新しい世界はゴブリンと始まる
草原と森との縁に光と共に一人の男性が降り立つ。
「だぁ!!あの駄女神が!!いいって言ったろうがぁぁ!!」
辺りに怒号が響く。
「はぁはぁはぁ。それで、ここがアスタルか」
天気は良好、そよ風が吹き、新たな旅立ちを祝福している様に感じる。あの駄女神の演出か?
それよりも持ち物も無く放り出しやがって、と愚痴ろうかと思った瞬間単語が頭に浮かぶ。【ステータスオープン】【ボックス】【リュース】3つ頭に浮かび、どんなことかも直ぐに理解できる。きっとこの世界の人間の本能的事なのだろう。
「【ボックス】」
目の前に文字配列が表れる。生活必需品、一通りの装備一式の名前が書かれている。
「これは凄いな。物を持ち歩かなくても良いなんて、俺の世界はマジックバッグだったからな」
前の世界を思い出す。マジックバッグは高価で沢山の物品を持ち歩ける便利な物だったが、入れた物を取り出すのに時間はかかるし、何を入れてたかを忘れたら最後取り出す事ができないと言う欠陥だらけの物だった。だが、その利便性は高く、商業へ、冒険へ、軍事へと多種多様な業種に多様されていた。
持っているだけで盗賊に狙われるなんて欠点もあったので、持つ時にはそこそこの実力がないと危険な代物でもあった。
とりあえず武器を閲覧し、武器と皮の胸当て、皮の籠手、皮の脛当てをチェックし装備する。
胸、腕、脛、腰に淡い光が集まる。光が治まると身体に武具が装備されている。
皮の防具は身体に自然とフィットされ、違和感無く装備されている。腰には左に黒塗りの刀、右に長めの短剣が差してある。
「うわ、超便利。今度はステータス確認だな【ステータスオープン】」
名前:カイン・ジルバ
レベル:1
力 :5
俊敏:5
耐久:5
器用:5
魔攻:5
魔防:5
魔力:5
★スキル
【英雄カインの魂】
全ステータスに上昇効果(極)、スキルによる効果上昇率(極)、全属性の魔法使用可能、魔法攻撃力・防御力・効果上昇(極)、状態異常耐性(高)、取得経験値10倍、スキル習得率10倍、ステータス成長値最大固定化、超速再生、限定時間前世への回帰、本人以外スキル認識不可。
「うわ、こりゃある意味スゲェな。早くレベル上げしないと死んじまうな。何が『強くしてあげる』だ。まったく、とりあえず今の身体の調子を知りたいし、とりあえず森の中にでも行くか」
森を歩くこと20分。だいぶ奥に来たが魔物の気配を感じない。それに凄い疲労感だ。
「感覚が鈍ったかな・・気配が上手く感じ取れない、もしかしてレベル1だからか?」
気配は感じれるが分厚い膜にかかった感じだし、感じれる範囲も狭い。
「こりゃ早急にレベル上げが必要だな・・おっ何かいるな」
気配探知範囲内に何か小さな集団がやってくるのを感じる。
「まずは行ってみるか」
感じた気配の先まで移動する。体力が落ちようが技術でなんとかカバー・・・仕切れていないが、気配をできるだけ圧し殺して近づくと目の前に緑のゴブリンの群れを見つける。
5体のゴブリンの群れは真ん中で女性を木の棒に両手両足をくくりつけて運んでいる。
女性は気を失っているのか抵抗する様子は見られない。
「ありゃぁゴブリンの今日のメインディッシュにされるな。助けてやりたいが、この有り様か・・・」
たかだかゴブリンの群れに恐怖を感じ、手が震える。本当に1からのやり直しか。あの駄女神め、何が助けてくれた御礼に転生させてあげるだ。こりゃ弱すぎだろ。
とりあえず後を付けて、1匹づつ始末するか。幸いこの程度の穏行にも気付かない雑魚だ。言っといてなんだが、雑魚の雑魚になった自分が情けない。
隊列を組んで歩くゴブリンの後ろをこそこそついて行く。
20分後、洞窟に到着する。洞窟の前には1体のゴブリンが見張りで立っており、5体のゴブリンのは挨拶をして洞窟の中に入っていく。どうやらここがアジトの様だ。
中からは異様な気配を感じる。どうやら5体の巣ではない。ゴブリンの巣か。こりゃかなり慎重にいかないとヤバイな。
それから数分、木の上で巣を観察、変化がなかったので他の入り口がないか捜索するが近辺には見当たらず、また木の上に戻って巣入口を見ている。
見ている間だけでも3組のゴブリンが中に入っていく。どの組も生け贄を持参だ。
こりゃ宴の用意か何かか?
日も暮れ始め辺りが薄暗くなってきたので行動を開始する。森の中なので外よりも暗くなるのが早いし、暗く感じる。
ささっと門番ゴブリンの近くに移動。だいぶこの身体の不自由さにも慣れてきたので上手く気配を消して移動できた。
「よし、行くか」
この世界始まって初めての戦闘だ。こんな雑魚に恐怖を感じたことは無かったが、今はすごく怖い。生物としての本能が警報を鳴らしている。
レベル1は赤子と同等。この世界の平均がわからないのでなんとも言えないが、これだけはハッキリしている。俺は弱い。
昔ならゴブリンなんてデコぴんで倒せる相手。恐怖すら感じたことがない相手だ。だけど今は怖い。だが、気負いは無い。
格が違う相手とはごまんと戦ってきた。そして勝利を得て英雄と呼ばれた。その真価を今こそ発揮する時だ。ゴブリン相手ってのが情けないが・・・。
気配をできるだけ消して木の影から飛び出し、刀を抜き、ゴブリンの喉を撫でるように切り裂く。
「ガ、ガ、ガ、ガガ」
声も出せずにゴブリンが事切れる。
「お、意外に斬れる刀だったな。神様もそこはわかってるな。それに力が沸いてくる感覚があるな。まるで身体強化の魔法を使った時みたいだ。そうかレベルが上がったか!【ステータスオープン】」
名前:カイン・ジルバ
レベル:20
力 :100
俊敏:100
耐久:100
器用:100
魔攻:100
魔防:100
魔力:100
★スキル
【英雄カインの魂】
全ステータスに上昇効果(極)、スキルによる効果上昇率(極)、全属性の魔法使用可能、魔法攻撃力・防御力・効果上昇(極)、状態異常耐性(高)、取得経験値10倍、スキル習得率10倍、ステータス成長値最大固定化、超速再生、限定時間前世への回帰、本人以外スキル認識不可。
【穏行術(小)】【気配探知(小)】【剣術(小)】
「まじか、ステータスがオール100になってるし・・・」
単純に考えてステータスの最大上昇値は5か。1レベルが20レベルになればそりゃステータスが100になるか。
ステータスが20倍にもなれば力も沸いてくる感じがする訳だな。それにスキルも増えてる。流石成長率・習得率10倍だな。すぐ死んだらあの女神に笑われるな。
だけどまた身体の調子が分からなくなった。こりゃ調整しながら戦わないと不覚を取るかもしれないな。
慎重にゴブリンを排除だな。
刀を鞘に納め、洞窟の中に歩みを進める。さっきまでの恐怖もどこへやら意気揚々と洞窟の中に入っていく。
洞窟の中は案外進みやすく、所々に松明が置かれている。ゴブリンでも流石に夜目はあまり効かないか。これが弱点にもなるかもな。俺は夜目が効く方だし、気配も探れる。スキルの【気配探知】を取れてから気配を探るのがしやすくなったから、目を瞑らなきゃだいたいの事は把握できそうだ。
どんどん洞窟を進むと分かれ道が現れる。5つに別れている。真ん中の道が1番騒がしい。恐らくゴブリンがウジャウジャいるんだろう。真ん中以外の4つの道は音があまりしない。
真ん中以外の道は大差がないとなると悩む。真ん中の道を選んでゴブリンと真正面から戦うのは避けたいから真ん中の道は却下。
残りは4つ。どうするか・・・
「悩んでも仕方がないか。左端からしらみ潰しに行くか」
気配を消して左端の道を歩いていく。
◇
奥まで進むと鉄の門と門を守るように立つ2匹のゴブリン大と小の凸凹コンビ。偉そうに槍を身の丈ほどの槍を持ってやがる。小賢しい。
「さっきのより強そうなのが2体。やっぱどの世界も個体差はあるか。でも怖く感じないし大丈夫か」
影から飛び出し、ゴブリンに向かう。
「「ガガ!?」」
ゴブリンはいきなり現れた人間に驚いているのか、2体とも槍を前に構えず槍ごと両手を上に上げて、口を顎が外れんばかりに開けている。
「おいおい槍くらい構えろよ」
呆れと一緒に刀を引き抜き、跳躍しゴブリン大の首を両断。着地後、ゴブリン大が殺られたのに更に驚いたゴブリン小(目が開いて落ちそうだ)に向かって刀をもう一振り。狙うのは首。喉を撫で斬る。
「ガ、ガ、ガ、ガガ」
ゴブリン小は苦しみながら事切れる。
「どの世界もゴブリンはバカだったな。まさかもってる武器も構えないとはアホにも程があるだろ。ま、それより気になるのはこの扉だよな」
コンコン!
「うん固いな。こりゃ斬れないから、鍵探さなきゃだな。お、こいつのこれがそうか」
ゴブリン小の腰から鍵を取り、鉄の扉に合わせるとしっかりと合う。鍵を捻るとガキンと音が鳴り鍵が開く。
「随分溜め込んだな」
目の前には金貨銀貨の山や金食器銀食器、倒された冒険者の武器や防具等の山がある。
「臨時収入だな。お金はあるに越したこと無いしな。武具は良いの以外は売却だな。でもゴブリンにやられる程度の奴のだしな。全部売却だな取りや得ず回収回収【リュース】」
少しずつ部屋中の財宝を回収。数分後には全部回収し終え、部屋を出ると見張りの交代に来たゴブリンに遭遇するがパパッと片付けレベリングの肥やしに換えて次の道へと向かって来た道を意気揚々と歩いて戻っていく。