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躊躇と決断

 話は、少し前――エリが闘っている最中に、遡る。


「うわぁ……店長、すごいなぁ」


 レアンは、大柄な男を投げ飛ばしたエリに、感心したような声を上げた。

 強いと解っているつもりだった。だがあれだけ闘えるのならもう、レアンが頑張らなくても良いのではないだろうか。


(今日の闘いに、勝ったら……店長と、闘うことになる)


 闘う前から、傲慢かもしれない。

 ただ勝ち負け以前に、恩人であるエリと闘うことにレアンは引っかかっていた。もちろん万が一のことがあるし、あれだけエリが作りたいと言っている新メニューの為に闘うこと自体に抵抗はない。だから、昨日の闘いの時はこんな風には考えなかったのだが。


(……つまり、今日の闘いで負けたら)


 エリと闘わなくて済む。

 それは、とても魅力的だと思った。けれど刹那、脳裏にガータの怒った顔が浮かぶ。


(ガータ姉にはよく、叱られたっけ)


 獣人は差別を受け、一方で搾取される。

 だから里から出る出ないに限らず、獣人は子供の頃から自分の身を守れるよう訓練する。それはレアンも同様だったが、彼を鍛えてくれたガータからはよく怒られた。


「躊躇するな、レアン!」

「でも……」

「お前は強い! だがその強さで誰かを守れても、肝心なところで身を引いたり迷ったりすると『お前』が危険な目にあうんだぞっ」


 その言葉を痛感したのは、里を出て奴隷商人に捕まった時だった。

 叱られこそしたが、レアンの強さはガータのお墨付きである。そんなレアンが奴隷商人に捕まったのは、エリに話したように空腹だったから『だけではない』。捕まる時、反撃して相手が傷つくことに躊躇してしまったのである。


(この闘いは、殺す訳じゃない。でも万が一、当たり所が悪くて店長に何かあったら……)


 こんな気持ちでは、闘えない。それこそ、棄権した方が良いのではないか。そこまで、レアンが思いつめて犬耳を伏せた時である。


「……しんどいかもだけど、師匠に遠慮して棄権とか降参はやめとけよ?」


 不意に、レアンの隣でエリの闘いを見ていたサムエルが声をかけてきた。心を読まれたのかと、驚いて顔を上げたレアンにサムエルが肩を竦める。


「『獅子の咆哮』でも、たまにいたんだよ……でも、そんなことしたらもう二度と、師匠に頼られなくなるぞ」

「っ!?」

「元リーダーは……色々あったのもあって、鉄拳制裁で向き合ってたけど。他の奴らは『庇護対象』になった。ただ優しく教えて、接するだけ……師匠に、悪気はないと思う。でも、そうやって見限られるってか……壁作られるの、嫌だろ?」

「……はい」

「逆に、精一杯向き合えば結果はともあれ、師匠はちゃんと認めてくれる……鏡みたいな人なんだよ、師匠は」


 そう言って、サムエルはまたエリの闘いに目をやった。つられてレアンもエリを見ると、蹴られたらしい男が派手に倒れて動けなくなった。

 ……何と言うか、あれこれ考えても仕方ないというか、色々と吹っ切れた。


「……胸を借りるつもりで、頑張ります」

「おお、頑張れ」

「ありがとうございます」


 サムエルに伝えてお礼を言うと、レアンは闘う為にと闘技場へと踏み出した。

 そして今回は剣士の相手だったが、身体強化で振り下ろされた剣を左腕で振り払い、相手が素手になったところで右頬に思い切り拳を打ち込んで吹っ飛ばしたのである。

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