カインは土竜から逃走する
「改めて自己紹介させてくれ俺は王家守護隊『シルバラート』3番隊隊長のマラウ・ニニットだ。そしてこの方は第4王女ユフィリア・クリシアン姫殿下です」
「ユフィリア・クリシアンです。さっきは助けてくれてありがとうございます」
「当然のことをしただけですのでお気になさらず」
姫騎士。ユフィリア・クリシアン。見た目17~19位の少女だ。
クリシアン王国のカトナスト王の子の中でも武闘派で有名で、第1王子、第2王子に次ぐ力を持っているって話だ。
兄達は二人とも【レベル上限突破】のスキル持ちとしても有名だし、クリシアン騎士団の中でも限られた者しか王子に勝てないって話だ。
「それよりもガンガロスニュートの様子がおかしかったのには気付きました?」
「えぇ。魔物はあんなに焦らない。焦る時は何かに追われてる時」
流石シルバラートの隊長だ。しっかり気付いてたか。
「心当たりは何かあります?」
「ガンガロスニュートが出てくる直前と戦闘が始まったときに何かの魔物の声を聞きました」
「魔物の鳴き声か・・・」
「姫、どのような声でした?」
「微かでしたので何とも」
その時、ガンガロスニュートが出てきた穴から魔物の咆哮が響き始める。ガンガロスニュートの鳴き声とはまた異質な声だ。
山の中から響く重厚な響きには何者もを屈服させる厚がある。魔力も殺気も何も込められていないただの咆哮なのにだ。
絶対的な強者による咆哮。身が震える。周りの騎士達も皆が同じだ。恐怖によって身体震えている。
恐怖で身体の底から震えるが、同時に高揚してくる。再びの強者との対面に心が踊る。あぁ早く会いたい。
自然と笑みに変わり、気が昂る。
「カ、カインさん?」
ユフィリア姫が不安と不思議でいっぱいそうな顔で見てくる。
「あ、すみませんつい癖で」
「流石ゴブリンキラーですね。一人でゴブリン100体にゴブリンキングを殲滅しただけありますね。この強者の声に笑えるなんて私には無理ですよ。【レベル上限突破】のスキルを得た身でもこの敵に届くかどうか・・・
まずは避難が優先です。このクエストはここで中止です」
そこからの行動は早かった。Aランク冒険者ゴルドリン・バルザと王家守護隊マラウ・ニニットの共同の下姫の名を十全に活用し、参加している全冒険者に伝えられ避難が開始された。
王家守護隊シルバラートの隊員達4名とゴルドリンのパーティー『黄土の騎士』達が冒険者の避難を手伝いに行った。
現在前線には俺とユフィリア殿下、マラウ、ゴルドリンの4名が残っている。避難と共に少しずつ後退し、避難しきれていない者がいないか探している。
ガンガロスとガンガロスニュートは穴から声がし始めた所で冒険者との戦闘を止め、完全に逃走を始めたため冒険者の避難もスムーズに進んでいた。
ユフィリア殿下には早く避難をした方が良いと伝えたが、全員の避難が終わるまで待つと頑なに話すため前線に残っている。
"ゴゴゴゴ"
全員の避難終了前に山が鳴き始める。
「なんだねこれは!?」
「ガンガロスニュートまでも怯えさせる何かですか。興味はつきませんが、姫逃げますよ」
「いえ、見届けます。何が来るのか見なければ。国存亡の危機かもしれません」
「来るぞ」
山の頂上が再び吹き飛ぶ。ガンガロスニュートか出てきた時の比ではない。ガート山の頂上完全に無くなっている。
そして、吹き飛んだ穴から鉤爪が見えたと思った瞬間、魔物の巨体が這い出てくる。
這い出てきたのはモングランドラン。
土の竜。体長80メートルオーバーの巨大なモグラ。口は人を数人まとめて飲み込めるほど大きく。モグラには似つかわしくない鋭利な牙が生え、額から目の眉にかけて人の大きさ程の棘が生え、身体中を毛ではなく赤茶色の鱗が覆っている。
そしてモングランドランはレベル200オーバーの化け物だ。
【レベル上限突破】スキルの持ち主の超一流冒険者、数十名でパーティーを組み、過去に討伐した記録を呼んだ。その際もかなりの被害が出た。生き残りは数名他はモングランドランにパーティーを壊滅させられた。
「こりゃ逃げるしかないな。流石に手に終えない」
「それが懸命ですね」
姫も含め全員の意見が一致。逃走をはかる。
モングランドランの主食は人間でも動物でも植物でもない。
モングランドランの好物は高レベルの魔物。
人間も動物も食べるが、それは害意があったときだけだ。恐らく巣分けをするほどに増えたガンガロスに加え、ガンガロスニュートに引かれてやって来たのだろう。
レベル200超えは災害クラスの被害が出る。
だが、モングランドランは手を出さなければ高レベルの魔物を駆除してくれる。手を出せば厄災が手を出さなければ安全を提供してくれる。『厄安』と呼ばれる魔物の一体だ。
逃走すると決め、走り出すため麓に振り返る。その時、一体のガンガロスニュートが目の前に迫っていた。
咄嗟のことに条件反射で刀を抜きガンガロスニュートをかわしながら切り裂く。
ガンガロスニュートは悲鳴を上げながら事切れた。
「あ、やっちまったな」
ゆっくり全員がモングランドランに振り返る。
こっちを見る意外につぶらな瞳と全員が目が合う。
「走れー!!!」
全員が一斉に走り出すた。
ここにはガンガロスニュートを超える高レベルの冒険者。ガンガロスニュートなんかよりもより旨そうにモングランドランには写っただろう。
俺達は魔法を駆使し逃走する。モングランドランを迎撃、撹乱しながら山を下る。
霧を発生させて視界を奪ったり、ついでに水蒸気爆発で攻撃しかけたり、あの時のモングランドランの痛そうな顔はしてやったりだ。
時には斬りかかろうとしたが、水蒸気爆発でキレたモングランドラン相手に戦意が失せ、再度逃走。
様々な事をやったが、簡潔に言って逃走は上手くいかなかった。体格差やレベル差を考えても逃げ切れるとは思ってなかった。
だが、こうなるとは予想外。
微塵も想像できなかった。