表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/135

それぞれの前進

 アルゴとサイードがカレーを食べきったのに、エリは安心したように笑って、商人達と共に部屋を後にした。

 他の料理があるので、サイードはまだアルゴの部屋で食事をしている。仮にも王子なので今回限りだろうが、王宮に来てからアルゴは一人で食事をとっていたので、サイード一人増えただけでも賑やかだと思った。


(剣闘士の宿舎にいた時は、もっと大所帯だったしな)


 一人でも気にならないが、別に好きな訳でもない――そこまで考えて、アルゴは口の中の料理を飲み込んだ後、サイードに話しかけた。


「食客を辞めて、元の宿舎に戻ろうと思う」

「アルゴ?」

「武闘会では完敗だった。しかも、魔法を使われていないのに、だ……俺も、まだまだだ。もっと、精進しなければ」

「王宮にいたら、精進出来ないのか?」

「……敗者がそもそも、王族の食客では駄目だろう?」


 言い難いかと思ってアルゴから切り出したが、どうも通じていない気がする。だから、と辞する理由を告げたら、サイードが拗ねたように唇を尖らせた。


「確かに、エリは強い。だが、僕は別に魔法剣士が欲しい訳ではない。魔法は、魔法使いに任せれば良いからな」

「殿下……」

「あと、剣士なら誰でも良い訳じゃない。僕が選んだ剣士は、お前だ……敗者では駄目だと言うのなら、もう二度と負けるな。それで良い」


 偉そうに難しいことを言うと思ったが、そもそも王族なので偉いのだと思い直す。そして再び負けた気になりつつも、アルゴは誓いの言葉を口にした。


「ああ、もう二度と負けん」


 ……四年後の武闘会で、アルゴは優勝し剣闘士を引退する。

 その後、サイードの護衛となるのだが――それはまた、別の話である。



 次の日の朝、ロッコに戻る為に来た時同様、恵理達は馬車に乗って旅立った。

 ……来た時と少し違うのは、ティートとミリアムが武闘会での賭けの報酬を得たこと。あと揉み療治を教える為の使用人達が乗っていることもだが、何故かガータが馬に乗ってついてきたことである。王都を出るまで、と言われたが、優勝してもまだエリは信用されていないのだろうか。

 こっそりため息をついたところで、不意に馬車が止まる。

 まだ、王都の門を出て間もない。何事かと思い、恵理が馬車から御者席に出ようとしたところで、ガータの声が凛と響いた。


「アジュールの恥を、晒すんじゃない! 立ち去れ!」

「他国民の、お前が言うなっ」

「その女がいなければ、士官出来る筈だったんだ!」

「私の時も、あったがな……立ち去らんのなら、力づくで追い返すのみっ」


 どこかで聞いたような声に対して、ガータが一喝する。

 その内容に焦り、ティートが座る御者席に出たところで、声同様に知っている――と言うか、武闘会で恵理達に絡んできて負けた男達だと気づく。優勝した恵理への、逆恨みという訳か。


(この襲撃を心配して、ついて来てくれたの?)


 助っ人を頼んだのか、馬車の行く手を十人くらいの男達が阻んでいる。もっとも、ガータの方が強いらしく見る間に剣を弾き飛ばし、馬で蹴散らしていたが――武闘会で恵理に魔法で攻撃するも敗れたカリルが、キッと顔を上げて口を開いた。


「我が手に炎よ、集い来たれ、敵を貫け……炎射矢ヴァンアロー!」


 そうカリルが唱えた刹那、背後に現れた炎が矢となって、目標――ガータへと、放たれる。だが威力を考えてか、呪文をしっかり長々と詠唱してくれたので助かった。


氷槍アイスランス!」


 カリルの魔法を察知し、恵理が短く唱えると幾数の氷の槍が放たれ、そのうちの一本がガータへの炎の矢とぶつかって消え去った。残りの氷の槍はと言うと、カリルを取り囲むように地面へと突き刺さる。


「あんな短い詠唱で、あれだけの数と精度……武術だけではなく、魔法もこれ程使えるとは」


 恵理の魔法に助けられたガータが、感心したように言う。

 一方、反撃されたカリルからすれば、しっかり詠唱さえすれば負けないと思っていたのに、全く歯が立たないことに青ざめる。そんなカリルと、次は自分達が魔法で攻撃されるのかと後退る男達を、恵理は冷ややかに一瞥した。


「ひっ!?」

「まだやる?」

「「「ば、化け物だっ」」」


 そんな捨て台詞を吐いて、カリル達は逃げ去った。やれやれ、と呆れていると馬から降りてきたガータが、御者席の恵理に向かって深々と頭を下げた。


「すまなかった。お前のことを、見くびっていた」

「そんな……謝らないで下さい」

「いや、人で女性だからと決めつけてしまっていた……アジュールに来る時に、闘えると証明してくれたのにな。武闘会での活躍を見て、考えを改めた」

「……ガータさん」

「さっきのような馬鹿な輩がいるから、ここまでついてきたが……お前は強いし、魔法も使える。だから、ここからお前達を見送ろう。本当に、すまなかった。そして、助けてくれてありがとう」


 そこで一旦、言葉を切るとガータは顔を上げて恵理に言った。


「これからもレアンを、よろしく頼む」


 認めてくれたからこその言葉に、驚いて目を見張り――次いで笑みに細めると、恵理はキッパリとガータに答えた。


「はい、頑張ります!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ