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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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新作を書こう

「新しい、連載を始めようと思う」


パソコンに向かって、そう言った瞬間にノーナが

満面の笑みでベッドから飛び降りてきた。

「と、ととととうとうウンコマン放棄するのね……。

 あんな文章の産業廃棄物をよく続けたわ……」

ノーナは一人で喜びの舞を始めた。

ワンワンオは留守なので、踊るスペースはある。

「い、いや……あくまで、ウンコマンは継続しつつな……」

そこまで喜ばれると、気持ちが悪い。

「まあ、それはいいでしょう。じゃあ、私の仕事は

 おっさんにヒットの喜びを知ってもらうための

 設定作りね!!」

「お、おう……頼んでないけどな……」

「いいわよ!!任せてよ!!

 もちろんただでやってあげる!!」

ノーナははり切って、自分のタブレットをベッドから持ち出して

メモアプリを開く。

「えっとー目的は、どんな文才がない人でも

 それなりに好評になる話よね」

「いや、天才である俺に相応しい話をだな……」

「黙ってて!!」

「はい……」

ノーナはしばらく考えて

「やっぱりまずは異世界転生ものよね。

 おっさんのクソ文章力が炸裂してどんなに面白くないものになっても、

 それなりに一見さんが試し読みはしてくれるわ」

「……」

「でーやっぱり世の中の大半の人が興味あるラブロマンスね」

「恋愛か……」

「戦いもあるといいわね」

「ふむふむ……世の流れにうとくてな……」

「あとは捻った仕掛けを何か一個もってくればいいわ」

「仕掛け?」

「異世界の飯屋で働くとか、RPGで使えない種類の武器が

 大活躍するとかかな。ま、でもこれじゃ有名作品のパクリになる可能性が高いから気をつけてね」

「覚えとくわ」

「それくらいかな。あとはちゃんと設定を作って

 話の流れを決めて書くと良いわよ」

「閃いた!!」

「……嫌な予感しかしないけど言ってみて」

「異世界に転生した遺品整理屋が、異世界で遺品整理する話はどうだろう!!」

「……視点は悪くないけど、たぶんもうあるんじゃないかな」

「そうか……確かに小説家になるおが始まって

 もう七年くらい経ってるからな」

「アイデア出しは重要よ。もう少し、頑張ってやってみて」

「閃いた!!」

「どうぞ……」

「異世界に転生した掃除屋が、異世界のトイレを綺麗にしていく話はどうだろう!!」

「……汚物から離れなさいよ……」

「そうか……やはり汚いのはダメか……」

「私が色んな作品を見た感じ、シモとかグロいのをメインで扱うと

 読者層が限られてしまう感じがするのよね」

「そうか……分かった。考えてみるわ」

俺は真面目に長考する。そして

「閃いた!!」

「どうぞー」

「異世界に転生したヲタクがなぜかめっちゃもてて、エロいことしまくって

 ハーレム作るのはどうだろうか!!」

「ありがちなうえに、それじゃ、

 小説家になるおの十八禁向け別サイトに強制移動させられるわよ。

 小中学生の子が見ても、素直に面白いと思える健全なの考えなさい」

「そうか……ダメか……」

「ロボットとかどう?異世界でロボットで戦うの」

「描写がめんどいな……」

「じゃあ、剣と魔法ね」

「あとは定番と言えば学園ものだな」

「学園ものはねー。いいアイデアだと思うけど

 わりと溢れている上に、すぐに宇宙とか異次元とか言い出す

 おっさんが学園内という限定された設定に耐えられるかな……」

「じゃあ、病院とかどうだ」

「ホラーとかなら、いいかもね。でもホラーも読者層が限定されるわよ。

 受けたいだけなら、できるだけパイを最大化させたほうが無難ね」

「難しいな……」

「閃いた!!」

「ドウゾー」

「異世界に転生したら、その世界の鍵となる特殊能力をもつ幼女に出会って

 その幼女と二人旅するという内容はどうだろうか!!」

「子連れ狼パターンね。ふーむ……まあ、ありがちだけど保留しときましょう」

「よし、どんどんアイデア出すぞ」

「その調子よ」

「ぐぬぬ……アイデアよ、降りて来い」

「がんばって。私が言っても意味無いからね」

「きた!!これは来ただろ!!」

「どうぞー」

「異世界に転生したら、無人島で、そこで一人で泥人形を作ってたら

 いつの間にかゴーレム作る能力を手に入れてしまって

 島で一人楽しく、ゴーレムたちと暮らしていたら

 海賊がやってきて、そいつらを返り討ちにしつつ

 船を奪って、世界探索に行く話だ!!どや!!」

「正直言って、面白そうな匂いはするけど、それってさぁ……」

「はい……」

「世界探索が目的とか

 またどこまで行っても、話が終わらないパターンでしょ」

「辛いな……もう無意識に引きずられるのはいいな……」

「起承転結できそうなのにしときなさいよ」

「はい……」


その後もアイデア出しは深夜まで続いたが、ろくなのは出なかった。

へこたれた俺の口から弱音が次々と漏れる。

「もういい……どっかの病院にとりついている幽霊の話にする……」

「なんでホラーになってるのよ……」

「じゃあ、でかち○こで戦う勇者の話にすりゅ……もう十八禁でいい……」

「凹んでる場合じゃないわよ」

「ううう……アイデア出しって辛いな……」

「そうね。あと丸太で戦う異世界転生ものはもう有名なのあるからダメね」

「頭の中を読むなよ……丸太もダメか……」

さらに朝まで俺とノーナのアイデア出しは続いた。

「これだ!!閃いた!!!」

「言ってみなさいよ……」

目の下に隈を作ったノーナが睨んでくる。

「ウンコの精霊が宇宙をまたにかけた死闘を繰り広げる……」

スパーんっとノーナから後ろ頭をハリセンで叩かれる。

「元に戻ってますよ」

「……やはりダメか……」

「もっとこう超王道でー子供が読んでもワクワクする話はないのー?」

「今の子の流行が分からない……おっさんなので……」

「正直でよろしい。よろしいがその壁は乗り越えないとね」

「やっぱ、悪い奴がいて、それにいじめられている何かを助けに行く話がいいよな」

「そうね。そこが基本よ」

「で、仲間がいて。つうか異世界転生はやめようぜ」

「なんでよ」

「現代人ならまともな展開にはツッコミいれたくなるだろ。

 そんなになるか!!ってな」

「……確かに」

「異世界ファンタジーをまっすぐ書こう」

「ふむふむ」

「嫌味の無いキャラクターで悪い奴も悪い理由がある」

「それは今の流行ね。いいかもしれないわ」

「主人公はひたすらいいやつな。努力家で仲間思いで」

「ヒロインは清純で……あーやっぱりダメだ!!」

「もう飽きたのね……」

「つらいです!!捻くれていて捻じ曲がった話を書きたいです!!」

「おっさんには無理か……じゃあ恋愛ものとかは?

 異世界ファンタジー並みに読者層が広いわよ」

「そこそこ恋愛経験がないことはないが、恋愛に夢を見るほど

 若くも無いんだよな……」

「そこを何とか……」

「そもそも若い子の恋愛が分からん」

「そこはファンタジーで……パラレルワールドってことにして

 殆ど近代だけど、ちょっと何か違うみたいな」

「ぐぬぬ……」

「ほらもうちょっと」

「働かないことが美徳の世界での恋愛ものとかどうだ?

 ニートが最高の栄誉で、働いたやつは二流みたいな」

「いいかもしれないけど、その程度のアイデアなら

 たぶんもうなるおにあるでしょ……創作物での倫理観の逆転って今ではよくあるし」

「くそ……ダメか……難しいな」

「無意識から毎日アイデア引っ張ってきて、楽してるからよ」

「書いてて楽しくないとな……そもそもプロットとかあると

 作者の俺は先が全部読めるわけだよ」

「いいじゃない。読者との情報格差を利用するのが

 創作物の基本的な手法のひとつでしょ?」

「そういうのに楽しみをあまり見出せないんだよな……。

 俺も読者と一緒に笑いたいし、唖然としたいわけだよ……」

「贅沢すぎでしょ。それなら、なるおの読者になりなさいよ」

そこから何も出ずに三十分ほど時間が流れた。


「……手持ちのカードを並べなさいよ」

「そうか。書けるネタだな。ちょっと考えてみるわ」

「どうぞ」

「中世ファンタジー。一昔前の学園もの。SFもどき……

 実は心霊ものも書ける。書けるが……半端だな」

「少ないわね……他には何かないの?」

「そうだな……ネトゲのことは書けるな。あとバンドも多少は知ってるぞ。

 歴史も物凄い偏ってるがそこそこは知ってるぞ」

「いまおっさんの頭の中読んだけど、殆どジャンクね。

 書いてるジャンルを研究してる本物の知識人作者も多いなるおでは情弱クラスだわ」

「ネットの海は深いよな……」

「つまり、おっさんは浅い知識で、できるだけ読者層の多いところで

 書くしかないわね」

「捻くれた異世界転生ものか……」

「そうなるわね。私がよんでるクソ長いカナ文字のタイトルの

 何が表現したいのか分からない、会話文だらけの

 毎日投稿が取り柄なだけの駄作みたいなのね」

「そこまで言うなよ。お前好きなんだろ……」

「でも、ああいう駄作はあのクソ作者がもうやってるから

 違うのを連載しましょう」

「そうだな……たぶん、いくら書いても受けないからな」

「……十八禁のアイデアとかはどうなのよ」

「んー……たぶん、表現に気を使わなくていいなら

 深い闇を見せることになるからな。そういうのは最後の手段でいいな」

「まあねぇ。おっさんのキモイ性癖なんか誰も知りたくもないわ」

「……どうすっかなあ……」

「じゃあまずは、受けそうな主人公作りから始めなさいよ」

「キャラからいくか。よし今の流行を教えてくれ」

「童貞っぽい嫌味の無い少年が多いわよ。

 女の子ならちょっと天然入ってる、でも言動がウザくない、憎まれない感じね」

「無理だな……」

「おっさんがそういうキャラじゃないからねー無意味に汚れてるからねー」

「なあ、ノーナ……」

「うん」

「やめよう。まともに書くのはやめよう……」

「……言うと思った……」

「廃病院にとりついた女霊と

 そこをねぐらにしているおじいさんホームレスのハートフルストーリーにしよう」

「何でホラーな上にさらにニッチなジャンルに向かうのよ。

 幽霊萌えはあることはあるけど、市場が凄まじく狭いわよ」

「最後は悲劇なんだけど、ちょっとあったかい感じで終わるぜ。面白そうだろ」

「……面白そうだけど、おっさんにはそんな高度な展開は無理じゃないの……」

「……ぐぬぬ」

「ほらほら、もうちょっと頑張って」

「……異世界に転生したおもちゃの話とかどうだろう」

「主人公を物にするか……まあ、なくなもないな」

「童話にしよう。絵本を目指そう」

「そうね。じゃ、それもアイデア保留で」

「幽霊がバンドを始めたけど、楽器がすりぬける話はどうだ!!」

「……疲れてきたのね……」

「はい……すいません……アイデア出しとかやったことないんで……」


その後も話し合いは続き、とうとう俺たちは新作を書くアイデアへと辿りついた。

「これだ!!」

「そうよこれよ!!これこそ新しいアイデアよ!!」

俺たちはしばらく喜びの舞を踊る。


数日後。

俺は元ゲーム会社の新エネルギー開発会社に出社しているノーナに

無断で少しアイデアを改変して、その話の第一話を勇んで書き上げて

投稿ボタンを押した。

そして……。


異世界に転生したおじいさんが異世界の馬車に敷かれて死んで

そしてウンコの妖精として現代に逆転生するその話は

誰にも省みられることなく

アクセス5とかのまま、一話のみで永遠にネットの海を漂うことになった。

ノーナはもう一ヶ月も口を聞いてくれない……。

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