零章 神の掟
この世界にはまだ知らない未知のものが無限に存在する。
――僕が作るものには名前があり、種族がある。じゃあ、神と呼ばれ、ゼロと言われる僕はいったい誰が作り、本来は何者なのだろう。
神は無限の暗闇に一人浮いていた。
長い白髪が無重力の中を悠々と漂い、色違いの瞳がはるか遠いところを眺めている。
――神の名は『ゼロ』。
無限の中の一以下一以上。一にもなれない何か。だからゼロ。
神は無重力の宇宙の中をまるで空を飛ぶ鳥のように、腰から生えた翼を使って移動していた。
白く大きい翼が羽ばたくごとに、周りの空気がぐらりと揺れる。
「……随分、地球も進化したな」
目の前に現れた大きな青い星を見て、神は――ゼロは感嘆の声を上げた。
この世に存在するすべてのものは、ゼロによってつくられたもの。
それは建物でもあり、星でもあり、もちろん人でもある。
ゼロは斜め左上で浮上している黒い鉄の塊を発見した。
――あれは、人間が作った〝宇宙船〟とやらか?
好奇心に逆らうなど、神はしない。とでもいうようにふよふよと宇宙船に近づいたゼロは、窓から中を覗いた。
――おぉ、あれがこれを作った人間か。昔とはずいぶん容姿が違うなぁ。
ゼロは椅子にもたれかかって寝ている人間を窓の外からまじまじと見つめていた。
神は惑星も、人間も作った。しかし、どれも自分の目ではあまり見たことがない。そのため、ゼロの日課である宇宙探検はゼロの好奇心をそそるだけではなく、ゼロの学びの時間でもあるのだ。
「昔みたいにしょっちゅうじゃなくてもいいから、一度でいいから僕も人間界に出てみたいな。きっと、頭のいいやつばかりなんだろう。もしかしたら、僕が作った中で一番進歩しているのでは?」
宇宙船から顔を離したゼロは四肢を広げ宇宙という空間に身を任せた。
淡く光る色違いの瞳は青く輝く地球を見据えていた。
-―少しくらい、掟を破ってもいいよね。僕、神様だし。
長い尾を一度大きく揺らすと、ゼロは口を怪しく歪ませた。
神は自分の作った生き物と会話をすることは禁じられている。しかし、その掟を作ったのも神である。
それなら、とゼロはくすくす笑った。
「――それを僕が壊してしまえばいい」
ゼロは体制を無重力の中で整え、手の出ないコートをまとった腕を水平に持ち上げ目を閉じた。
そして、声の届かない宇宙で綺麗で透き通る声を響かせた。
「我が名はゼロ。この世のすべてを支配する最悪なる堕落の象徴――神である。さぁ、我が願いを聞きたまえ」
ゼロの詠唱が終わるとほぼ同時。宇宙は眩い閃光に包まれた。
数分間。その閃光の光は小さな光の粒子となって宇宙を舞い、スッとこの世界から姿を消した。
――ゼロと共に…………。
初めまして。この『小説になろう』さんでは初めて小説を出させていただきます。胡蝶 凪斗です。
今回書かせていただいたのは『神の依り代 ――神は馬鹿でも、弱くはない!』です。
連載小説ということで今回はその零章を書かせていただきました。はい。
次をいつ執筆するかわかりませんが、次も読んでいただけたら嬉しいです。