柔道? いえ、勇者流格闘術です。
本日二話更新。二話目です。
恵理の前に立ち塞がったのは、アジュール人よりも黒い肌をしていて、髪はくせのある短髪。大柄で筋肉隆々の――日本で、格闘技の番組で見たような男だった。その肉体美を誇示する為か、上半身は裸で、下にはゆるやかな白いズボンを穿いている。
(アジュールでは、他国から攫って奴隷にするんだった)
武器はないので、その恵まれた身長やリーチで攻撃してくると思われる。
ならば、と恵理は抜いていた剣をおもむろに腰の鞘へと収めた。それから、戸惑った表情を見せてくる対戦相手に対して、腰を落として構えを取った。
「な、舐めるなぁ!」
異世界補正――なだけではなく、ティエーラは多少の方言はあるが基本、言語が統一しているので自国以外、更には亜人でも基本、言葉は通じる。
そして開始の言葉は、相手からの怒鳴り声で遮られた。もっとも、すぐに握られた拳が振り下ろされたので恵理としては反撃するだけである。
「……しゃっ!」
「なぁっ!?」
相手の拳を避けつつ、恵理はその腕の下に回り込んだ勢いを活かして、気合と共に投げ飛ばした。
柔道のようだが、少し違う。これは、かつての伝説の勇者が伝えたという格闘術だ。だから恵理も『獅子の咆哮』で、この勇者流格闘術の使い手に習ったのである。
勇者は異世界から召喚されたそうなので、結果的には柔道だと思うが――恵理は投げ技の他に、ティエーラで覚えた蹴り技も使う。拳での殴り合いは体格や腕力的に不利なので、それ以外の自分に合った体術を覚えた結果、色々攻撃の手数が増えた。
「くっ……まだまだっ」
「遅い」
「ぐはっ!」
地面に転がった相手が、それでもすぐ立ち上がろうとする。もっとも、それをわざわざ待ってあげる恵理ではない。すぐに男の顎を蹴り上げた。
再び、今度は仰向けで倒れた相手は受け身を取れず、後頭部を直撃したせいか目を閉じて起き上がってはこなかった。
前回同様、早々に終わった闘いに――しばしの沈黙の後、闘技場には割れんばかりの歓声が起こったのである。
※
「……おい」
「何でしょう?」
「彼女は何故、料理人なんてやってるんだ?」
「…………」
「それは、女神の昔からの夢だからですね」
ガータの『なんて』という言葉に一瞬、けれど確かにミリアムが眉を寄せたが――ティートは、笑って彼女の問いかけに答えた。
「冒険者も保護者の方への恩返しにと頑張っていましたし、だからこそあれだけ強くなりましたけど……昨日の夜、話したみたいに料理も好きなんです」
「料理の為に、あそこまで闘うとは……」
「ええ、でも」
そこで一旦、言葉を切ってティートは微笑んだまま言葉を続けた。
「僕としては、この武闘会は嬉しいです……今までの女神の頑張りが、こうして新メニューの為になりますからね」
「ん」
そんなティートの横で、ミリアムは我が意を得たりとばかりに大きく頷いたのだった。
 




