体が、作り方を覚えていました
アルゴの試合が終わったのは、まだ日が高い頃だった。
もてなしの他、厨房に入るのもあって恵理達は風呂に入った。それから、夕食の支度をしている料理人から材料を貰い、竈を借りていよいよカレーを作ることにした。
ちなみに、ティート達には完成品を食べてほしいので厨房にいるのは恵理だけである。もっとも気になるのか他の料理人や、料理を運ぶ使用人がチラチラと恵理を見ているが。
(香辛料を使うところまでは、同じだろうけど)
そう思いながら、まずは香辛料をフライパン(以前は鉄鍋で代用していたが、ローニに頼んで作って貰った)に入れて混ぜる。
魔石を使うタイプの竈ではないので、火力の微調整は出来ない。ただ、竈を一つ借りられただけでもありがたいので、焦げないよう気をつけながら香りがたつまで炒めた。本来なら、一か月くらい寝かせるのだが――今回は、粗熱を取るだけ取ったらすぐ使うことにした。美味しく頂くので、何とぞ勘弁してほしい。
そんな訳で、カレー粉の粗熱を取っている間に豚肉と野菜を切っていく。
まずは肉を食べやすい大きさに切り、塩と胡椒で下味をつけた。アスファル帝国だと胡椒も高くてなかなか使えないが、アジュール内では香辛料同様に普段使いされている。
それから玉ねぎを繊維に沿って薄切り。じゃがいもとにんじんは、肉同様に食べやすい大きさに切った。具は大きめで、ゴロゴロと入っているのが恵理の好みだ。それから、アイテムボックスから味つけに使っているおろしにんにくとおろししょうがを取り出す。
(今回、材料費を受け取って貰えなかったから、あんまり余分には作れないけど……今日、うまくいったら香辛料多めに買って、グルナにも分けようかしら)
用意して貰った香辛料は最低限、カレーを構成する組み合わせだが他の香辛料を足すことで、また違った味わいが楽しめることを恵理は知っている。母が好きで、自分好みに色々と試して作っていたからだ。
(お母さんみたいに、グルナもご機嫌で調合しそうね)
そう思い、知らず頬を緩めながら恵理は別の鍋をアイテムボックスから取り出した。
油を入れて、まずは玉ねぎをあめ色になるまでよく炒める。
それからおろしにんにくとおろししょうがを入れ、次に豚肉とにんじん、じゃがいもを加えて炒める。そして恵理は、鍋に水とコンソメを入れて灰汁を取りながら煮ていった。
(いよいよ……いよいよ、ここにカレーを!)
逸る気持ちを、恵理は必死に抑えた。このままでは、焦って焦がしてしまいそうだ。
一旦、鍋を避けてから洗ったフライパンにバターを熱し、小麦粉を入れて焦がさないように注意しながら炒める。薄茶色に色づいたところで、火を止めてカレー粉を加えて混ぜる。
それから、肉と野菜を煮た鍋にフライパンの中身を少しずつ入れて溶かし、味見をした。
……調理実習の後、母親に頼んで家でも作った。父親が喜んでくれたのが嬉しくて、母親にカレー粉から作り方を教わるのも楽しかった。その度に、こうして味見をして恵理の家の食卓に出した。
かつて日本で、そして家で食べたカレーの味に、目頭を熱くしつつ――恵理はカレーの鍋を避けてタイ米を炊き、最後にカレーを一煮立ちさせた。
器にタイ米を盛り、その上からカレーをかけて完成である。
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