理作りなさいねぇ」

「ネェさん……」

「若旦那の気持ちはちょっと、解らないけどぉ……遠慮することでもないし、まずは頑張ってエリの胃袋掴んじゃいなさいな♪」


 確かにティートの恵理への気持ちが信仰のような憧れか、それとも恋愛なのかは解らない。他の二人に目をやっても、首を横に振られてしまった。恵理を通じての交流はあっても、友人というのとは少し違うのかもしれない。


(でも、ネェさんの言う通り……変に遠慮するのもな。俺が出来るのは、料理これくらいだし……板前修業後、実家の洋食屋で働いてたから和食も洋食もイケるし)


 恵理は自分がチートではないと言っていたが、言語補正や魔法が使えるのは十分、すごいと思う。グルナの場合、火属性は持っているが魔道具なしに魔法を使うほどではない。

 少しだけ普通と違うのは、前世で読んだラノベに倣って魔力循環をやってみたところ、身体強化『だけ』は出来るようになったことだ。おかげで、一人で畑などを耕してもほとんど疲れなかった。


(一目惚れとまでは、言わないけど……女優並みに可愛いし。俺の飯食って、喜んでくれたら嬉しいよな)


 そこまで考えてうん、と頷くとグルナはティートとルーベルに言われた通り、料理作りを始めることにした。

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