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異世界温泉であったかどんぶりごはん(旧題:パーティーを解雇されたアラサー女子はどんぶり屋を開く)  作者: 渡里あずま
第二部

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色んな力

 カレーライスを作って貰った後、ティートはエリにレシピを書いて貰った。それを部屋で眺めながら、ティートはポツリと呟いた。


「香辛料は必須ですが……それ以外の食材は商会とロッコで十分、手に入りますね」

「その香辛料が、大変なんだろう? でも、優勝して手に入るようになったら……さっきのうまいのが、また食べられるんだよなぁ」


 リーゾはルベルで手に入るし、小麦粉や具となる野菜はアスファル帝国にもある。だが確かにサムエルの言う通り、香辛料を定期的に手に入れることが難関なのだ。


「店長もですけど……俺達も、頑張りますね。だから、どうかティートさんの力を貸して下さい」

「……僕の? 僕には、闘う力は」

「商人としての力です。そこにあっても、お金や運ぶ為の乗り物やアイテムボックスがないとそもそも買えません。だから……手に入りやすくなるよう頑張りますから、ティートさんも一緒に頑張りましょう!」

「……だな! 俺らも、出来ることはするからさ……カツ丼の次はカレーライス、頑張ろうぜ!」


 犬耳をピンっと立て、両手を拳にしてレアンは言った。そしてサムエルも、気合いを示すようにグッと親指を立てて宣言した。

 ……他国で、屈強な男達を叩きのめすような強者つわものなのに。彼らは闘えないからと馬鹿にはせず、逆に商人としてのティートを高く評価してくれている。

 そんな二人に、眼鏡の奥の瞳を細めて――笑って、ティートは頷いた。


「はい、頑張ります」



 元々、カレーを作ったのは今日と明日の闘いに対して、モチベーションを上げる為だったが――昨日、恵理はガータと話して更に気合いが入った。


(簡単に死ぬ……否定はしないけど、こっちも異世界で歯食いしばって生きてきたアラサーなのよね)


 ミリアムが起きる前、朝の光の中で拳を握った恵理だったがそこでつ、と眉を寄せる。


(その証明の為に、レアンとの闘いを利用……するつもりはないけど、結果的にそうなっちゃった)


 頭を抱えて、ため息をつく。年は取ったが、やっていることはむしろ子供だ。昨日、反射的に言い返した後にそのことに気づいて猛省し、こっそり呼び出して謝るとレアンに言われたのだ。


「……俺が遠慮したらガータ姉は余計、意地になるでしょうから。お互い、精一杯に頑張りましょうね」

「レアン……」

「ただし! 店長の対応は、ガータ姉には適切だったと思いますけど……今度、同じことがあったらもう少し穏やかに証明しましょう? 喧嘩じゃないにしろ、俺達がやるのって殴り合いですから」

「う……はい」


 レアンの言い分は、正しかった。恵理より一回り以上、それこそ半分くらい若いのに、文句の付け所が全くなかった。

 そんな彼に小首を傾げるようにして見上げられ、たしなめるような笑顔を向けられたのに――恵理は反論出来ず、体を縮めながら返事をしたのだった。


(腕っぷしだけじゃなく、レアンは強いわよね……うん、私も頑張ろう)


 そして抱えていた頭を上げ、そう結論付けると恵理は寝台を降りて、ミリアムを起こさないように気をつけながら柔軟を始めた。

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