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第五話空っぽ

「てか先輩。そんなことよりも、このスニーカーなんですか?

 やばくないっすか、これ」


賀寿明は、俺の硬く握った手を少しだけ優しく握り返してから

華麗に腕を解くと、玄関周辺を見回した。

さすが一流霊能者、どうやらデビルトナカイビッチファッカーが

玄関の端にそろえて置いていた白いスニーカーを早くも見つけたみたいだ。

「そうなんだよー……これに悩まされててな。なんとかできんか?」

俺は潤んだ子犬のような眼で賀寿明を見つめた。

「んー、あちらさんの事情は俺わかんないけど

 けっこう上みたいですね。家に入った瞬間から気配がやばいっすわ」

"あちらさん"とこいつが言う場合は、国外に縁の深い霊障である。

「う……うえと…は?」

「少なくともあちらさんで正式名称くらいあるんじゃないですか?

 そんくらいはやばいです」

う、俺の屁は上級悪魔を呼んでしまったのか……。

「そうだ、正しい名前分かっても呼んだらダメですよ。魅入られます。

 先輩が仮の名前付けるくらいならオッケーです」

「……会ってく?」

「ぜひwwどんくらいやばい姿してるか、面白そうなので見に行きますwwww」

こいつ……楽しんでる……。





2階に上がってトナカイファッカービッチを見た

賀寿明は一瞬あっけに取られていた。

それから今までの物見遊山的な雰囲気を捨て去り

仕事モードにきりかわったようだ。

「んー……先輩がそれほど人間的や霊的に優れては居ないはずだ……

 どういうことだ。何の意図がある……」

何か複雑な宗教用語や計算式をブツブツと小さく呟いて

仕事用の棺おけみたいな真っ黒なガラケーで、色々な所に連絡していた。

「……はい、わかりました。これから接触を試みます。

 私に何かあったら……山の件と……寺の件をよろしくお願いします」

当のトナカイファックビッチは部屋に入った俺たちを

さっきからまったく見もせずに、ヘッドフォンで俺のipodを聞きながら

棚から取り出したシュ○ヘルの6巻を集中して読んでいた。

俺は賀寿明に恐る恐る尋ねる。

「やばいの?」

「パンピーの先輩にも分かるように説明するとですね。

 あれは地震で例えるならマグニチュード8クラスの生きた天災です……」

うわ、やっぱりかー。賀寿明が俺の前で

真面目な顔になるって年に二回くらいしかないし、

やばい気がしてたわ……。





「あれの親玉が10だとすると8ですね。

 中東の某有名紛争地帯なら数百匹飛んでますが、

 アフリカの内戦虐殺地帯でも一~二匹しか居ないクラスです。

 まず、平和な日本には来ないような代物です」

賀寿明はいつになく引き締まった表情でそう言った。

「居るだけでやばいの?」

「何らかの意図があるはずなんですよ。彼らは計算高くてずる賢いのです。

 そして、まったく独自の行動様式があります」

うわー。マジでやべー気がしてきたあああああああああああ……。

「つまり、何らかのエグい目的があるってこと?」

「それをこれから聞き出します。先輩、もし俺に何かあったら……」

その時、シュト○ルの6巻を読み終わったトナカイ(ryが動いた。

「ねー7巻どこー。……あ!お友達?お邪魔してます!悪魔です!

 よろしゃっす!」

賀寿明が何かに押されるように三歩ほど後退する。

「く……先輩、おれ気絶しそうっす……言葉が……出ない」

「あ!トイレですかー。一階の玄関の方にあるよー、案内しようか?」

賀寿明は目の瞳孔が開いて、歯をガチガチさせて使い物になりそうにない。

しかたねーな。ここは先輩の威厳を示す時だ。

「このイケメンのお兄さんが、お前は何しにここに来たのかって聞いてるよ?」

シュトヘルの7巻を読みかけていたファ(ryが目を輝かせて答える。

「うふふ。あーてーてー」

その瞬間、賀寿明はヒザから崩れ落ちた。

俺は、奴が頭から床に倒れないようにとっさに支える。

「バカンス?」

俺は相変わらず何ともないので賀寿明を床に寝かしつつ、代わりに質問をつづけた。

「んー。ちょっとちがうかなー」

俺の足元では仰向けに寝かした賀寿明が麻痺したようにビクンビクンと震えている。

「逃避行?」

わが意、得たり!と言った感じのトナ(ryがベッドの上で手を振り回して

かわいらしくピョンピョン飛び跳ねる。

「あたりいいいいいいいいいい!!仕事もう飽きちゃってさっ!

 やめちゃったー。安月給でさー、殺風景な砂漠勤務を百五年も勤めたからいいよね?」

ほー悪魔にも仕事あんだなー。と思っていると

足元に生暖かい何かが……うわっ、賀寿明、気絶したまま失禁しやがった……。

「だからトイレって言ったのに……。

 せっかくのイケメンがおしっこ塗れになるの嫌だし-、庭に撒いとくねっ」

そう言うが早いか、足元の黄色い液体は

靴下や服に染みた分も含めて消えうせた。







「なぁ……、お前ってやばい悪魔なの?」


気絶したままの賀寿明を下に連れて行き、和室に布団を敷いて寝かせた後

俺はニヤニヤしながらシ○トヘルの9巻を読んでいるデビルトナ(ryに話しかけた。

「んー。何千年も仕事で生き物の苦しみや血を見るのも飽きちゃった。

 私はもう遊び相手が欲しいだけなの。

 おっさんくらい、何も無くて空っぽなら私が入っても壊れないし。

 つまり、無職悪魔のわたくし!あなたに宿借りてます!あざっす!」

悪魔トナ(ryは、頬を赤らめながら、嬉しいそうに笑った。

「えー」

なんだそりゃ。この数々の黒歴史を誇る立派な無職の俺を空っぽとか舐めてんのか。

「えーって何よ……」

何よ。じゃねえぞ……。

「何かいい話っぽくまとめようとしてるのが気に入らねぇな……」

要するに悪魔にとり憑かれたというわけだしな。

「あっ、あとね。賀寿明さん?だっけ?ごめん、おっさんの心読んだ。

 あの人は力強すぎて、わたしは姿隠せないから……」

それで俺の両親には姿を隠していたのに、賀寿明には端から姿を現してたのか。

「悪いけど、これからもよろしゃす!って言っといて!」



一階でこのやりとりを何も知らずに安らかに眠っていた、

賀寿明の身体が無意識の恐怖からビクンッと大きく跳ねたのを

俺たちは知らない。

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