おもてなしの為に
本日二話更新します。
話は、少し前に遡る。
恵理達がアジュールに行っている間、大浴場では従業員を増やしていた。そして希望を聞いた上ではあるが、貴族と平民で担当を分けるのではなく、状況によりどちらも対応出来るようルーベルが礼儀作法などを仕込んだ。今までは女性従業員が多かったが、貴族となると男性も来るだろうから今回は男性従業員も指導している。
そんな中、ヴェロニカからルーベルに一通の手紙が届いた。
何でも貴族向けの宿泊施設を作ることに対して、貴族の中からせっかくなので皇太子に視察して貰えばという話が出たそうだ。婚約者候補であるヴェロニカの事業だからという名目だが、大したことがなければ彼女の足を引っ張ろうという魂胆らしい。
「大人数で行っても何なので、殿下とわたくしを含む婚約者候補。あと、それぞれ一名ずつ護衛や側近を連れていくことになります」
ヴェロニカ自身も貴族だが、皇族に絡む内容も書かれているので多分、検閲は受けていると思う。そして以前、彼女は当事者達はともかく代理戦争が起きていると話していた。皇太子がいる中、表立って反対するような者は来ないだろうが――結果が出せなければ、それを理由にヴェロニカは婚約者候補から外されるだろう。
(まあ、前の様子だと実際、候補から外れても平気そうだけどぉ)
だが、それは訪れる者達が大浴場を満足しなかったことを意味している。それはルーベルも、そしてヴェロニカも本意ではない。
「わかったわぁ~。微力ながら精一杯、おもてなしさせて頂くわねぇ~」
それ故、ルーベルはヴェロニカの手紙への返事にそう書いて(言葉遣いは変えているが)蝋で封をした。それから決意を込めてチュッ、と投げキッスを送った。
※
そして恵理達がアジュール人達を連れてきてくれたので、ルーベルはアスファル帝国では初になる垢すりや揉み療治の講習を始めた。
「……これはぁ、最高ねぇ~」
練習台になったルーベルは浴槽で温まった後、香草の香りに包まれながら蒸し風呂で汗を流し、垢すりや揉み療治をアジュール人から受けた。
自分でもある程度は体調管理に気をつけていが、こうして施術を受けると意識していなかった疲労や不調が洗い流されほぐされて、癒されていくのを感じる。『療治』とはよく言ったものだ。
「あと十日、水の月の一日にヴェロニカ様や殿下達が来るわよぉ~。皆、頑張ってこのもてなし方を覚えて、お客様をメロメロにしましょうねぇ~」
「「「は、はい!」」」
長椅子に伏せながら、隻眼で色気のある流し目を向けて言ったルーベルに――男女共に顔を赤くしつつも、従業員達は背筋を伸ばして元気よく返事をした。
 




