表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/135

少しだけ変わって、続く日常

 そして、ジェラルド達が来てから一か月が経過した。

 出前は元々、恵理の店だけがやっていたので、注文票を入れるポストは恵理の店に置かれていた。

 だが今は貴族の要望に応える為、あとどんぶり店以外の店の出前も引き受けるようになった為、ポストは大浴場に移動した。今まで通り、ロッコの住人も利用するので一刻ごとにポストを見て、出前担当の男性従業員が岡持ちを手に各店舗を回っている。


「お疲れ様ですー。カツ丼二つとオムリーゾ、お持ちしましたー」

「おー、待ってたぞー」

「ありがとうね」


 結果、恵理の店で元々、出前を取っていたローニ達は、他の店の料理も食べられるようになって得していた。更に、あるメニューのおかげで新たな楽しみも出来ていた。


「カツカレー丼は、前日までの『受注生産』だからな。次の仕事明けに、注文出来るよう頑張るぞ」

「はいっ」


 そう、関税こそないが香辛料もそれなりの値段がする。だから常時作るのではなく貴族が来る時、あと注文を受けて作る形にしたのだ。

 そしてご褒美のように提案してくるローニに、カレーの魅力にハマったハールも笑って頷いた。



 朝九の刻(午前九時)に、恵理のどんぶり店は営業を開始する。


「「「おはようございますー」」」


 そして開店と同時に、三人の女性が来店した。恵理とレアンが、それぞれ笑顔で声をかける。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ!」

「「「……あ~、人から言われるの、やっぱりいい……っ」」」


 途端にしみじみと言ったのは、無料馬車で訪れた者達を案内しているドリス達だ。今日はドリスとテレサの他にもう一人、亜麻色の髪を三つ編みにしたメアリもいる。

 接客担当の彼女達は、笑顔で接客されることで癒されると言ってよく店に来てくれる。しかし最近では、と言うかドリスには別の目的も出来ていた。


「お待たせしました! ミート(ラグー)ソース丼と親子丼、あとカツ丼です!」

「「「はーいっ」」」


 レアンが、注文されたどんぶりをそれぞれの前に置いていく。

 ミート(ラグー)ソース丼は、色っぽいテレサに。親子丼は、可愛いメアリに。あと、カツ丼はと言うと。


「美味しい……っ」


 いつものことだが、美味しそうにトンカツを頬張るドリスに、テレサとメアリがツッコミを入れる。


「ドリス、本当に好きよねぇ?」

「確かに美味しいけど毎回、同じもので飽きないの?」

「同じじゃない! 給料日には、カツカレー丼も食べてるからっ」

「「どれだけ、トンカツ好きなの?」」


 聞いていた恵理も、心の中で同じツッコミを入れた。しかも、これだけ頻繁に揚げ物を食べているのに、スレンダーな体型が変わらないのがすごい。


(約束、果たせて……ロッコにいることになって本当、良かった)


 そう思った瞬間、嬉しさに恵理の頬が緩む。

 思えば去年、帝都で冒険者パーティー『獅子の咆哮』を解雇された。恩人であるアレンが作ったのもあるが、自分も冒険者として世話になったパーティーである。かなりこき使われはしたが、他ならぬグイドに解雇されなければ、未だにしがみついていたかもしれない。


(ある意味、恩人なのかしら……いや、そんなこと言ったらあいつ、また調子に乗るわね)


 そんな訳で、グイドのことは踏み台くらいに思うことにする。

 現にあの後、帝都を離れてからレアンを拾い、追いかけてくれたティート達との再会や、日本からの転生者であるグルナとの出会いがあった。そしてどんぶり店を開いて街興しをしたことで、ロッコに来たグイドにも言いたいことが言えた。


(私達の引き抜きも、ヴェロニカ様や殿下達が気に入ってくれたことで収まってくれたし)


 おかげで、休みの度にレアンの手を煩わせることが無くなった。本当にありがたいことである。

 すごい後ろ盾を得た気はするが、彼らに言わせるとカレーを始めとするロッコの料理にはそれだけの力と魅力があると言う。

 他のメニューと違い、カレーを一定数作る為には、定期的に香辛料を買わなければいけない。だが、それこそ冒険者として鍛えたことで武闘会での優勝を掴み取ることが出来た。ちょっと違うかもしれないが、芸は身を助くである。


(あとはリウッツィ商会へのレシピ提供で、少しでも恩返しになればいいわね……お忍びで、殿下達も来てくれているそうだし)


 カツカレー丼のレシピもだが、恵理は他のどんぶりのレシピもリウッツィ商会の店に提供した。それはジェラルドとの約束でもあるが、同時にティエーラに米食を広めるという恵理の目的への第一歩でもある。

 これからも頑張って、皆にたくさん自分の料理を食べて貰おう。

 もっと作ってみたい料理もあるが、あれもこれもと手を出したらどれも中途半端になりそうなので、出来ることから一つずつやっていこう。

 声には出さずに、けれどワクワクと胸を高鳴らせながら決意すると、どんぶり店に新たな客がやって来た。

 それに恵理とレアンは、満面の笑顔で声をかけた。


「「いらっしゃいませ!」」

ここまでお付き合い、ありがとうございました!

書籍分はここまでですが、Web版はもう少し続きます。『続・異世界温泉であったかどんぶりごはん』もよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ