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謝罪と約束と

「……理由を、聞かせて貰っても?」

「私が、皇都を離れた理由はご存じですよね……帝都で、存在を否定された私をこの街は受け入れてくれました」


 そこまで言って頭を上げると、恵理は真っ直ぐにジェラルドの目を見返して話の先を続けた。


「確かに『今』なら、皇都でも受け入れられるかもしれません……ですが、あの時の私を救ってくれたのはロッコです。だから私は、この街に恩返しをしたい」

「……それは、私に不利ではないですか? 過去は変えられません。恩返ししたいと言うのなら、私があなたの代わりにロッコを支援しましょう……それでは、いかがですか?」


 更なる提案に、恵理は黒い瞳を大きく見開いた。

 そこまで買ってくれているとは思わなかった。しかしもし皇太子に支援して貰えるのなら、恵理個人が恩返しするよりもロッコは豊かになるだろう。ロッコのことを考えたら、頷いた方が恩返しになる。

 なる、のだが――そこで恵理は以前、大浴場の従業員であるドリス達に言われたことを思い出した。


「「お願いですっ、ロッコにいて下さい!」」

「勝手なんですけど……どうか、お願いします」

「他のお店もですけど……エリさんのどんぶり店は、私達の癒しなんです」


 そしてしばし考えて、恵理は再びジェラルドに頭を下げた。


「ロッコにいると、約束した人達がいるんです。あとこれは我儘なんですが、私は自分の力で恩返しをしたい。カレーを食べたいのなら、リウッツィ商会の店にレシピを提供します。だから、お願いですから、どうか」

「……残念ですが、そこまで言われてしまえば頷くしかありませんね」


 恵理の言葉に、ジェラルドがそう答えてくれた。頭を上げると小さく、けれど確かに頷いてくれる。

 勝手に決めた為、ついルーベル達に目をやったが、彼らも笑いながら目線で頷いてくれた。それにホッとし、恵理はジェラルドにお礼を言った。


「ありがとうございます!」

「殿下、申し訳ありません!」


 そんな彼女の言葉と共に、立ち上がったヴェロニカがジェラルドに謝罪し、縦ロールの頭を下げた。


「ヴェロニカ嬢? あなたがそんなに、責任を感じなくても……」

「いえ、そうではありませんわ」

「えっ?」

「……わたくしは、エリ先生が殿下の申し出を断ってくれた時、安堵致しました」


 ヴェロニカの言葉に、アレクサンドラ達や護衛の面々がハッとして息を呑む。

 しかし、下手に口を挟んでジェラルドを刺激する訳にもいかず――沈黙の中、ヴェロニカの告白は続いた。


「元々、違和感はあったのです……わたくしのことを、評価して頂いたのは嬉しかったですわ。ですが、わたくしが守りたいのは我が家の領地と領民で……殿下の婚約者、あるいは妃になる場合、特定の領地を贔屓することは許されません。そのことに対する、謝罪でもあります」

「それは、婚約者候補を辞退したいと言うことかな?」

「……はい」


 少し顔を青ざめつつも、ヴェロニカは敬語をやめたジェラルドに、キッパリとそう答えた。

 彼女は、恵理が恩返ししたいロッコを守ろうとしてくれている。それならば自分も、何があろうとヴェロニカを守ろう――そう思い、ルーベルを見ると彼も気持ちは同じだったらしく頷いた。

 そんな恵理達の耳に、思いがけない言葉が飛び込んでくる。


「女性に断られるのは、初めてだよ……しかも、同じ日に二人からもなんて」

「「えっ?」」


 そう言ったのは、ジェラルドだった。そして、思わず声を上げた恵理とヴェロニカにその双眸を細める。


「彼女のは了承して、ヴェロニカ嬢のを不承するのは不公平だよね。それに、確かに婚約者候補としてはヴェロニカ嬢の言う通りだ。もっとも、貴族や領主としてはむしろ望まれる資質だけどね」


 そこで、ジェラルドもまた立ち上がってヴェロニカに頭を下げた。


「話してくれて、ありがとう。両親には、私から伝えておくよ……これからは友人として、そして臣下として私を支えてほしい。よろしく頼むよ」

「……勿論ですわ! わたくしこそ、よろしくお願い致します!」


 ジェラルドの言葉に、ヴェロニカもカーテシーをして頭を下げた。それからお互い、顔を上げて笑い合った。

 そんな二人に恵理達は安堵し、若き皇太子と令嬢――いや、一人の貴族として向き合う姿を温かく見守るのだった。

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