カインはミノタウスルを無双する
一時間の休憩後、再び探索を開始した。
道は一直線。曲がり道、広い部屋ダンジョンにありそうな空間が一切見当たらない。故に安心して休憩できる空間もない。
休むには魔物を倒しきり、次の出現時間までのちょっとした時間を使うしか無い。
そして奥に行けば行くほど魔物のレベルが徐々に上がっている。幸いにもまだ手こずる相手は出て来てはいない。
「カインさんは若いのに凄い強いんですね」
「いえ、今までたまたまレベル上昇値が高いのでやってこれてるだけですよ」
ユフィリア殿下もだいぶ落ち着き、魔物が下位なだけあって余裕をもって戦闘をこなせている。
「このダンジョンはどこまで続くんでしょう」
「ここまで続くといつまで真っ直ぐなのか、食料は1ヶ月はもつと思いますが・・・
正直1ヶ月もここに居たくはないですね。殿下確認なのですが、殿下はレベルいくつですか?」
「私は今は89レベルです。それと私のことは殿下ではなくユフィと呼んでください。敬語も出来ればいいです。このままどうなるかわからない状況です。仲良くしましょう」
「なら俺のこともカインと呼び捨てにしてくれ。じゃぁユフィはBランクの冒険者と同等の実力と考えておいてかまわないか?」
「はい。シルバラートの団員達と狩りにも行きますので、その時に同等程度だって言われました」
「となるとユフィは騎士団でも上位の実力を持ってるんだな。
王族も身を守る力をつけなきゃいけないとは大変だな」
「いえ、そんなことはないですよ。王族にとって強さは必須ですから」
いや普通は強さはいらないだろう。内心ツッコミみたくて仕方がなかったが、ユフィの笑顔を見るとなんとなくつっこめなかった。
話を聞けば、高レベルになると騎士団を止め、給料がより良い冒険者として働き出す者も少なくないらしい。団長クラス、将軍ともなれば確固たる国への忠誠心を持っているが団員はそうではない。
そのため騎士団も入れ替わりが多く、王族の護衛を任せられる者も多くはないため、王族の者は強さが必須になったらしい。世知辛い世の中だ。
◇
1週間、ダンジョンを歩き続けている。
1週間ずっと真っ直ぐ。100メートル区間毎に魔物の強さが上がり、ためしに区間の魔物を全て倒したら魔物は出現しなくなったが、100メートル移動しても戻るとまた魔物が出現した。
休息をしっかりとれるようになったのは大きなアドバンテージになった。たが、身体を吹いたり、排泄があるためユフィとは少しギクシャクしたが、今はお互いにあまり気にしないことにした。何せ道は真っ直ぐ。隠れるところもないときた。お互いに信頼して背を向けるしかなかった。
休息をとれるようになり、さらにユフィは会話をするようになってから少しずつ打ち解けてきた。いや、かなり愚痴も聞かされるようになった。王族としてだいぶストレスが溜まってる様だ。王族として社交界を過ごすよりもシルバラートの人達と魔物による国内の事件を解決する方が楽しいって話していた。そりゃ強くなるわけだ。
「あれはなんでしょう?」
奥に重厚な両開きの大きな扉が見えてくる。ようやく行き止まり。ついに見えた終点に足が軽くなる。だが、目の前にはちょうど区間の終わり。
今まで出現する魔物が徐々に強くなり、今やユフィは毎回本気の戦闘を強いられている。俺はまだまだ余裕があるし、1週間戦ってきたお陰でレベルも上がって余裕もある。途中でガンガロスニュートの大群に襲われたが、ユフィもレベルが上がり冷静に対処していた。
「行こうユフィ」
「はい」
お互いに確認して踏み出す。すると周りの壁が揺れて崩れ始める。魔物の出現を表している。しかも数が凄い。見渡す限りの壁が全て震えている。真っ黒な腕が出てきている所、角が出ているところ様々だ。
「あれはミノタウルスグルスーガです!ミノタウスルの亜種です!」
「【火炎龍の演舞】」
右手を前に向け、全力で魔法を放つ。炎の龍を生み出し、壁に沿って走らせ、出てきている所を狙い燃やす。
「カインさん。容赦ないですね」
「え、待った方が良かった?」
100メートルの壁を全て這わせるのは一苦労なので適当にミノタウルスグルスーガを焼き尽くす。無事出てきたミノタウルスグルスーガも部位欠損や、重度の火傷を負っている。
ユフィの話じゃミノタウルスグルスーガは漆黒のミノタウスル。Aランク下位の魔物だ。レベルは100レベルを超える。
ミノタウルスグルスーガはBランク上位のパーティーもしくはAランクの冒険者が対処する魔物だ。
Aランクの魔物を相手にするには必ずスキル【レベル上限突破】が必要と言われるほどに強い。
ユフィにとっては絶望的な相手。BランクとAランクでは隔絶したステータス差がある。それは簡単には超えられない。
ユフィの歳でステータス差を塗り替えられる技量を持っているとも思えない。ここは援護に回ってもらうしかない。
「ユフィ。俺が奴等を相手にする。援護を頼む」
「でもカインさんでも・・・」
「大丈夫だ。俺の魔法は効いた。であれば俺のステータスは奴等に届く!」
そう言うや、一気にカインは走り出す。守りながらの戦いでは出しにくい全力。ステータスを最大活用。トップスピードに一気に入り、手前の最も損傷の激しいミノタウルスグルスーガへと刀を抜く。
漆黒の刀は一瞬でミノタウルスグルスーガの硬い皮膚を斬り裂き、首を両断し、ミノタウルスグルスーガを粒子に変える。
イケる!斬れれば敵はいない。斬れる物であれば勝てる。
今まで数多くの強敵を相手取り、神をも敵に回して相打った。カインの経験が勝てると確信させる。
確信を自信に替え、さらに余裕を持った気を引き締め、心を氷に変え、身体を燃やす。
殺気を薄皮1枚に纏い、闘気を濃縮させる。
【修羅の気】
前世で習得した気の運用方法だ。全身の気を操り、濃縮させ、戦闘に集中させる。武の境地だ。
若干気の運用に抵抗を感じたが、直ぐにいつも通りの流れに戻る。
気を操り、必要に応じてコントロールする。
体が普段以上に自在に動き、気配を感知する。
ミノタウルスグルスーガは負傷している者が多いとは言え、ユフィにすら目で追うのが大変な速度で動く。近くにいればさらに早く感じるだろう。
「凄い」
ユフィの目には信じられない光景が映し出されている。目で追うのが大変なミノタウルスグルスーガの攻撃を全て紙一重でかわし、かわし様に刀で斬り裂く。無駄の無い動きに無駄の無い一撃。
群がるミノタウルスグルスーガを物ともせず、中心で黒銀の煌めきがミノタウルスグルスーガを斬り刻んでいく。
ユフィの援護射撃。魔法を放つが、ミノタウルスグルスーガは意に返さない。効いていない訳ではない。ミノタウルスグルスーガの心がカインに奪われ狂っていく。
ユフィの魔法を受けて死のうが、目の前のカインを倒さなければミノタウルスグルスーガに生き残るすべはない。
ダンジョンの魔物は本能のままに動き、冒険者を喰らい尽くす。よほど高位の魔物でない限り意思もない。
驚異なのは魔物でもなくカイン自身。魔物を斬れば斬るほどに力が増していく。近くで戦いを見ているユフィも信じられない光景だ。
ユフィの数十発の魔法の援護を気にする様子もなく斬り続け、遂に最後のミノタウルスグルスーガも斬り倒す。
かかった時間は30分にも満たない。誰がこの短時間でミノタウルスグルスーガの大群を斬り倒せるだろうか。普通は大群で現れれば逃げる相手だ。
それをこの短時間に倒しきる。
本物の化け物だ。
「お待たせ。中々骨がある相手立ったけどまだまだだな」
傷一つ追わずに飄々とした態度で戻ってくる。
「カインさんお帰りなさい。後はあの扉の奥だけですね」
「少し休んで身体を万全にして行こう」
二人で大きな扉を睨む。恐らく待っているのはボスモンスター。どのダンジョンにも待っているダンジョン最強の魔物。
何が出てくるか楽しみだ。




