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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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39/41

エロCG

滅多にないのだが、時々

変なものに感動してしまい、それに何日も囚われることがある。

子供の頃、家の二階の窓から

ずっと暮れていく太陽を、吸い込まれるように

見つめ続けていた時があった。

なんか切ないが、その感情の正体が一体何かわからない。

「あー、たまたま見た連作の学園物のエロCGに感動してしまって

 何日も郷愁に浸ってると。バカじゃないの」

勝手に頭の中を読んだノーナが言ってくる。

「な、お前……もうちょっとこの未来の文豪の文学的な感情をだな……」

「ちょっと見せなさいよ」

ノーナはベッドから降りてきて、俺の頭の中を読み

勝手に検索してしまう。

「ふーん、ほうほう、ふーん。

 この人は天才ね」

「だろ?不意打ちくらった気分だわ」

「表現方法如何に関わらず、人を感動させることはできるわ。

 けどねー、うんとねー言っていいかなー」

「何が言いたいかは分かるけどな」

ノーナは散々貯めてから口を開く。

「おっさん、キモイ」

「はいきたー。はい自覚してまーす」

「年相応の文学作品とか、映画で感動しなさいよ。

 エロCGで感動してるんじゃないわよ」

「いやだって本とか映画は、もう腐るほど見ましたし……。

 音楽も腐るほど聞いたわ」

「まあねーヒマ人だからねー」

「暇言うな。忙しいわ。ウンコマンを毎日書かないといけないんだよ!!」

ノーナはベッドに戻って、タブレットを見ながら

「産廃量産してるだけじゃない。

 回線の無駄遣いはいい加減やめなさいよ」

「そんなことより、この気持ちをどうしたらいいんだよ……」

「玉川さん抱いてあげたら?

 電話で呼び出して、即ラブホ行ったらちょっとは気が晴れるかもよ?」

「アホか……お前に操られてる状態で抱けるかよ……」

「そっかー。女の抱き方も忘れちゃったかー」

「おっ、覚えて……いや、無いかも……」

一昔前とは言いたくないが、それくらい前かもしれない。

「私が思い出させてあげようか?」

「いや、いいです……」

悪魔の誘惑をかわしつつ

またエロCGが俺の頭の隅を掠る。

「うっ、切ない……クソッ、どんな感動的な名作映画を見ても

 こんな気持ちになったことないのに」

「解説してあげよっか?いや、してあげるねー」

ノーナがタブレットをポチポチと操作しながら

「えっと、ヒロインの髪型が諸におっさんのタイプでー。

 そんで色々と弱いその女の子が犯されたりして

 汚れていくんだけどー、どんなに汚されていても

 その子を好きなままの男の子がー。最後の女の子の必死の告白をー」

「い、いや……やめろ。それ以上言うな」

「受け入れるんだよねー。凄いよねー

 素人が描いた鬼畜系のエロCGが、ここまで昇華してるの私も見たことないわ。

 そりゃ涙腺の弱りに弱ったおっさんは泣きますよね」

「お前の説明だと、よくあるエロゲやエロ漫画みたいになるだろ。

 ……いや、両方それほどよくは知らんが……」

「でも、いいと思うわよ。

 枯れてて産廃小説もどきばかり書いてるキモイおっさんが

 一時でも人の心を取り戻せたんだからね」

「うぅ……」

いやちょっと待てよ。

「いいと、思うわよ……?」

「いやいやいやいや言ってない言ってない。今の無し!!」

ノーナは全力で首を横に振る。

そして誤魔化すように

「そんなことより!!」

「いいと……思うわよ?」

「なしだってば!!それよりも!!」

「……いいと、思うわよ……?」

「ちょっと、いい加減にしてよ!!悪魔がそんなこと言うわけないでしょ!!」

「まあ、許してやるわ。何だよ、言ってみろよ」

ノーナは顔を真っ赤にしながら

「玉川さんが今度は変な宗教に引っかかったわよ!!」

「おい……なんでそれを先に言わなかった……」

「いや、面白いそうだし内々に処理しようかと思って」

「どうせその宗教を乗っ取って、どうこうだろ……」

「うん。もう乗っ取った。珍宝運故教っていう下ネタみたいな名前だったから

 野雨奈教ってかっこいいのに改名させといたわ」

「ノーナ教ってな……お前……」

「で、これから行くんだけど、一緒にどう?」

「分かった……玉川さん救出したら帰るからな」

「それはどうかなー?」

ノーナの眼が怪しくキラリと光ったが俺は見ないふりをした。


十分後。俺の運転する車は、郊外への道を走っていた。

「ノーナ教の教祖は、運峰戸入っていうんだけど

 やばくない?うんぽうといれよ?なんでそんなに

 ネーミングを下ネタに振り切ってんのよ」

「まあな……関わる気はないぞ」

人の名前を悪く言うのは嫌いである。

適当に雑談しながら運転していると

さらに二十分くらいで、市内の西端の海が見える高台に

ポツンと聳え立つ趣味の悪い建物を見つける。

「ダセえな……」

七色に塗りたくられた四階建てのビルの横の

珍宝運故教というやたらでかい看板に書かれた文字の上から、

野雨奈とむりやり新しい看板が打ち付けられている。

「昭和の時代に個人商店の店主か、税金対策で作った宗教法人が

 まだ生き残ってたみたいでねー」

「詳しいな……」

「昭和……ジャパニーズ漫画の全盛期よね……」

ノーナが遠い目をする。

「今のがいいだろ」

「芸術性の極めて高いのは、あの時代のものよ」

「そうかなぁ?それも今のがよくないか?」

俺は車はビルの近くの道に横に寄せて停める。

ここならしばらく止めても、駐禁は切られないだろう。

「さ、じゃあ行きましょうかね」

俺たちは、ビルへと近づいていく。

ビルの入口からロビーへと入ると、カウンターから真っ白な長い布だけを被った

綺麗な女性が近づいてくる。

「ノーナ様、お帰りなさいませ。

 その方が例のあのお方ですね」

「そうよ。運峰に始めると伝えて」

「はい。直ちに」

女性が立ち去ると

「お、おい……何なんだよあの格好は……」

「この教団の女性用の聖衣よ。まあ、それは表向きで

 教祖が脱がせやすいから、あれなんだけどね。

 下には何も履いてないわよ」

「うーわー……エロジジイなのか……」

「そゆこと。今まで散々いい思いしてきたけど

 私に見つかったのが運の尽きってことよ」

「い、いや……俺はもう帰るからな……」

回れ右しようとすると

「たーまーかーわーさーんー」

ノーナが引き留めてくる。

「うっ……仕方ない、行くか」

古びたエレベーターに乗ってノーナが四階のボタンを押す。

チンっと到着音がして、エレベーターの扉が開く。

そして俺は、異常な雰囲気のその階にひるむ。

「四階じゃないわ。3.5階よ。時空を歪めて作ったの。

 さあ、どうぞ」

俺はキョロキョロと見回しながら

「異空間……なんでそんなものを……」

「そりゃ、痕跡が残らないようにするためでしょ」

「おい……なんか企んでるんじゃないか……」

ノーナはニヤッと笑いながら、俺をコンクリートでできた

薄暗い通路へと押し出す。

そのまま奥へと歩くと

奥の部屋の入口から男女が合唱している

お経らしきものが流れてきた。


「ノーナーさまーは宇宙ぃちぃ。そこにーひかれるーあごがれるぅ」

となんかの下手なパクリを連想させる

そのお経を聞きながら、部屋の中へと入ると

「おおー!!」「ノーナ様!!」

真っ白な服を着た男女が一斉にノーナに床に頭を擦りつけながら

崇め奉ってくる。

数は百人くらいだ。

奥にはグツグツと煮えたぎっている窯の上に

吊られて縛られたまま、気絶しているパンツ一丁の太った老人が見える。

あれが運峰さんなんだろう。

私腹を肥やして、良い思いも沢山したのだろうが。

最後がリアル悪魔に捕まって窯ゆででは死にきれまい。

「放してやれよ」

俺がノーナに呆れながら言うと

ノーナはいきなり信者たちに

「いま!!神があの大罪人を放せと私におっしゃった!!」

高らかに宣言して

信者たちは一斉に

「おおー神じゃ……」「生き神様……」

何か高貴なものを見るような目で俺を見上げてくる。

「あのさ……もうこの遊びやめない?」

ノーナは俺を無視して

「信者玉川、ここに出よ!!」

部屋の隅で他の信者たちと同じように

俺を崇め奉っている玉川さんを、ビシッと指す。

まるで操られるように玉川さんが、俺たちの前へと歩いてきて

「神は貴様を所望している。望みをかなえよ」

ノーナの言葉に玉川さんは頷いて

真っ白な服を脱ごうとする。

「まっ、待った。待て待て待て待て」

俺は玉川さんに飛びついて、服を抑える。

恐らく下は何も着ていない。

「やりなさいよ。今がチャンスでしょ」

「おい……見られながらやる趣味は無いわ」

「興奮して楽しいのに。みんな操られてるから記憶も残らないし」

ノーナは呆れた顔しながら

玉川さんに指をさして、気絶させた。

慌ててその身体を支える。

「帰るぞ」

「えー。ここからが楽しい所でしょー」

俺はノーナを無視して玉川さんを背負って

外へと歩き出した。

ノーナもため息を吐きながらついてくる。

「宗教法人もちゃんと解散しとけよ」

「いやでーす。玉川さん以外は私のものでーす」

「……せめて運峰さん殺すなよ」

「あれは特性スープの出し汁をとってるだけだから。

 悪人の脂汗っておいしいのよねぇ」

「ノーナ……キモイ」

仕返しだ。

「はい知ってますー自覚してますー」

俺の返しを真似て、ノーナは口笛を吹きながら

エレベーターに乗り込んで

あっさり一階のボタンを押す。


帰りの車の中で、正気に戻ったらしい玉川さんが眼を覚ます。

「あ、あれ……なんで、この服は……」

ノーナが玉川さんに

「それねー近くの河川敷で気絶していたんですよ。

 おっさんが見つけて、

 家まで送ってる途中ですよー。ちなみに私は妹ね」

「妹さんが居たの?」

「う、うん」

「そっか……」

玉川さんは頷いた。

俺たちが悪戯したとか疑われたら

面倒だなと思っていたが、それは無いようだ。

「私……またやっちゃったのかな」

一人で寂しそうにつぶやく玉川さんを

「大丈夫だよ。大丈夫」

と励ましながら

家まで送る。



送り終わって自宅まで帰ってきて

自室でウンコマンの続きを書き始める。

今日は悲話らしい。

ウンコマンにサオトメウーメンという

彼女ができるのだが

敵の攻撃からウンコマンをかばって

あっさり死んでしまう。

彼女の墓に想いでの時計を置いていく

ウンコマンの後姿に夕日が射す感動的なシーンを

描き終わって俺は、投稿ボタンを押した。

「ふぅ……」

「やっちゃえばよかったのに」

ノーナが呟く。

「例えやったとしても、何にもならないだろ。

 俺の日常が何か変わるのかよ」

「ちょっとすっきりするでしょ」

「それだけだろ。無職と無職が性欲におぼれても

 とくにいいことは無いわ」

「せーっかくエロCGで人間性が蘇ったのになぁ。

 また枯れ始めた」

「……まあ、ちょっとはやりたかったよ」

初恋の人である。やりたくないといったらウソになる。

「でしょー?たかが性欲なのにねー」

「人間は複雑なんだよ」

ノーナは俺の言葉にはもう答えずに

ゲーム機で格闘ゲームを始めた。

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