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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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35/41

ダンプ

「某ギャグ漫画の人がな」

「あーまたロクでもないこと考えてるんでしょ」

こちらを見ずに答えたノーナは珍しくソシャゲをやらずにベッドで漫画を読んでいる。

ワンワンオは外出中だ。

「ダンプカーとか……最終手段として使うんだけど……」

「……漫画読みには有名なやつね……展開に行き詰ったり、打ち切りになったら

 登場人物が全員にダンプカーに敷かれて死亡するという……」

と言ったノーナは俺を指差し

「あー!!分かった!!」

と嬉しそうな顔で

「ウンなんとかマンを止めたくなったんでしょ!?」

俺は仕方なく軽く頷く。

「ウンコマンが宇宙に残る傑作なのは間違いないんだが

 なんというか、いつ終わるか分からないのがな……」

「まあねーあれだけ下手糞な文章で無軌道に好き勝手書いてたら

 そろそろ恥ずかしくなるわよねー」

ノーナは腕を組んで大いに頷きながら

「うむ。止めてもいいわよ!!私が許すわ!!」

「いや、でもな……読者のみんなが……」

「殆どアンチじゃない!!ヒットの匂いも、お金の匂いもしない駄作を

 よく一年以上書き続けたわよ」

とノーナはベッドから降りて、俺の耳元で

「……もう、ゴールしても……いいんじゃよ……」

と妖しげに囁く。

「い、いや……でもウンコマン書かなくなったら……俺はどうなってしまうのか……」

「異世界転生ものでも細々と書きなさいよ。

 おっさん程度の文章力と構成力でも毎日書いてたらファンがつくわよ」

「ぐぬぬ。異世界転生ものだけは書いたら負けだと思っているんだが……」

「今、世の中の人は現実に飽き飽きしてるから

 他の世界に行きたいのよ。異世界転生もの書きなさいよ」

「ぐぐ……」

俺はリアル悪魔の言葉囁きに正直なところ惹かれている。

……みんなはこんな話を知っているだろうか

世界一長い話を書いた男の話を

その男はチラシの裏などに自筆の挿絵と共に延々と

異世界で戦う少女たちの話を書き続けた。

死ぬまで独身だった男は、死後に親戚が遺品整理に来るまで

誰にも告げることなく

ひたすら一人で自らの妄想を書き続けたのだ。

男の作品は彼の死後に「世界一長い物語」として

芸術作品になり、世界中の人が彼の名前を知ることになった。

俺の心の師匠の一人だが

……俺ははっきり言ってそんな人生は嫌である。

もっと楽しく生きたいのだ。

そのために異世界転生ものを書かなければならないのなら

書くべきなのだろうが、だがやはり……。

「なに、悩んでるのよ。異世界転生ものを書くなら

 まずはキチンとネタを仕込むのよ。ここに物凄い大失敗してる例があるんだけど」

と手に持ったタブレットで、三百日近く書かれた異世界転生ものを俺に見せてくる。

タイトルは何がテーマなのか分からない、長ったらしいカタカナ文字だ。

小説家になるおトップのヒットチャートに出てくるような大ヒット作品の真逆である。

「……ああ、これは確かにな……」

すぐに何が失敗か俺には分かった。この作者は基本的に何も考えていない。

毎日出たとこ勝負を繰り返しているだけだ。

こんな好き勝手な書き方では人に受けるわけが無い。

「これってさー途中でネタ切れになって

 でも着地点が全然見つからなくて、無理やり続けてる感じでしょ?」

「だろうな……でもよくこんなに書いたもんだな」

俺は最初から読んでみて、少しその無駄な努力に感心してしまった。

完全にナチュラルなアイデアだけで書き続けているのは分かるが

世の中の人々はそんなに甘くないのである。

本気で受けたいのならば、受けるための戦略と分析が必要なのだ。

そのままの自分というのは自ずと限界があるのである。

生き残るものは自分をそうなりたいように、変えていけるものだけだ。


「おっさんのウンなんとかマンも同じよ」


というノーナの言葉で俺の脳みそに稲妻が走る。

「ま、マジか……い、いやそんなはずは……」

ウンコマンは完全な計算の上に書かれた古典を塗り替える超傑作である。

キャラからセリフ、そしてストーリーまで俺の天才的な頭脳で練り上げられたものを

毎回投稿している。時代に合っているはずだし

熱心なファンとアンチの熱い議論はいつも俺に次の話を書くちからを……。

ちからを……そうか!!

「ノーナありがとうな!!俺、まだウンコマンの続きを書くよ!!」

「……なんでそうなるのよ。ダンプでも宇宙破壊爆弾でも早く出して

 今すぐ終わらせなさいよ……」

読者たちを思い出して、すっかり力を取り戻した俺は

ウンコマンとダンプマンが戦う新しい話一万字を二時間で書き終わって投稿した。

そして感想欄で繰り広げられる今日もファンの声援と、

大多数のアンチの罵詈雑言の書き込みを見て

ニッコリした。


長ったらしいカナ文字の何がテーマなのかさっぱりわからない

下手な異世界転生ものも時々思い出したら、検索してみるが

毎日元気に続きが投稿されているようだ。

最近ようやくソシャゲに飽きたらしいノーナは

「何このクソみたいな展開。最近ずっとこれよ!?いつまで他国に同盟しにいくのよ!!

 権謀術数と力で滅ぼしなさいよ!!少しは頭使ったらどうなの、このクソ作者!!

 あーあ、お気に入りはずしてやろうかしら」

文句を言いながら、それを読んでいる。

何が気に入ったか知らないが、はまったようだ。

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