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お喋りねこ  作者: 鉢猫
2/7

第2話

今回は新キャラが2名が参加。ユウのクラスメイトである男の子と女の子が登場します

女の子の方は特にいいキャラしてると思いますので、こんな子いたなぁと共感してもらえたら嬉しいです。

〈第2話〉


 飼い猫であるコジロウが人の言葉を喋るという衝撃の事実を知ってから一日が過ぎた。そんな彼は今も僕の目の前でテレビを見つつ食事を取っている。今日も猫谷の銀次郎をご飯のお供にしているようだ。

 最近気づいたのだが、彼の食事の仕方が以前と違っていた。

 お皿に盛られたカリカリにそのまま口をつけず、なんとお箸を使って一粒ずつ掴み取っては口に運んでいる。猫だけど日本人らしいというかこれも時代劇の影響なんだろうか。

 さすがにもう何を見ても驚きはしないが、やはりリモコンと同じように持っているのだと思うけど手としての役割を果たしているあの前足がどうなっているのか少し気になった。


「ねぇ、コジロー?」

「なんでござるか?」

「今日の天気予報見たいんだけど」

「いまいいところでござるゆえ、それは聞けぬ願いですにゃ」

 

 まずい、非常にまずいじたいである。

 我が家のヒエラルキーが完全に逆転してしまっているではないか。これは飼い主としてのプライドが許せない。なんとしても以前の状態に戻さなければ。


「どうしても見たいんだけどなぁ」

「くどいでござる。それにあまり拙者を怒らせないほうがご主人のためでござるよ?」

「わかったよ、どうぞ気の済むまで見て下さいませ」

 

 彼はニャフンと言うと再びテレビに視線を戻す。

 しかし弱みを握られている人間とはなんと無力なのだろうかと痛感させられた、しかも猫に。

 チャンネルを変えてもらえなかったので、僕は渋々スマホで今日の天気を調べることにした。


「今日の天気は晴れか、じゃあ持ってかなくてもいいかな」

「本日は傘を持っていくべきでござる」

「えっ、でも今日は晴れらしいし降水確率も低いよ?」

「信じるかどうかは任せるでござるが、まぁ騙されたと思って持って行ってはいかがかにゃ?」

 

 ここは科学を信じるべきかそれとも野生の勘に賭けるべきかに悩み、二つを天秤にかけて考えた。

 そしてここは思い切って賭けに出ることにする。


「もしかしてコジローって猫の国から来た猫じゃないよね?」

「猫の国?それはなんでござるか?」 

「いや、知らないならいいんだ」

「そうですかにゃ」

 

 どうやらあれは本当に空想の世界にしか存在しないもののようだ。


「それよりもご主人?」

「なに?」

「そろそろ出立せねば学校に遅刻するのでは?」

「本当だ!急がないと!」

 

 時計を見ると時刻は8時を過ぎようとしていた。僕は慌てて支度を整え急いで玄関へと向かう。靴紐を結んでいるとリビングからお声が聞こえてくる。


「本日は缶詰めを忘れずに買ってきてくだされよご主人」


 チッ、覚えていたか。誤魔化して忘れていたことにしようと企んでいたのに。


「ねぇコジロー、缶詰めを賭けて勝負しない?」

 

 すぐに返事が返ってこない、なにか考えているのだろうか。


「もし雨が降らなかったら僕の勝ちで降ったらコジローの勝ち」

「いいでござるよ。では、拙者が買った時は缶詰めを二個に増やしてもらいますにゃ」

 

 なんと抜け目のない猫だろうか。


「いいよ!じゃあ勝負だね!」

 

 これで負けたら彼に対して顔が上がらなくなる。だからこそ負けたくない思いは強かった。

 しかし最初はコジローの勘を信じることにしていたのだが、扉を開けて目の前に広がっていた青空からはとても雨が降るとは思えなかった。

 案の定というかわかってはいたことだが、登校中に僕以外傘を持っている人は一人もいなかったうえ周りからの視線に恥ずかしさを感じる破目になった。雨が降っても知らないからな、とそっと心の中でつぶやきながら早足で進む。

 学校に着き素早く靴を履き替えると教室に入り自分の席に座る。


「なんだユウ、傘持ってきたのかよ」

「今日雨降るなんて言ってたっけ?」

「晴れらしいけど、コジローが持って行けって言うからさ」


 今僕に話しかけてきたのはクラスメイトの近衞征次郎と篠崎小春だ。

 二人とは高校に入学してからずっと同じクラスで三年生でも一緒になり腐れ縁のような関係になっている。


「猫に言われて持ってきたって、だいたい猫が言葉を喋るわけないだろ」

「きっと疲れてるんだよ。ちゃんと睡眠とれてる?」


 そりゃあ信じるわけないよね。うん、そう言うだろうなってわかってた。でもね、彼は本当に喋るんですよ。

見た目に反して中身はちょっと思ってたのとは違ったけどね。


「あはは、そうだよね!猫が喋るわけが無い無い!たぶん睡眠不足なのかも」

「そっかー、ちゃんと寝ないとダメだよ?よかったら私の睡眠薬あげようか?」

「いいよいいよ!不眠症ってわけじゃないから」

「そう?でも必要になったら言ってね、すぐ眠くなるすごく効き目のあるやつだから」

「ありがと、気持ちだけ受け取っておくよ」

 

 きっと好意で言ってくれているのだとは思うけど、睡眠薬をもらうのはさすがにためらった。

 彼女は我が校では魔女と呼ばれているからである。

 いつ使用するのだろうかと思うほどの量の市販薬を持ち歩いているのだが、それに加えてオリジナルの調合薬も携帯している。

 さっきの睡眠薬はたぶん後者だと思われる。液体系の薬のようだが見たことのない色をしていて、あれは飲むべきではないと僕の中の本能が告げていた。

 これまで彼女が治療と称して体調不良の生徒に調合薬を服用させたことがあり、犠牲になった人間をこれまで何度も見てきた。僕はその中の一人に加わるのだけはごめんだが、そもそもあんなものを所持しているのにお咎めなしなのかが不思議でならない。

 

「遠慮せず飲んどけよ。下手したら永遠に目が覚めないかもしれねぇけど」

「それはどういう意味ですか〜?」


 彼女は笑顔を崩すことなく彼に迫り、睡眠薬αと書かれたさっきの小瓶を取り出す。


「じゃあこれは征次郎くんにあげる」

「いや、俺は毎日熟睡できて、うぐっ」


 彼女は手際よく小瓶の蓋を開封すると、間髪入れず彼の口にそれを注ぎ込む。

 この間なんとわずか5秒の出来事だった。

 

「くそっ、飲んじまった。なん、だよこれ、視界がぼやけて」


 薬が効いたのか、彼はそのまま机にうつ伏せになって眠りにつく。なんとも自業自得な気もするが、僕の身代わりになってくれたのだ。だから感謝の気持ちを込めてそっと手をあわせる。

 それから彼はその日の放課後まで目が覚めることはなかった。

 彼が次に目がさめたときには目の前に鬼のような形相をした担任が立っており、有無を言わさずに生徒指導室に引き摺り込んでいく。

 その途中、彼は『俺は無実だ、これは何かの間違いなんだ』と叫んでいた。

 どうやら眠る前の記憶が飛んでいるらしい。やはりあの調合薬は危険な代物だ。彼も次は記憶だけでは済まないだろうが、きっとまた飲まされることになるような予感がした。


「そろそろ帰ろう」


 彼の釈放を待っていたら日が暮れてしまう。

 うちのクラスの担任は説教が結構長いうえに反省文まで書かされる。以前彼にどのくらい書かせられたのかを訊ねたら薄い小説一冊分くらいになる量だったらしい。

 彼のことだ、今回が初めてではないからすぐに書き終えて何事もなかったかのように振る舞うだろう。

 

 それから僕は下駄箱で靴を履き替え外に出る。

 すると、冷たいなにかが頬を伝う。頭上を見上げるといつの間にか空は鈍色一色に変わっていた。


「雨だ」


 それから雨足が強まり、僕は慌てて持っていた傘を差す。


「今朝はあんなに晴れてたのに、天気予報が外れるなんて」


 コジローの言った通り本当に雨が降った。科学は敗北し野生の勘が勝利した瞬間だった。

 あぁ、彼の勝ち誇った顔が目に浮かぶ。


「仕方ない、元はと言えば僕から言い出したんだし大人しく猫缶買って帰るか」


 家に着くとやっと帰ってきたかと言わんばかりに彼はニヤニヤしながら僕を見つめて、何か出すものがあるだろうという顔をする。

 僕は渋々商品である猫缶を取り出して手渡そうとすると、彼はそれをぶんどる。お前は盗賊か、と言いたいところではあったがいまの僕は敗者だ。余計なことは言わないでおくことにした。

 それに彼のおかげで雨に濡れずに済んで助かったのだから、そのお礼だと思えばこの気持ちも少しは晴れる気がする。

 でもやっぱり負けたままなのは悔しいので次は勝ちたいと思ったのだった。


割とゆっくり書いているので、思いつき次第書いていこうと思います。

それではまた第3話で

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