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第一印象で勝負

 護衛の意味も兼ねていたのか、冒険者ギルドは領主別邸の隣にあった。

 昨日は日も暮れる頃だったので、訪問は今朝にしたのだが――目と鼻の先とまではいかないが、徒歩数分もかからない。それ故、サムエルとミリアムには恵理の店を定宿にし、冒険者ギルドに通えばいいのではと言ったのだが。


「駄目ですよ! 俺達は、従業員じゃないんですから!」

「ええ……けじめです」

「あ、でも、開店したら飯は食いに行きますから!」

「上客の座は、譲りません……たとえ、サムであっても」

「えっ、ミリー、そうなの!?」


 生真面目に辞退した二人だったが、真顔で続けられたミリアムの言葉には途端にサムエルが情けない声を上げた。

 孤児のサムエルと、妾腹とは言え貴族出身のミリアム。その生まれも性格も正反対だが、二人は不思議と馬が合った。普段、寡黙なミリアムだがサムエルには言いたいことを言い、それをサムエルが一喜一憂しつつも受け入れるのだ。

 ……男女の色めいた雰囲気はないが、子犬のじゃれ合いのようなやり取りを思い出し、頬を緩めているうちに恵理達(レアンには留守番を頼んだ)はロッコの冒険者ギルドに到着した。


「「「ようこそ、冒険者ギルドへ!」」」


 そんな彼女達を、明るい声と笑顔で受付嬢達が出迎える。

 基本、冒険者は男社会だ。しかし、だからこそ受付はそんな彼らを優しく癒す女性が勤めることが多い。男尊女卑という見方もあるかもしれないが、恵理としては適材適所。ムサい男に出迎えされるよりは良いと思う。


(ただ、ギルドによっては結婚相手を探す為、男に媚びるタイプが受付にいる場合もあるけど……ここの受付嬢達は、随分と感じが良いわね)


 成人を迎えたばかりや、少し越えたくらいだろうか? 長い髪は綺麗に結い上げられ、化粧もナチュラル。服は制服なのか、白い襟に紺のワンピースを着ている。シンプルなデザインだが、だからこそ受付嬢達のそれぞれの魅力を引き出していた。

 女性からの好感度も高いが、恵理には解る。付き合うなら媚びるタイプもありだが、妻にするのなら男性ウケするのはこういうタイプだ。素なのかビジネスモードなのかは解らないが、この達にとっては得はあっても損はない。


(ギルマスは女性? いや、仮にもAランク以上の女性なら帝都から出さないか、出すとしたら貴族以上に嫁がせる筈。ここは、ミリアムの親御さんの領地だから、それには当てはまらない)


「俺はサムエル、こっちは相棒のミリアムだ。今日から、ここのギルドで世話になりたくて挨拶しに来た」

「私は……」

「彼女は、僕の連れです。ロッコの街興しについて、ギルドマスターとお話出来ればと」


 恵理がそんなことを考えている間に、サムエルとミリアムがそれぞれのランクの確認出来るギルドカードを差し出した。

 運転免許証兼キャッシュカードのようなそれを、今の恵理は持っていない。どう名乗るべきかと思っていたら、察してくれたのかティートが紹介しつつ話を切り出してくれた。


「確認して参ります、お待ち下さいませ」


 受付嬢の一人が席を立ち、一礼する。

 ティエーラには、電話はない。それ故、直接伝えに行くことは当然と言えば当然なのだが――何というか、いちいち可憐だ。おかげで、恵理達が新参者というだけでなく他の冒険者から注目を浴びている。


(あ、でもミリアムも少し幼いけど可愛いから目立つのも当然か)


 ……などと納得した恵理だが、他ならぬ自分も十分目を引いていることには気づいていない。彼女にとって自分は「年増」の「ババア」だからだ。

 そして、そんな恵理を傍らのティートが気遣うように見つめていることにも気づいていなかった。


「その必要はないわ、リコ」

「……ギルドマスター!」


 そんな彼女達にかけられた、声。

 そして、階段を降りて現れた姿に恵理達(ティート以外)はハッと目を見張った。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ギルドマスターの、ルーベルよぉ」

「……ルビィさん?」


 口調は女性だが、その声は艶のあるテノールで。

 年は四十半ば。長身と厚い胸板。短い赤毛に縁取られた彫りの深い顔立ちは、声同様に男性で――しかも、恵理のよく知っている人物だった。思わず、愛称を口にするくらいに。


「あっらぁ! ちょっと、エリじゃない! もしかして、若旦那が言ってた助っ人ってアンタなのぉ!? 世間って、狭いわね~っ」

「お……久しぶっ、りです。ルビィさん」


 一方のルーベルも、鳶色の隻眼を驚きに見開くと――次いで嬉しげに細めると、タックルかと思う勢いで恵理に抱きついてきたのだった。

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