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異名とその意味

「流石、サム。容赦ない」

「見た目爽やかですけど、力技で相手の弱いところを的確に攻めますよね」

「……お前達のそれは、褒めているのか?」

「ん」

「はい」

「そうか……」


 ミリアムの言葉にティートが頷いていると、ガータがそんなことを尋ねてきた。それに二人で頷くと、ガータはそれだけ言って果実水を飲んだ。


「でも、さっきの人も言ってましたけど今回、女神達が勝つことは他の参加者や観客にとっては面白くないのでしょうか?」

「まあ、アジュールの行事だからな……だが、参加者はともかく観客はそれ程気にしていないと思うぞ? 強者が出て、面白ければそれでいい」

「いっそ、清々しい」

「そうですね」


 ガータの答えに、ミリアムとティートはそれぞれ頷いた。そんな二人にそれに、とガータが言葉を続ける。


「アルゴがいるから、と言うのもあるな。いくら異国の新参者が活躍しても、あの『ファアル』がいるなら大丈夫。そう思っているだろう」

「異名持ちですか……どんな意味ですか? そしてそんなに、そのアルゴと言う方は強いんですか?」

「エリ様達も、強い」

「『ファアル』とはアジュールの古語で、ネズミのことだ……強さについては、闘いを観たら解る」


 そう言うと、ガータは緑の眼差しを闘技場へと向けた。

 それに従って、ティート達も目をやると――腰に二振りの曲刀を佩いた、傷だらけの男が現れた。



 アルゴの対戦相手は、倍以上縦も横も大きい男だった。


「ネズミ風情が、分不相応なモン手にしやがって……俺が、現実を思い知らせてやるよっ」


 そう言って、開始の合図と共に曲刀を振り下ろしてくる男に、アルゴは構わず突っ込んだ。そうすることで、頬や腕が斬られて血が流れる。

「なっ!?」

「今更、そんな反応をするな」


 攻撃を避けずに相手の間合いに突進するこの闘い方は、アルゴの定番だ。その姿が追い詰められ、逃げ場を失ったネズミを思わせ――そんな彼が、猫に噛みつくように強者を倒すのでいつしか『ファアル』と呼ばれるようになったのである。

 もっとも、頭で解っていてもこうして実際、血を流すのを見ると目の前の男のように怯む者が多い。


(俺としては、勝率が上がるから望むところだ)


 そう心の中だけで呟いて、アルゴは左手に持った曲刀で男の剣を弾き、右手に持った曲刀を相手の喉元に押し付けた。下手に動くと、刃で喉が斬れるくらいの近距離で。


(俺みたいな馬鹿じゃなければ、動けないだろうな)

「降参……降参だっ」

「いいぞ、アルゴ!」


 思惑通り、絶叫するように降参を告げた相手に、アルゴが曲刀を下ろすと――良く通る、澄んだ声が耳に届いた。

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