当然ながらバレました
かつての勇者が、異世界からの召還者の為、ティエーラには異世界に対して認識自体はある。
ある、のだが――だからこそ『異世界関係=勇者関係』となる可能性があるので、今まで前世が異世界人(地球人)だとは話せなかったとグルナは言った。
「ただ、まぁ……悪い。さっきのアレは、マズかったよな」
「いや……その前の水田作りから、やらかしてると思うわ」
「ちょっ、それ言うならミートソーススパ! あと、都会だからかって良心的に解釈してたけど、トマトスパとかピザもあんただよな!? どっちがやらかしてんだよっ」
「……ちょっと、アレンジしただけだし。マヨネーズは作ってないわ」
「あー……確かに異世界転生・転移では鉄板だよな。だからこそ、俺もそこは自重したわ」
「そうよね……伝説の勇者は、料理にはあんまり感心がなかったのかしらね?」
「……アンタ達ぃ?」
しかし感動の邂逅によりグルナは転生者、そして恵理は転移者だとバレた(グルナは自己申告だが)。
それを、ルーベルが見逃す訳は無く――二人はグルナが畑で使う農具を置いたり、休憩したりする小屋へと連行された。緊張のあまり、ついつい言い合ってしまったが(同じ年と解ったので敬語は使っていない)そんな二人に、やれやれと言うように頬に手を添えたルーベルが声をかけてくる。
「驚いたけど、納得も出来たわぁ……エリの知識とか、グルナのこのスイデンとかねぇ」
「……ネェさん、悪い」
「ヤダ、グルナってば。どうして謝るのぉ?」
「ネェさんに、隠してたから……親父達が亡くなった時も、俺が帝都から戻った時も世話になったのに」
そう言うと、グルナは肩を落として俯いた。ルーベルと違って筋肉はつきにくいようだが、同様に長身なので余計にしょんぼりした感じがする。
「それとこれとは、別でしょう? 大っぴらに言う内容じゃないしぃ……いえ、むしろ! 気づけなかったアタシの方が、ギルマスとしても保護者としても、失格よぉ~」
「そんなっ」
「……だからぁ、おあいこねぇ?」
ルーベルが笑顔で話をまとめると、グルナは顔を上げてホッとしたように笑った。それにつられて頬を緩めたところで、恵理は自分に向けられた視線に気づいた。
「女神……」
「師匠……」
「エリ様……」
「……あ~、えっと……ごめんなさい」
自分もグルナ同様、黙っていた。
いや、そもそもアレン以外に伝えていなかったのは――伝説の勇者とは違うのに、変に期待されて自分自身を見られないことが怖かったからだ。おそらく、グルナも同じ理由で黙っていたのだろう。
とは言え、相手を信じていないと思われても仕方が無い。それ故、恵理はティート達に謝ったのだが。
「「「すごい(です)っ!」」」
「……えっ?」
「謝らないで下さい! 女神が、更に女神だということが解っただけですからっ」
「そうですよ! 師匠、すげぇっ」
「すごいとは思っていましたが……エリ様、流石です」
「…………えっ?」
無茶苦茶好意的に受け入れられたのに、恵理は呆然とした。そんな彼女に、ルーベルが鳶色の隻眼を細めて笑う。
「アタシ達を、舐めるんじゃないわよぉ……もっとも、逆だったらまた話は違うけどねぇ?」
「ルビィさん……」
「アタシ達は、アンタ達を知ってる。それからだと、むしろ好意が加算されるだけよぉ」
その言葉の温かさに、恵理は大きく目を見張り――嘘こそついていなかったが、黙っていたことへの罪悪感が胸の奥で溶けて消えていくのを感じた。
「ありがとなっ! お礼に飯ご馳走するから皆、食ってってくれっ」
そんな中、グルナが満面の笑みで言う。
言われてみると、奥に台所らしきものまであるのが解ったが――続けられた言葉に、恵理は大きく目を見張った。
「大豆はないが、豆とタイ米で味噌作ったんだよ! 完全和食は無理だが、魚醤を使った和風ピラフに、豆と卵の味噌汁作るからっ」
「神っ!! あ、ごめん! うちの従業員にも食べさせたいけど、お願い出来るっ!?」
「おうっ、任せとけっ」
あまりの神メニューの為、頼んだ恵理にグルナは眩しい笑顔で頷いてくれた。




