第一章 日常
桜が新生活を飾る。陽の光がカーテンを貫きはじまりを告げる。今日から高校生か、と思いながらも岡部悠佑は半分眠っていた。すると陽気な声が、
「お兄ちゃんおきろ!」
「あと5分だけ寝かして…」
「お兄ちゃん今日から高校生やろ!はよ起きや!」
妹の来未が悠佑の上をまたいで見下ろしている。悠佑はしかたなく起きることにした。来未は、隣の部屋からたまに朝悠佑を起こしにくる。悠佑にとって悪い目覚めではなかった。
カーテンを開け放つ。陽の光がシャワーのように降り注ぐ。それはまるで気だるさを洗い流していくようだった。少し伸びをして部屋を来未と一緒に出ていく。1階では母が朝食の準備をしているころだろう。母を手伝いに1階へと降りていった。
「お母さんおはよう!」
「来未、悠佑おはよう。悠佑は今日から高校生ね」
「うん、でもあんま変わらんと思うけど。最初は内部進学と外部進学別れてクラスらしいし」
「今日から自転車やろ?気ぃつけや」
「分かってるって」
「いーなーあたしもはよ高校生なって自転車で登校したいわぁ」
悠佑の通う高校は、この京都でも有名な中高一貫校だった。来未もそこの附属中学生である。
「おはよう、みんな」
「あ、お父さん!」
「今日も来未は元気やなぁ。悠佑は今日から自転車で彼女を乗せて……」
「ちょ、父さん!」
一家に笑いが起きる。岡部家はいつも明るい。
朝ごはんを食べ終わって二人は学校にいく準備をした。玄関の扉を開けると、風が舞い込んできた。
外に出ると幼なじみの上田京香が待っていた。長く先の巻いた髪に丸い目。どことなく柔らかさを感じさせる落ち着いた少女が話しかけてくる。
「悠くんおはよう。藤谷くんはまだ来てない?」
「まだ来てへんな。いうてすぐ来るやろ」
「おーい岡部ー」
「お、来たな」
「相変わらず悠佑くんは夫婦円満ですな」
「おいおい、て、お前もな」
「うるせぇ」
「園生さん、おはよう」
「京ちゃんあいかわらずかわいらしいね」
京香は御田園生をよく見て、そのどことなく妖艶さを思わせる黒髪のポニーテール、キリッとした目の美しさに顔をあからめた。よく小さい頃から遊んできた4人が集まる。これからの西都高校での生活に向けてみんな違う目をしているが、輝きは変わらない。
「ほな、行こか」
藤谷裕哉が声をかけて4人は学校への道を急いだ。悠佑はそんな中これからも変わらない日々を送れたらどんなに幸せかと思っていた。