第六話ノーナ
「おっさんってさ、オナニーとかしないの?」
飲んでいたインスタントコーヒーを噴出しそうになった。
「……そう言えば、してねぇな」
ここ一週間ほど、こいつが自室にずっといるのもあるが
ウンコマン誤認事件や賀寿明失禁事件と続いたので、
日課の手淫する暇もなかったわ。
そうそう、賀寿明はあの後、腰が抜けて立てなくなってたので
俺が奴の実家の神社に車で送り届けた。無職だが免許はあるのだ。
憔悴しきって眼も虚ろな賀寿明を、
奴の親父さんは何も言わずに引き取ってくれた。
「手伝おうか?オナニー」
「はぁ?」
悪魔に抜いてもらうほどおちぶれちゃいねえ。
33年間の歴史があるハードコア無職の倫理舐めんな。
ノードラッグ、ノーバイオレンス、ノーフリーセックス、ノーマネー
の4Nを戒律としている厳格なる無職コアこそが俺だ。
無視してヘッドフォンしてネットしていると
耳に息がかかる。嫌な予感がしてゆっくり横を見ると
白ブラ白パンで真っ白な肌の彼女が発情した顔して手招いていた。
「ちょっと待て。いいから服を着ろ」
「えー……準備おっけーよ?」
ぶーぶー言っている彼女にベッドの上に脱ぎ捨てられていた
青いワンピースをむりやり着せて俺は言った。
「正座しろ。話がある」
しゅんとして正座した彼女を前に俺は説教を開始した。
「まず、俺は人間の女としかしねえ。
それからロリには興味がねえ。ちっぱいはいい。ロリはダメだ」
そうなのだ。どうみてもこいつは十五歳以下にしか見えん。
「わたし、四千二百九十七歳よ?それでもダメ?」
「ダメだ。人間に転生して出直してこい」
だいたい、せっかくお前らが見に来てくれているのに
セックス描写なんか入れたら18禁になって違う方向にいっちまう。
今だって一応R15だ。
「わかった。ちょっと待ってて」
そう言うが早いか、こいつは眼をつぶり正座したまま動かなくなった。
嫌な予感がする……。
ピンポーン
直後にチャイムが鳴ったので
一階に降りていって玄関を開けると、
若手人気グラビアアイドルの様な美形日本人女性が立っていた。
巨乳で背も高くて、しかもまだ五月なのにビキニだ。
というか、テレビで見たことあるぞ……この女。
「じゃーん。身体借りてきましたー。どう?一発やらない?」
「……」
俺は何も言わずに右手で"そのまま待ってろ"のポーズをして
応接間にある。母親が大阪旅行のみやげ物で買ってきた
"壊れない!痛くない!大型ハリセン(プロ仕様)"(3980円)を手に取った。
スパーン!!!!
小気味のいいハリセンサウンドが玄関に響く。
音だけだ、もちろん傷は残らない。
「十五秒以内に持ち主に返してきなさい」
「……はい」
うな垂れたグラビアアイドルが出て行き、ガチャンと玄関のドアがしまった。
二階にため息をつきながら上がると
饅頭みたいに顔を膨らませた彼女が待っていた。
「こんな、かわいい悪魔が抜いてあげるって言うのに……もうしらないっ!」
腕を組んで、プイッと横を向く。うむ、まぁ努力は認めるわ……。
ああ、そういえばやっとかないといけないことあるな。
「なぁ、名前、名前つけてもいいか」
その瞬間、顔が紅白饅頭みたいになっていた彼女が眼を輝かせて
全身で喜びを表すように俺に飛びついた。
「真名教える!オブブ・ダー・ア……」
慌てて口を塞いで、指を一本立てて俺の口にあてて
"しー、静かに"のジェスチャーをした。
「あくまで俺がつける仮の名だ。本当の名前は教えて貰うと困る」
賀寿明も悪魔の名前は知ってしまうと、やばいと言っていたしな。
「……ま、いっか。かわいいのがいいなー」
と、いったもののとっさにはいい名が思い浮かばねえええええ
ううううう、オナ、オナニー、ONANI、ONAN、NONA、ノナ、ノーナ?
ノーナだ!
……ロック好き的には何か某兄貴の顔が出てくるけど、
お前らは気にしたらダメだぞ。約束だ。
余談だが兄貴のマイケル評伝はマジで神。泣いた。
「ノーナ!ノーナでどうだ!」
「わぁ!いいね!おっさん!すごいいい!地味にセンスいい!」
ノーナは嬉しそうにピョンピョンと二階中を跳ね回る。
俺も上手くオナニー騒動をごまかせてほっとしていた。
こうしてリアル悪魔系女子ノーナが爆誕した。
ん、お前らなんか言い忘れてたことあったっけ?
ああ、俺のできない日課はどうなったかってこと?
うん……オナ禁最長記録を達成しつつある。
何かしらんがお肌ツルツルだ。