色々と、似た者同士
本日二話更新です。
「ファアル!」
「ファアル!」
サムエルとアルゴが闘技場に出ると、アルゴに対していくつもの声援が上がった。
「これが、師匠の言う『アウェー』か」
異世界での、元々の言葉の意味は『敵地』らしい。そしてそこから、異国や特定の集団の中で話し相手になる人がいない場合や、周りが全員敵である場合に用いられるらしい。
(あ、でも『全員』ではないか)
サムエルは目が良い。だから闘技場で視線を巡らせると、相棒であるミリアムを見つけることは容易い。
大きな声こそ上げないが、その小さな手を組んでサムエルの無事と勝利を祈っている。そこまでじゃないにしろ、ガータやティートもサムエルが負けることは望んではいない。それは闘いを終え、離れた場所にいるエリとレアンもだ。
(敵以外が五人もいりゃあ、アウェーじゃねぇな)
元々、あれこれ考える性質ではないが、何となくモヤモヤすることもある。けれど、自分なりにストンと落ちると色々とスッキリする。
だから、その気持ちのままに笑みを浮かべると――開始の声と共に駆け出し、右手で剣を大きく振り上げた。
当然とばかりに、アルゴが両手にそれぞれ持った曲刀の一方で斬りかかってくる。そしていつものアルゴの闘いとは逆に、曲刀の切っ先がサムエルの腹を掠ったのだが。
「……貰った!」
「っ!?」
そこでサムエルは、剣を左手に持ち替えてから空いた手で曲刀の刃に肘鉄を打ち込んだ。それと同時に、剣を横に薙ぎ払う。
それに、アルゴは肘鉄を食らった曲刀から手を放し、サムエルから距離を取って後方へと跳んだ。そんなアルゴに、腹から血を流しつつもサムエルはアルゴから奪った曲刀を手に取った。
「腹の皮一枚で、剣一振り……これなら体、張るよなぁ?」
「……相手の武器を奪う辺り、お前の方が悪人じゃないか? そもそも、曲刀は使えるのか?」
「ご心配、ありがと……よ!」
そんなやり取りを交わしながら、サムエルは左手に持ったままの直剣で今度は突きを放った。
アルゴはその切っ先を払うのではなく、逆に突っ込むように飛び込んできた。そして腕を掠り、血を流しつつも下から上へと曲刀を振り上げる。
……それをアルゴから奪った曲刀で受け止めると、サムエルは突いていた直剣を振り上げた。
けれど、それが振り下ろされる前にアルゴは再び距離を取り――表情こそ変えないが、感心したように呟いた。
「確かに、あんたの心配をしてる場合じゃない」
「そうそう」
「……だからと言って、負ける訳にもいかない」
サムエルにと言うより自分に言い聞かせるように呟くと、アルゴは再びサムエルへと突進した。
そして今度は右手の曲刀を振り上げてくるのを今度も避けず、けれど代わりに自分の曲刀から手を離して両手で振り下ろした刃を受け止めた。
刹那、腹に蹴りを入れてくるアルゴから、サムエルは受け止められた曲刀から手を離して飛びのいた。そんなサムエルの視線の先で、アルゴもまた取り戻した曲刀と落とした曲刀、二振りを手に取ってサムエルから離れた。
「これで、元通りだ」
「……人のこと言えないけど、危なっかしい闘い方するなぁ」
「だから、武器が足りない状態だと落ち着かないんだ」
血を流しながらもしれっと言うアルゴに、何となく相棒のミリアムを思い出し――瞬間、無謀なサムエルを責めるように斬られた腹が痛み、サムエルは心の中で呟いた。
(痛ぇ……長くは、持たなそうだな)
 




