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この世界で育ち生きる中で

 街道からの入り口。そこから広場を抜け、ルーベルに連れられて反対側からロッコの街を出る。


「二年くらい前に、帝都から戻ってきてねぇ。最初は、居酒屋でもって勧めたんだけどぉ。「まずは、最高の食材から!」とか言って畑やスイデン作りを始めたのよね……あぁ、アレよ~」

「……わぁっ!」


 ルーベルに促された先、一面に広がる畑にはキャベツやえんどう豆などの瑞々しい野菜が並ぶ。それから、初夏ということで青々とした稲が風に揺れるスイデン――水田を見て、恵理は思わず声を上げた。


「すごい……これを、一人で耕されているんですか?」

「種や苗を植える時や、収穫の時は街の子とかに手伝わせてるけどぉ。管理は基本、あの子一人ね~」

「ってか、美味そう!」

「……本当。帝都の市場にも、負けていない出来」


 ティート達もまた、驚きの声を上げる。家庭菜園を想像していたが、ここまで本格的だとは。


(って、言うか……)


 仕事の時に、畑を見たことはある。そしてこの辺りであれば、日本の米ではなくタイ米だと思う。まだ行ったことはないが、ルベルに行けば見られる光景なんだろう。

 そう思うが――かつての故郷でしか見られなかった水田に、恵理の胸は熱くなる。

 こみ上げた郷愁それは、見開いた恵理の目から溢れて一筋、二筋と零れ落ちた。


「女神っ!?」

「……大丈夫。ちょっと、懐かしくて」

「これを」


 いち早く気づき、慌てるティートに笑ってみせる。それから手で目元を擦ろうとした恵理に、ティートが白いハンカチを差し出してきた。子供の頃から知っている相手の紳士的な行動に、心がふんわり温かくなる。


「ありがとう」

「いえ」


 お礼を言って受け取り、そっと濡れた目元を押さえた。

 そんな恵理にサムエルとミリアムも安心し、ルーベルは前を向いて口を開いた。


「グルナ!」


 呼びかけた声の先、陽射し避けの帽子を被ってしゃがんでいた人影が、肩越しに振り返る。


「ネェさん?」

「ちょっと、畑のことでお願いがあるのよぉ。あ、この子は昔……」

「……っ!?」


 ルーベルと同じ赤い髪と、鳶色の瞳。

 年は恵理と同じ、三十歳前後だろうか? 親戚だけあって、体こそ細いが顔立ちはルーベルによく似ている。そう、つまりは日本人ではない。


(甥っ子ってことは、私みたいな転移者じゃない。解ってたつもりだったけど、言ってることややってることは日本人よね)


 今も、ルーベルのことを『オネェ』のニュアンスで呼んでいた。

 そうなると、と思っていた恵理を見て『グルナ』と呼ばれた男性は、鳶色の瞳を大きく見開いて立ち上がった。そして、大股の足取りで恵理へと近づいてくると。


「ニホンジン……だよな?」

「グルナ?」


 戸惑うルーベルを余所に、グルナはぽつりと呟くと恵理同様に、いやもっとボロボロと涙を流した。


「やっぱり、いたんだ……良かった……帝都でミートソーススパ食ってから、いるとは思ってたけど……帝都追い出されてからも、アイドル農家を目標に頑張った甲斐があった……」

「……あなたは」

「ああ、転生者だ」


 それから泣いたまま、恵理の言葉に答えると彫りの深い顔をくしゃっと笑みに歪めた。

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