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美味しいがいっぱい

 レシピを伝えた後、恵理のカレーは他の料理と共に、使用人達によって運ばれることになった。

 少し申し訳なく思いつつも、使用人達の仕事を取るのも気が引ける。だから運ぶのは使用人に任せ、サイード達に挨拶だけしてガータの屋敷に戻ろうと、恵理はアルゴの部屋に行くことにした。


「女神!」

「ティート、終わったの?」

「はい。実に、有意義な話が出来ました」

「ええ……おかげさまで」


 途中、アジュールの商人との話を終えたティートと会った。ティートは満足したように微笑んでいるが、隣の商人はと言うと笑ってこそいるが何だか疲れているようにも見える。恰幅が良く、年もティートより一回り以上は上だと思うが、ティートの笑顔でゴリゴリと押しまくる強さに、色々とやられたのかもしれない。


「殿下にお礼を伝えてから、辞するつもりだったのです」

「そうなの? 私もカレーを食べて貰ったら戻るつもりだったから、よければ一緒に戻りましょうか?」

「カレーを出すのですか? それは良いですね!」

「ええ……あ、料理人の人に聞かれて、レシピ教えたんだけど……まずかった?」

「大丈夫です。一昨日、ご馳走になった後に申請手続きは取っています。だから悪用されることはないですし、香辛料がたくさん使えるのでむしろ、面白い発展をするかもしれませんね」

「ありがとう」

「カレー? これから、殿下達に献上する料理の名前ですか?」

「ええ。香辛料を使って、肉や野菜と煮込んで、リーゾの上にかけるんです」

「ほう! それはそれは」


 歩きながらのティートと恵理の会話に、疲れていた商人が興味を惹かれたように入ってくる。

 少しでも、気がまぎれたのなら良かった。そう思っているうちに、恵理はアルゴの部屋に到着した。



「スープ? ソース?」

「解らんが、美味い」

「……そうだな。これだけでも美味しいが、卵と食べても、リーゾと食べても……うん、美味しい」


 サイードが不思議そうに見つめている横で、アルゴが口に運んでボソリと呟く。それを見て、サイードもまた口を運び――そこから、スプーンと「美味しい」が止まらなくなった。

 口に合って良かった、と恵理が思っていると、サイードが恵理達が来たことに気づいた。


「エリ! 美味しく珍しい料理を、感謝する!」

「恐れ入ります」

「異国でも、こういう風に香辛料を使った料理があるのだな……そなた達も、話は終わったか? 色々大変だと思うが、よろしく頼む」

「「かしこまりました」」


 お礼を言われて労われたのに、恵理とティート達はそれぞれ頭を下げた。異国は、厳密には異世界の日本なのだが、藪蛇にならないように恵理は黙っていることにする。

 そんなサイードの隣で、ふとアルゴの手が止まる。恵理がどうしたのかと思っていると、運ばれた他の料理の皿に手を伸ばした。

 スプーンで掬ったのは、ガータの家でも食べた料理だ。砕いた小麦を一度茹でてから乾燥させたブルクルと挽き肉で生地を作り、中に炒めて味付けをした挽き肉を入れたクッベという料理である。色んな食べ方があるらしいが、ガータの家や王宮では揚げたものを出している。それを見て、恵理が揚げ餃子だと思ったのは内緒だ。

 ……そんな揚げクッベを、アルゴはカレーの上に乗せた。

 それから、カレーとタイ米と一緒に口に運び――咀嚼し、飲み込んだ後、うん、と大きく頷いた。


「美味いものと美味いものを合わせると、より美味い」

「なるほど! 僕もやってみようっ」


 真面目に面白いことを言っているアルゴに、サイードが感心したように頷いて揚げクッベをカレーと食べる。美味しかったらしく、黒い瞳を輝かせたが――そこで、申し訳なさそうに恵理を見た。


「すまぬ。出されたものに、手を加えた」

「いえ。故郷でもそうやって、トッピ……付け合わせと一緒に、食べますから」

「美味かった。卵を焼いたのと食べても、美味かった……また、食べたい」

「ありがとうございます。厨房の方々にカレーのレシピを渡したので、よければまた召し上がって下さいね」

「感謝する……そして、アルゴ。いきなり、料理人の料理に手を加えるな。僕も気をつけるが、せめて先に確認してからにしろ」

「……すまなかった」

「いえ」


 アレンジしたことを謝るサイードに、恵理は気にしないようにと説明した。それこそトッピングを否定したら、日本のカレーチェーン店が困ってしまう。

 そんな生真面目なサイードの横で、真面目ではあるがマイペースにアルゴが言った。それに恵理がお礼を言うと、そんなアルゴをサイードが窘める。確かに恵理は気にしないが、人によっては気にするだろう。ちょっと違うかもしれないが、味わう前にソースなどの調味料をかけられるようなものだ。

 ただ、くり返すが恵理は全く気にならない。むしろ、大の男が子供に叱られて、謝ってくるのを微笑ましく思っている。

 ……そこでふと、恵理はあることを思いついた。

 そしてロッコに戻ったら、早速、作ってみようと心に誓った。

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