カインとボスモンスター
休憩後、二人ともステータスを確認するとお互いになんと100レベルへ到達していた。二人でドアを押し開ける。中は薄暗く、人の気配も魔物の気配も感じられない。
恐らくこの中に入れば魔物が現れる。後戻りはできない。
「行くか」
「はい」
とうとう最終地点。またどこかに飛ばされることがなければここがダンジョンの終わりだ。
一歩踏み出す。
ボス部屋に入った瞬間薄暗かった部屋の松明が灯っていき、部屋が一気に明るくなる。
そして部屋の中央に光の粒子が集まっていく。
「ボスモンスターが来ます」
光の粒子が集まり形をなしていく。
大きな光の塊。高さが5メートルはある。しだいに二足歩行の生き物の形になり、光が弾ける。
目の前には体長5メートルの巨大なミノタウスル。紅の牛鬼が4本の腕に槍を2本、鉈を2本構えて現れる。
「探索者よ。よくここまでたどり着いた。我、モグランドランの線宮、最後の砦なり。さぁ我に線宮を乗り越えし力を見せるが良い」
紅の牛鬼から人語が発せられる。
これには驚きだ。前世で高位の魔物は人語を理解し操る者も少なくなかった。知能の高い魔物は人と関わるものもいたし、お互いに助け合う関係にある者もいたくらいだ。
だが、圧倒的な存在感に加え、モグランドラン級の威圧感に強烈な殺気を辺り一面に放つこのボスモンスターとは一切わかり合えそうにない。
ユフィはボスモンスターの殺気に完全に萎縮し身体が固まっている。無理もない。目の前の紅の牛鬼はレベル100で挑むような敵ではない。
基本的にダンジョン攻略はパーティーを組む。中級ダンジョンですら大規模パーティーか高レベルの冒険者でパーティーを組んでの攻略が求められる。
ボスモンスターは表示レベル以上の力を有している。ステータスもスキルも外界の魔物以上。まさに格が違う。
目を凝らし紅の牛鬼を睨み付ける。すると目の前の紅の牛鬼の左側に文字が浮かび上がる。
名前:クルストラミノタウルス
レベル:175
ようやくきた。スキル【鑑定(小)】を今になって習得した。スキル【鑑定(小)】が示した表記は絶望。初のレベル100代後半の175。ミノタウルスグルスーガよりもレベル60ほど違う。【鑑定(小)】の効果が低いせいでステータスまで見れないのが良いのか悪いのかレベル差意外にはそこまで絶望を感じさせない。
改めて自分のステータスを確認する。
名前:カイン・ジルバ
レベル:100
力 :500
俊敏:500
耐久:500
器用:500
魔攻:500
魔防:500
魔力:500
★スキル
【英雄カインの魂】
全ステータスに上昇効果(極)、スキルによる効果上昇率(極)、全属性の魔法使用可能、魔法攻撃力・防御力・効果上昇(極)、状態異常耐性(高)、取得経験値10倍、スキル習得率10倍、ステータス成長値最大固定化、超速再生、限定時間前世への回帰、本人以外スキル認識不可。
【穏行術(極)】【気配探知(極)】【剣術(極)】【槍術(中)】【斧術(中)】【弓術(中)】【投擲術(高)】【体術(極)】【気のコントロール(極)】【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】【雷魔法】【闇魔法】【光魔法】【治癒魔法】【無魔法】【魔力感知(高)】【魔力のコントロール(極)】【速読(極)】【鑑定(小)】
普通に考えて他人が見たら異常なステータスにスキル習得に習熟率だろう。
だが、所詮は100レベルだ。パーティーで挑む敵に勝つことは不可能に近い。限りなく少ない勝機を掴みとるしかない。
さぁ全てを駆使して敵を討とう。
ユフィを置いたまま前に歩きだし、刀を抜き疾走する。
クルストラミノタウルスも敵と認識しているのが俺だけなのかユフィを気にもとめない。
互いの殺意が膨れ上がりぶつかる。高まる気、魔力で一人と一体の中心の空間が悲鳴を上げ、地が揺れる。
「ボォォォォォ!!」
雄叫びを上げるクルストラミノタウルス。振り上げた2本の鉈を振り下ろす。
「ふん」
鉈を刀の2振りで軌道をずらし、鉈を足場に飛びかかるが2振りの槍の突きの連撃がカインを襲う。
一本目の槍を刀を盾にして身体を捻り、独楽の様に受けかわし、2本目の槍は回転の速度を利用して刀で槍を斬り、衝撃で身体を槍から強制的に離し、地面へと着地するが急かさず鉈の薙ぎ払いや振り降ろしが襲う。
ミノタウルスグルスーガを軽く超えるスピードと破壊力がカインを襲い続ける。
カインにとっては一撃必殺の一撃をクルストラミノタウルスは振るい続け、疲れ知らずのような攻撃が数多に降り注がれる。
「埒が明かないな」
【修羅の気】の使用でステータスで出せる動きは出しきっており、体術だけではどうにもならず防戦一方だ。防いでるのがやっと。このステータス差で何とか生きてるのも一重に今までの経験のお陰。英雄とまで言われるまでに鍛え抜いた自分の技術と経験測による予知回避の賜物だ。
「【疾風迅雷】」
風魔法の【疾風】と雷魔法の【迅雷】の同時発動。風魔法が身体の動きをより早く、雷魔法が思考と身体伝達速読を加速させることで余裕が生まれ行動の無駄をなくしていく。より洗練された動きと変わり、動きの早さが加速する。
カインは魔法を纏い、クルストラミノタウルスと再び剣を交えていく。
火花がちり、音速に近い剣撃によってクルストラミノタウルスの剣と槍に辛うじて相対している。
離れた場所から見ているユフィの目でもカインの剣は霞んで見える。いや捉えきれていない。
カインは実際のところ全力の剣撃数回をもってようやくクルストラミノタウルスの剣と槍を弾き避けている。その剣は早くそして何より重い。そして全力の剣撃は着実にカインの体力を奪っていく。
ユフィの目にはカインの剣技は国のどの騎士よりも、今まで見てきたどの冒険者の剣技よりも高みにある至高の剣に映り心を魅了する。
そして数多の魔法を使いこなし、その破壊力、応用力もさることながら更には至高の剣の使い手。その卓越した戦闘能力は過去目にした者を超えている。
レベルを考えればステータス上はカインが劣っている者も少なからずいただろう。剣技や魔法の一撃の重みや破壊力を見れば負けている所もあるだろう。
だが、負けている所以上を補うカインの総合力。剣で劣る者には魔法で。魔法で劣る者には剣で。カインほど完璧に映る者をユフィは見たことがない。
彼がレベル上限突破のスキルを手にし、駆け上がれば最強への道も見えてくるのではないかと思わせる。いや、最強への道を一歩一歩歩んでいる様にすら見える。
ユフィはその立場的に数度レベル500超えの冒険者にも会ったことがあるし、その力を目の当たりにしたことがある。
次元が違う。
その言葉しか当てはまらなかった。
目の前の冒険者カインはレベル100。過去目にした500超えの冒険者の戦闘と比べても彼の劣る所は無いように見える。それほどカインの動きがユフィの目には次元が違うものに映り、その異常さに恐怖すら感じる。
この数日、絶望の中を共に過ごし、共に戦い、共に成長したユフィの中には恐怖に勝る彼への絶大な信頼がある。心の中には信頼とは違う暖かな気持ちも持っている。
カインは裏切らない。
それが数日間一緒に生死を共にしたカインへの評価だ。




