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お喋りねこ  作者: 鉢猫
3/7

第3話

2話目からちょっと日が経ちましたが、ひとまず第3話を書き上げることができました。今回のお話は、ユウと征次郎に小春が中心となっています。

そろそろ4話か5話で新しい登場人物を出していこうかなと考えています。

〈第3話〉


 あれからまた何度かコジロウとの賭けが行われたのだが、僕の運が悪いのかずっと負け続きだった。どうして勝てないのかと彼に訊ねると『経験の差でござるよ』と言っていた。

 しかしその言葉だけではとても納得することなどできるはずもなく、そもそもいったいどんな経験を積めばそうなるのかと思うと余計に謎が深まるだけだった。

 今日もいつも通りに登校し教室に入ると、この前担任に捕まった彼が帰って来ていた。


「おはよう征次郎、今回は割と早く帰って来たんじゃない?」

「まあな、いわゆる慣れってやつさ」


 なぜか誇らしげではあるが、さすがにきつかったのか目の下にはくまができていた。強がっていてもやはり体は正直である。


「経験者は語るってやつだね」

「そうそう、ってこの前のやつ俺は悪くないだろ!」

「言われてみればそうかもね、被害者は征次郎なんだし」

「だろ?元はと言えば小春が俺に飲ませなければこんなことには」

「私がなんだって〜?」

「げっ、小春!?」


 彼の背後にはその魔女が立っていた。


「いま、私の話をしてたよね?」

「お、お前の話なんかこれっぽちもしてないぞ!なぁユウ?」

「そうなのユウくん?」


 彼女の視線がこちらに向けられる。その背後で征次郎は首を横に振っていた。言わないでくれという合図なのだろう。


「話していたような、いなかったような」


 つい曖昧な返事をしてしまった。


「ユウ君。本当のことを話してくれるなら、私が新しく調合した薬は使わないであげる。でも、もし征次郎君を庇うっていうならどうなるかわかるよね?」

「小春のことを悪く言っていました」


 考えるまでもなかった。ここで仮に彼を庇えば間違いなくあの薬で共倒れだろう。全滅よりも生き残る道を選ぶ方が賢明だと僕は判断した。それに犠牲は少ない方がいい。


「そう。やっぱり話てたのね」


 彼女の顔からは笑みがすっと消え、そしてそのまま征次郎を見る。


「お前裏切るのか!」

「だって仕方ないじゃん!」

「だからって友達を売るのかよ!見損なったぞ!」


 ごめん征次郎、僕は友情よりも自分の命の方が大事なんだ。いまはどんな罵倒も受け入れるよ、だから僕の代わりに犠牲になってくれ。


「征次郎君、覚悟はいい?」

「くそっ、二度も飲まされてたまるかよっ!」


 彼は捕まるまいと慌てて教室を飛び出していく。なにせ命がかかっているともなれば当然の反応だった。少し遅れをとったがその後を彼女が追いかけていく。廊下からは魔女の嗤い声が響き渡った。

 生贄にしておいてなんだが、ただただ彼の無事を祈ることしかできなかった。


「二人とももうすぐホームルーム始まるけど大丈夫かな」


 数分後、満面の笑みを浮かべた魔女ではなく小春が教室に戻ってきた。ということはどうやら彼の足掻きも無駄だったようだ。

 それよりも全力で逃げ回った彼を追いかけはずなのに、彼女は息一つ切らしていないことが不思議であり同時に恐怖を覚えた。逃げ足には自慢がある彼ですら逃げられなかったのだ。もしも標的が僕だったらなおさら逃げられなかっただろう。


「おかえり小春ちゃん。一応聞くけど征次郎はどうしたの?」

「なんか私の薬を飲ませた途端、顔を真っ青にしてトイレに消えていったよ」


 彼女は笑みを浮かべながら答える。


「そっか、それは当分帰って来ないかもね」

 

 僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 彼がトイレに行ったということはお腹でも壊したのだろうか。


「ねぇ小春ちゃん?」

「なぁに?」

「今回の薬は何を作ったの?」

「自白剤を作ったつもりだったんだけど、材料を間違ったみたいで強めの下剤ができちゃったみたい」


 彼女は舌を出し失敗を可愛さで誤魔化そうとする。このおっちょこちょいさんめとツッコミを入れたくなった。自白剤を作ろうとしたこともあれだが、なにを間違えばそんな恐ろしいものが完成したのか疑問だった。


「なるほど、それでトイレに。征次郎大丈夫かな」 

「大丈夫だよ!だって征次郎君だもん!」

「そうだよね!あいつならすぐ帰ってくるよね!」


 そうは言ったもののやはり心配だった。

 案の定いつまで経っても戻ってくることはなく、やっと彼の姿を確認できたのは帰りのホームルーム始まる頃だった。今回も授業をサボったことで担任の雷が落ちるかに思われたが、そうはならなかった。

 教室に入ってきた生気のない彼の表情と全てを出し切っていまにも魂が抜けそうに見えた。そんな姿に気押されたのか担任も『体調が悪かったのなら仕方がない』とだけ言って席に着くように促す。

 席に着いたあと彼の姿は魔女の薬がよほど強力なものだったことを物語っていた。

 

 

 放課後に彼に裏切って身代わりにしたことを何度も謝罪するもなかなか許してもらえず、彼はしばらく口を聞いてくれなかった。

 しかし、学食三日分をおごってくれるなら今回のことは水に流してもいいと、彼から和解の条件が提示されたので僕はそれを呑むことにした。少々痛い出費にはなるが背に腹はかえられないと言うやつだ。これで僕の命と友情が守れるならむしろ安いのではないかと思うことにして自分を納得させる。

 その日の帰り道、まだ体調が万全ではない征次郎と一緒に帰った。

 彼は薬を飲まされてからのことを事細かに愚痴も交えながら話す。僕は相槌をうちながら話を聞いている風を装う。本当はちゃんと聞いてあげたいのだが、どこで魔女の目が光っているかわからないからだ。それにうっかり口を滑らせようものなら僕も彼と同じ目に遭うかもしれない。それだけは絶対に困る、犠牲になるのは彼だけで充分だ。


「おい、人の話聞いてるのかユウ?」

「え、なんだっけ?」

「ぼーっとするなよな。明日お前の家に行くから空けとけよって話」

「あぁ、明日ね。空けておくよ」

「じゃあそういうことでよろしく」

 

 そして彼との約束を取り付けたあと分かれ道に差し掛かる。僕ここからは帰る方向が別々なのでそこで別れた。

 彼は去り際に『コジローが喋るか確かめるからな』と言っていた。それについて僕は特に考えもせずにわかったと了承する。


「征次郎もコジローが喋ってるところを見たいのか」

 

 しかしあとからよく考えるとそれはよくないのではと思うようになっていた。


「ん?ちょっと待って!コジローが僕以外に喋ってる姿を見られたらまずくない!?」


 僕は慌てて呼び戻そうとしたがもう彼の姿は見えなかった。


「どうしよう、いまさら無理だとは言えないし」


 こうなってしまった以上は対策を考えて乗り切るしかなかった。タイムリミットは明日に迫っていて残された時間も多くはない。とにかく僕は急いで家に帰るのであった。


次回は柊家に征次郎がやってきます。さてさて、ユウとコジロウはどうやってこの危機を乗り越えるのか!そして招かれざる客の登場に事態はさらに面倒なことになります。

それではまた次の話で。

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