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何で、私はここに?

 月が替わり、一日。大浴場の準備と従業員教育は無事、完了した。

 本格的な再開は来週からだがまずは今日、皇太子達にお披露目する。ちなみに揉み療治や垢すりを教えてくれたアジュール人達は一昨日、ロッコでお土産をたくさん買って帰っていった。今回、てんさい砂糖などを乗せたリウッツィ商会の馬車に同乗したので、来た時のような強行軍ではない。帰りはのんびり、旅を楽しんでくれれば良いと思う。

 そして今、恵理は何故かルーベルとティートと一緒に大浴場の前にいた。


「確かに、来るように言われて頷いたけど……本当、何で私、ここにいるんだろう?」

「それは女神が、街興しの立役者だからじゃないですか」

「今日、エリはお店休みでしょう? 若旦那の言う通りだし、他の人達はお仕事だしねぇ~。ヴェロニカ様も、知った顔がいた方が心強いだろうしぃ? 今日は、よろしくねぇ~」


 恵理の疑問にティートが生真面目に、ルーベルが笑って答えたところで、大浴場の前に四台の馬車が到着した。

 護衛らしい青年が降りた後、先頭の馬車から降りてきたのは十五歳くらいの線の細い美少年だった。サラサラの金髪と、空の青の瞳――アスファル帝国の王太子・ジェラルドだろう。

 他の馬車からも、同様に男女が(ヘルバもいた)降りてくる。そしてヴェロニカと、真っ直ぐな銀髪をなびかせた辺境伯令嬢・アレクサンドラ。そして柔らかそうな黒髪の侯爵令嬢・ソフィアが降りてきた。

 全員同じ年だと聞いているので、今年で十五歳。来年が十六歳で、魔法を使える令息令嬢が通う、魔法学園に進学予定である。


(アレクサンドラ様は凛とした美人さんで、ソフィア様は清楚な可愛い系……あ、でも確かに仲良しさんみたい。三人とも、リンス使ってるもんね)


 自分も使っているからこそ、リンスの使用有無は一目瞭然だ。ヴェロニカを通さなくてもリンスは買えるが、仮に仲が悪ければ少なくとも相手の前では使わない。令嬢以前に、乙女心とはそういうものである。


「ジェラルドです。出迎え、感謝します」

「こちらこそ……よくお越し頂きました。冒険者ギルドマスターの、ルーベルでございます。彼らは、街興しの財源を支えてくれた商人と、色々と斬新な提案をして盛り上げてくれた店主です」

「ティートです」

「エリです」

「一晩、世話になります。よろしく頼みます」

「「「かしこまりました」」」


 身分的には上だが、こちらが年上と言うのもあってかジェラルドは敬語を使っていた。アジュールのサイードはやんちゃな感じで可愛かったが、ジェラルドも幼い貴公子という感じで可愛い。

 そして皇族相手ということもあり、ルーベルは女性言葉は封印していた。ヴェロニカは動じなかったが、確かに初対面の相手には刺激が強すぎるだろう。


(でも、ルビィさんってオネェ言葉やめると、単なるイケメンよね)


 そう恵理が思った通り、精悍な美丈夫であるルーベルに、ヴェロニカ以外の者達は見惚れているようだった。



 正面入口の扉を開けると、階段からの絨毯に沿うように男女の従業員が立って頭を下げていた。声がけがないのは貴族の場合、身分の低い者から高い者に声をかけるのはマナー違反だからである。

 そしてジェラルド達の後方には、彼らの手荷物を持った従業員がいた。

 アイテムボックスを使うのは、旅が多い冒険者や商人だ。そもそも滅多に旅行をしない富裕層は、旅支度も旅行の楽しみと考えている。それ故、富裕層向けの宿では荷物持ちももてなしの一つなのだ。


「……あれは、何ですか?」


 ふと、ジェラルドが階段の手前に置いたものに気づいて、ルーベルに尋ねる。それに、ルーベルは隻眼の瞳を細めて答えた。


「ああ、あれはぁ……あれは、蝋で作った料理の見本です。各部屋にもお品書きはありますが……ロッコには、珍しい食べ物が多いですからぁ……んんっ、ですからね」


 ついつい語尾が伸びそうになるのを咳払いなどで誤魔化しつつ、ルーベルはグルナに作って貰った『食品サンプル』について説明した。

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