店長vs従業員
剣と拳で闘うと言うのもだが、闘い方にも色々あるのでアジュールの武闘会は、異種格闘技戦だと恵理は思う。テレビ中継すれば盛り上がりそうだが、あいにくティエーラにはテレビ局と言うか、そもそも映像技術がない。
(全くない訳ではないんだけどね……勇者が発案した技術で皇族や王族が、各地に映像と音声を届けることは出来るらしいけど……膨大な魔力を使うらしいから、テレビみたいな普段使いは無理なのよね)
それ故、ティートが考えたのはルベル公国やアスファル帝国から、アジュールに来て武闘会を観ることらしい。話を聞いた時は「え、それって観戦ツアーじゃない!」と驚きつつも感心したが。
(日本でもオリンピックとかワールドカップで、外国行ってたものね……でも異世界で、そういう発想が出来るのって本当、すごいわ)
国を出て他国に行くのは、職を求めてか商いの為だ。
けれどティートは、国内ではあるが皇都からロッコに温泉や食事、それから買い物の為に人が訪れているのを見て思いついたのだろう。移動手段と宿泊地の問題はあるが、逆に言えばそこさえクリアすれば次か、その次の武闘会の時に実現しそうな気がする。
(観客としてもだけど、私達みたいに参加者も来るようになるかもね)
そう結論付けたところで、闘技場へ出るように声がかかる。そして控え室を出ようとすると、一緒に席を立ったレアンから声をかけられた。
「店長、今日はよろしくお願いします」
「……こちらこそ」
レアンの言葉に答えつつ、恵理は再び考える。
異種格闘技と言えば、レアンともそうだ。剣は使わずに闘うが、レアンはパンチなのでボクサータイプ。そして恵理は、投げ技や蹴りを使うので――当てはめるとしたら、柔道と空手だろうか?
(レアンとだと、投げ技はあんまり使えないかしらね。投げ技の場合、まず相手の懐に入らなくちゃいけないから、先にレアンのパンチがきちゃう……となると、蹴りか)
しかし今までの闘いを見ていると、身体強化で相手の攻撃を受けて動きを止めてから、拳を振るっている。そう考えると、ただ蹴るだけでは同じ展開になりそうだ。
(……それなら)
心の中で一つ頷くと、恵理はレアンと共に闘技場へと踏み出した。それから互いに一礼し、開始の声を合図にレアンへと突進した。
跳躍し、その勢いに乗ってレアンへと右脚で蹴りを放つ。
「うわっ!?」
そして予想通り、身体強化された腕でしっかり阻んだところで、恵理は動きを止めなかった。逆に全体重をかけながら己の体を一回転させ、その動きで僅かだが体勢を崩したレアンに再度、蹴りかかった。
「……まだまだっ」
「っ!?」
だが、声を上げながらレアンが再び、強化した片腕で恵理の蹴りを受け止めたのに――驚きつつも、恵理はその腕を蹴ることで後方に跳び、距離を取って着地した。そして、ニッと唇の端を上げてレアンに言った。
「そうね、私もまだまだよ」
 




