冒険者ギルド
目を覚ますとそこは洞窟ではなく部屋の中、周りを見るとベッドに寝ているのが分かる。
「お目覚めですね」
声のする方を見ると緑色の制服を着た女性が座っている。長い黒髪を後ろで束ね、メガネを描けている。一目でキチってしているのがわかる。
「あんたは誰だ?ここは?」
「ここは冒険者ギルドです。私はギルドマスターの秘書をさせてもらっていますサイーナ・タナハと言います。
貴方が助けた女性達がギルドに来たので救助隊を送ったところ、100を超えるゴブリンの死体の山とゴブリンキング亜種が殺られている中に貴方が倒れていたので救助の後、拘束させて頂きました」
冒険者ギルドか、この世界にもあるんだな。
「そうか、彼女達は助かったか」
「えぇ。何人かは道中で魔物に襲われ怪我をしていましたが、それでもゴブリンの巣から逃げて、あの状態であればかなり良い方です」
「そうだな、で、拘束とは?まだなにもしてないと思うが?」
「そうですね。身元不明の強者が現れれば貴方は警戒しませんか?ゴブリンならいざ知らず、ゴブリンキングの討伐には複数人の冒険者でパーティーを組んで倒します。ゴブリンキングの対応レベルは60。亜種になればレベル70を超えます。それを貴方は一人で100体以上のゴブリンとゴブリンキング亜種を倒した。これだけ揃えば拘束に値すると思いませんか?」
「まぁ確かに言われればその通りだな。拘束って言っても牢に入れられてないだけいいか。一つ聞きたいんだが、世界の最高レベルって何レベルだ?」
「そうですねぇ。レベルの上限は100レベルですが世界にいくつかあるダンジョンの踏破ボーナスが【レベル上限突破】と言うスキルを得られるダンジョンがありますので、世界最高レベルは1000レベルを超えてくると思います。
ですが、ダンジョン踏破は大規模パーティーを組みますので、【レベル上限突破】のスキルを手に入れている者はけっこうな数います。そのスキルを持ってるか持ってないかで一流か二流かで別れると思います」
「そうか。じゃぁ俺はまだまだなんだな」
一人感慨にふけり、ここからまた挑戦者になった楽しみを感じるとワクワクする。
「もしかして貴方は渡り人ですか?」
渡り人?世界を渡った人の事か?。こんなに簡単に単語が出るならば案外渡り人が多い世界なのか?
「聞くが渡り人ってのは?」
「渡り人は異世界からの転生者です。貴方のその力、渡り人と言われれば納得です。渡り人は総じて強力なスキルを持っていますからね」
「それで言えば俺は渡り人だ」
「通りで。その若さでゴブリンキングを倒すとは考えられませんからね。これで納得がいきました。ギルドマスターに報告の上解放されると思います」
「若い?」
「若いですよ。17、8に見えますよ」
手鏡を渡され確認する。わ、若い。確かに17、8歳に見える。
「た、確かに若い」
まぁ良しとしよう。あの女神もたまには良いことをする。ルンルン気分だ。
「し、知らなかったのね」
◇
「それでサイーナさん。これは?」
「これはここのギルドのギルドマスターです」
解放される前にギルドマスターとの話し合いと、今後についてどうするかを話し合うためにギルドマスター室に来たのだが、目の前には30歳後半と思われる女性が下着姿のまま両手に酒瓶持ちながら大股開けてソファーでイビキをかいている。
顔もスタイルもかなり良いし、黒の下着がセクシーだが、こんなのでは台無しだな。
「マスター。マスター。起きてください」
「起きそうにないな」
首がグワングワンするくらい身体を振って起こそうとするがいっこうに起きる気配がない。
「しかたないですね。マスターはこの有り様なので私から説明することにします」
サイーナさん。こんなのよりあんたがギルドマスターでいんじゃないか?そんな事が頭によぎるがサイーナさんは坦々と説明していく。
「まず始めにカインさんにはギルドに所属してもらいます。所属するとギルドカードが作られます。カードは身分証明書がわりに使えますので今後は拘束されることはないと思います」
冒険者は長距離、長期間の任務をこなすことが多い。そのためギルドが作ったのがギルドカード。ランクと氏名が書かれたカードだ。ギルドカードさえあれば街に入る審査も簡単に済む。
村人なんかは村長に簡易の身分証を作ってもらったりもするらしいが、けっこうな人がギルドに所属するだけして身分証代わりにしている。そのためギルドは国に対して新規登録者名簿を作成し報告している。
そのかわり、ギルドへ国からも様々な支援金が出ている。
国としても国民に身分証があると管理が簡単になるのでギルドカードを作ることを推奨しているし、有事の際には協力して事にあたる。それに高レベル者は大体が冒険者。
高レベルで国に使えている者はあまり多くない。何故なら高レベルなら冒険者の方がその稼ぎだけでもかなり遊んで暮らせる。高ランク高レベルの冒険者がこなすクエストや攻略するダンジョンは儲けも凄い。億単位が動くこともある位だ。雇われ騎士なんかより夢がある。
「それと今後なんですが、カインさんはどうされたいか希望はありますか?こちらとしてはここを拠点に依頼等をこなしてもらえると助かるのですが・・・」
「ここも何も世界もわからないからな。まずは知識をつけないと旅もろくに出来ないから、それはかまわないが、依頼をこなすにしても出来ることは少ないが構わないか?」
「えぇ構いません。こちらとしても高レベル冒険者がギルドにいるのは助かります。先程からの会話からカインさんはレベル上限突破のスキルは持っていないんですよね?」
「あぁ。持ってないから出来れば取りに行きたい。まだステータスを確認してないから今何レベルかもわからないが、出来れば早めに取っておきたいとは思うが。
大規模パーティーを組むくらいだ、かなりの階層なのだろう?」
「そうですね。平均100階層です。一階層毎にかなり広大なエリアが広がっています。それとダンジョン内は外と違って魔物が倒れると塵に変わってアイテムがドロップする仕組みに変わりますので、食料・回復薬・解毒薬等の現地調達が困難になりますのでアイテムボックスにかなり溜め込まないとキツいですね。
100階層ともなると最短で3ヶ月はかかりますから。日用品や食料だけでもかなりの数になりますね」
「なら資金集めと物資の調達。あと仲間集めか・・・」
「カインさんの実力なら仲間集めは大丈夫だと思います。ギルド内ではゴブリン100体にゴブリンキングを単身で倒したって話で持ちきりですし。もし希望があれば有望な冒険者を紹介しますが」
「いや、出来れば新人冒険者を紹介してほしい。まだここもわからないからな。街のことも聞きながら気長にやりたい」
「わかりました。こちらで候補を絞っておきます。ギルドカードも作るのに時間もかかりますので、今日はギルドに泊まってください。明日街の紹介などをしますので」
「了解した。よろしく頼みます」
サイーナさんと握手を交わし、再度部屋に案内されると直ぐにベッドに横になる。
まだかなり疲労感が残っている。日常生活には何ら支障は無いが、本気の殺し合いになったら隙ができるかもしれない。スキル【超速再生】で回復も可能だが、直ぐにスキルを使えないなんて事になったら大変だし、慣れておいて損はない。
若くなった分体が疼く。身体のコントロールをしていけば今の体でも気の操作も可能だろう。
転生前は体内に内包する気は大きくなり、流れも清流の様だったが、今は暴れ馬だ。内包する気も小さい。
レベルも上げなきゃいけないが、いざとなったら体が重要。今出来ることを知るのは戦いの基本。これを疎かには出来ない。
気の操作に集中しながら目を瞑る。自然と眠気がやって来たので、眠気に身を任せ夜を明かす。