良心
「良心ってさー」
ノーナがのたまう。
「悪魔っぽくない言葉だな」
「まあ、私は悪魔だけど、結局因果応報ってあるわけよ」
「何言ってるか分からない。
ウンコマンが今いいところだから、黙って」
筆が乗ってきたところである。
このまま夜までにあと一万字は加筆したい。
キーボードを猛烈な勢いでタイプしていく。
「ねーおっさん幾ら書いても無駄だって。
才能無いんだから」
「やってみないとわからないだろ!!」
「うわーキラキラした目で見ないでよ。キモ……」
ノーナはドン引いているが
無視して書き続ける。
「でーですねー、因果応報の話ですけどー」
「……」
喋りたいままにしておく。
「最後の審判って知ってる?知ってるよねー?
神がさー、今まで生きてた全ての人間を蘇生させて
一人ずつ裁判にかけるってやつねー」
「……」
「私たち悪魔の見解ではですねー。
神にそんな力はないっていうか、
人間たちが思うような神って、現実には居ないのよね」
「……」
「神が居るとしたら、知的生命体の心の中にある善意とかが
固まった何かだと思うんだけど。四次元生物の私たち悪魔とは違う
精神世界に棲まう超生命体が、いわゆる神ね。
つまり神っていうのは現実には、直接干渉する手段をもたないわけ
天使が人間に近いって前に言ったでしょ」
「……」
「でもー私としては最後の審判って来ると思うの」
「……」
ノーナの意味の無い話は無視して
ひたすらキーボードを打ちまくる。
「ただし」
「……」
「ネットで文章を書いたり、画像をアップするように
なった世代以降にねー」
「……」
「いつか、機械文明が今より遥かに発達した時にさー。
仮想空間に、過去の書き込みや画像やデータを元に
過去に存在した人物を再現することは可能だと思うわけー」
「……」
文章がさらにのってきた。これは二万字越えかもしれない。
「みんな匿名だと思ってるけど、ネット上で本当に匿名なのは
一握りの空間だけで、IPアドレスとか全部記録されてて
しかも国家的な諜報組織とかが、巨大な個人情報集積装置とかを
実際に起動させてるわけでしょ?スノー何とかさんも言ってるわよ。
黒人の大統領も実際にやってたの認めたわけだし」
「……」
与太話に付き合っている暇は無い。
ウンコマンの方が大事である。書きまくる。
「ということは、書き込みが増えるほど、
書いた人たちの人格がどんどん実物に近く再現されていくわけ。
で、未来の仮想空間では、そういう過去の国家によって集積された個人情報で
過去の人物たちが再現蘇生されて、未来人たちにあれやこれや言われるんじゃないかと
私は思ってるんだけど」
「……」
うおおおおおお!!!!
ウンコマン死ぬなあああああああああ!!!自分の書いた内容で
涙ぐんでしまった。
「でさー、今偏ってることを書いてる人たちは
未来に仮想空間で再現された人格が、知能が遥か上の未来人たちから
まあ、あれやこれやと批評されるわよね。
それが最後の審判だと思ってるんだけど」
「……」
くっ!!ウンコマンが異次元に封印されてしまった。
このままではシリーズが終わってしまう!!!
ここはウンコマンの盟友ヘドロマスクの登場だ!!!
「まあでもねー、殆どの人は、それは本人じゃないから関係ないとか言うと
思うんだけど、集積された個人情報によって
親戚縁者も当然辿れるわけだから、関連付けられた
データによって、未来の子孫たちが迷惑を被るかもしれないってわけ
それに名前なんてのも当然匿名の盾をぶっ壊されて
実名で永遠に残るわけだから、よく考えるととても恥ずかしいんだけどね」
「……」
ふう。ヘドロマンの活躍によって
ウンコマンは何とか窮地を脱した。ここまでで五時間一万字である。
クソ。俺の湧き出る才能が憎い。もっと時間さえあれば……。
「ちょっと聞いてるー?
とはいえ、親戚縁者も関係ねえ!!俺は暴言吐きまくるって
人も当然多数居るわけよね。そういう人たちは
まあ、私たち悪魔の眷属みたいなもんだから
しょうがないわよね。むしろウェルカムっていうか
同業たちが魂をもっていくのにもってこいというか」
「……」
ウンコマンは救ったゴバルモッザ第三惑星の世界政府主催の
パーティーに招待された。なんだ、いい展開になってきたじゃないか。
これで今回の話は傑作になったと約束されたようなものだ。
「でさー良心って大事よねって思うわけ。
ちょっとした書き込みが、未来で大事になるかもしれませんよ。
あ、でも、そう考えると、偏った思想で頭を汚して
あえて酷い書き込み沢山させるのもありの様な気がしてきた。
そっかでも……それはいろんな国で同業がもうやってるか……」
「……聞いてたけどな」
「お、何よ。聞いてたなら言ってよ」
「言葉って成長と共に変化していくだろ、人格も変化していくわけじゃないか?
だからすべての言葉を集積したからって
その人そのものになるかは分からないだろ?
言ってること、ちょっとおかしいっていうか、穴があるよな」
「……そっかなあ」
「それに悪魔のお前が良心とかいうと怪しい意図しか、感じんわ」
「まあねー。ただ、繰り返しでしょ?
露悪的なものが次第に消えていって、正しさを人々を求めだしたんじゃないの
昨今は。そして正しさに飽きたらまた露悪し始めるわけ。
ただの遊びね」
「そうかな。戦争も国家的な圧力みたいのもあるし
現実の世界ってこの宇宙が生まれてから今まで、露悪的で、醜悪なままだと思うけどな。
ただ、だからって、その流れに乗って、他人を差別するみたいなのは論外だとは思うけど。
人の善意をどんな世相でも信じ続けることが、本当の正しさだろ」
「おっさん、言ってることつまらないわねー。つまらないわよー。
偏りこそが才能よ。歪さこそがオリジナリティよ。
著名な作家や感動的な作品を作る芸術家に、抽象的な世界でしか通用しないような
せせこましく残念で偏った
ゴミみたいな思想の持ち主がどれほど居るか知らないの?」
「悪魔のお前に言われてもなあ。残念じゃない人の方が多いだろうし」
「逆におっさんは書いてる作品は、シモネタに偏ったゴミなのに
性格は普通よね。普通に働いてれば良かったのにね」
「はいはい。そのくらいの皮肉はもう効かんわ」
ノーナは思い出したように
「久しぶりに、シヴァルザークに帰ったらさー」
「うん……」
「ババロッティっていう宗教家が無垢な民を洗脳しようとしてたから
とりあえず、おぞましい化け物に魔改造して
適当な異世界に放り込んでおいたわよ」
「ああ、そう……」
「怒らないの?」
「いや、最近、お前何かいいやつだから、その宗教家が悪かったんだろ。
たぶん……」
とうとう良心とか言いだしたので、かなり脱悪魔してきて居るような気がする。
「な、何言ってる。私がいいことなんかするわけないじゃない。
あくまで私の星を汚そうとしたからよ」
ノーナは照れて、漫画に顔を隠して読み始めた。
俺はウンコマンがパーティーで暗殺者に毒を入れられて
苦しんだ末に、毒ウンコマンⅡに進化するところから
続きを書き始めた。




