ミーム
パソコンのキーボードをカチャカチャ叩いて
ネットを見ていると
後ろのベッドで寝転がって漫画読みながら
片手間にソシャゲをしていたノーナが話しかけてくる。
「なにしてんのー?」
「気になる?」
「うん。画面から何か瘴気が出てるからねー」
とモニターを指差す。
「ほんとに!?」
「微かだけどね。呪物みたいな感じよ」
「……」
少し考え込んでしまう。
何をしていたのかと言うと昔のネットでの
創作物を久しぶりに漁っていたのだ。
もちろん、掘られたら面倒なので、小説家になるおには関連付けていないが
二十代の頃や、または十代の頃にネットで発表した
黒歴史の山である。
「ヌコヌコ動画にむっくり実況動画とかあげてたからな……」
「なにそれ」
「ああ、むっくりって言う読み上げソフトがあるんだよ。
それでゲーム実況シリーズとか作ってたわけ」
「もっさんとこのコメント読み上げてるやつね」
「それそれ。んでさー数十分の動画作るのに
三日とかかかってな。さすがに命が幾つあっても足りないから
途中でやめたんだけど……」
「どれどれ……うわ……パート1が再生50万とかあるわよ……人気動画じゃない!!」
タブレットで動画を検索したノーナが仰け反る。
「勝手に人の頭を読んで、しかも探すな……」
「あーでも投稿日が古いし、当時は著作権もクリアじゃないから
お金にならなかったわけね。ざんねーん」
「そこまで人の頭の中身読まんでもいいんだけどな……」
「ああ、おっさんの作品って
ボコボコに批判される代わりに少数の熱狂的信者がつくタイプなのねー
損よねー。広く浅く好かれる方がネットではお金になるのにねー」
「そして勝手に分析すな……」
「おお、もう十年以上前の作品なのに、まだお気に入りを外してない人たちがいるわよ」
「瘴気はその人たちから出てるんじゃないかな……」
「当たってるぽいわよ」
「だよなー……止めたのは実は別に原因が合ってさあ」
「シモネタで通報されまくったんでしょ?」
「う、なんでわかった……」
「だって酷いもの。よく動画が生き残ってたわね」
タブレットで動画を再生しながら、ノーナがのたまう。
確かに投稿してしばらく時間の経った、自動画をエゴサーチすると
通報画面と一緒に検索に上がってきて
それで最後にはビビッて止めてしまったということもある。
「で、他にもあるんだけどさぁ……」
隠しててもいずればれるので、書きかけの物語が書かれているブログや、
そして詩が延々と書かれている個人ホームページ
さらに賀寿明とやっていたバンドの音源の載ったアカウントなどを
ノーナに渋々見せていく。爆笑しながら読んでいたノーナが
一瞬真面目な顔になり
「おっさんさー。昔はちょっと才能あったのね」
「そうなのか?」
「うん。この詩とかいいわよ。でもどっちかと言うと
音楽の詞の方かな。ポエムというよりは」
「そうか……やはり天才だったか」
褒められるとは思ってなかったので、嬉しくなる。
「いや、そこまでは言ってないし……音楽も輪郭が無いのはノイズだからいいとして
もう少し、音の強弱がしっかりしてればモノになったのにねぇ」
「そんなに褒めるなよ」
「褒めてないー。惜しかったって言ってるだけよ」
「でな、お前に相談なんだけど」
「あー続き作れって言ってるんでしょ?」
「そうなんだよ。一生続き作らずに終わりそうだから
終わってないシリーズものの方、何とかならない?」
「んー。難しいわねーおっさんの潜在意識に潜む
創作するための能力を取り出して……」
「あ、やっぱりダメだ。悪魔に願い事するところだったわ」
あぶないあぶない。
「……」
ノーナが黙り込んで考え始めた。
「まあ、多少は才能の片鱗を感じたから、タダでやってあげるわよ」
「ほんとに?」
「私も受けて側の一人だからね。あのウンなんとかマンは殺意を感じるけど
詩と昔の小説にちょっと感動しちゃったから、仕方ないわ」
「でも、これドッペルゲンガー作ってやらせてもいいけど
おっさん、ドッペルともう一回会ってるよね?」
「う、何で知ってるんだ」
小六の修学旅行で出会ったことがある。そっくりだった。
「スリーアウトだからなぁ……残りのツーアウトは残しときたいわよね」
「お、おう。そりゃそうだ」
そうだったのか知らなかった。ドッペルと三回会うと死ぬらしい。
「ということは……誰かに意識を移して、似たようなストーリーを
最初から作らせて、その結果、間接的に続きを作るみたいな感じにするか……」
ノーナは難しい顔をして複雑なことを言う。
「それどういうこと?」
「天使が良くやる手よ。器が足りずに、育ちきれず枯れていく天才性をコピーして
他の個体に代わりに作らせるの」
「……??」
「ほら、早世した天才のコピーみたいな商業音楽とかよくあるでしょ。
あれのことよ」
「あれは天使がやってるの?」
「うん。天才性は全体が次のステージに進むための鍵だからね。
枯れたらその大きな可能性がきえちゃうでしょ?」
俺が首を傾げていると、ノーナが両手を振り上げて
「とにかくー。おっさんの僅かな才能をコピーする相手を探さないとねー。
希望の相手とか居る?」
「いないなぁ」
「じゃあ、私が勝手に選ぶわよ」
ノーナは目をしばらく閉じてから、口だけを開く。
「えーと、超イケメンのリア充と大学生男子と、中学生の引きこもりの女の子が
巨大な器が開いてるけど、どっちがいい?」
「他を探すっていう選択肢はないの?」
「ないわね。他候補はちょっと性格に難ありだからね」
「えー、どっちも、将来がありそうな若者じゃないか。俺のコピーとかいらんだろ」
ちなみに俺も将来があるおっさんである。
そこ!!ないとか言うな!!俺達の未来はおじいちゃんおばあちゃんになっても輝いてるよ!!
「引きこもりの方は、このままだと四十まで家にこもったままね。
残念ながら家が裕福だから、状況が変わらないのよね」
「……じゃあ、女の子で」
「早島尚ちゃんの方ね」
「名前は生々しいからいいわ。とっとと才能をコピーしてくれ」
「はいはーい」
ノーナは俺の頭をチョンッと右のひとさし指で触れると、そのまま
窓を開けて、綿毛を飛ばすように指先に息を吹きかける。
「終わり。あとは一ヶ月くらい待つといいわよ」
「意外とあっさりしてたな」
「大した才能じゃないからね。あ、ウンなんとかマン作る才能は
コピーしてないから。あんなクソゴミ能力だれもいらないでしょ」
「おい……マジで泣くぞ」
On mouse letter(一ヵ月後~)
「それじゃ、ねずみ文字の上でしょ。わけわからないわよ。
正しくはOne month laterよ。
そんな中学生以下の教養で文筆家目指さないでよ」
パソコンに書き込んだ文章をノーナが見つめながら言うる
「素で間違えたわ」
「まあ、とにかく、一ヶ月経ったわよ」
「何の話だっけ?」
「才能移す話でしょ。成功して瘴気も消えたわよ」
「ああ、そんなこともあったな」
俺はウンコマンが、第四回ファイナルウォーズの章に入ったので忙しくて
そんなことを考えている暇は無かった。
聞きたいか?やはりそうか。
じゃあ、ちょっとだけだよ。
しかたねぇな(嬉
第三回ファイナルウォーズの結果
東マグヴィラモ星雲に取り込まれたウンコマンは何億年も
考えることをやめた宇宙を漂う石となっていた。
しかし、そんな石となったウンコマンに第四回ファイナルウォーズの
召集のための赤紙が届く。実はすでに石から
幽霊体つまり、アストラルボディで抜け出す術を手に入れていた
ウンコマンは、自分の石になった元体に貼りついた赤紙に
「へっ、ケツを拭く紙にもならねぇ」
と吐き捨てると、アストラルボディで再び、故郷地球を目指した。
「それ、まだ続くわけ……しかも微妙にパクリ入ってるし……」
勝手に思考を読んでうんざりしているノーナが言ってくる。
「やめとくか、ネタバレはしすぎると悪いからな」
「……まあ、いいわよ。ちょっとこれ見てよ」
ノーナは俺の手にもっているマウスをぶんどって
勝手に動画サイトを開く。
そして素早く検索して、あるゲームの実況動画を見せてくる。
「これよこれ。これがあの女の子が作った動画ね」
「……シモネタがないな」
「でも人気動画よ。おっさんの動画の良いところだけ
取り入れてるから、通報もされないからねー」
ノーナが意地悪な顔で横目で見てくる。
「再生三十万くらいあるし、やっぱり、広告でガッポリ?」
「そうねー。他動画も含めて、月一~二万くらいは稼いでるんじゃないかな」
「そんなもんか……」
「中学生にとってはいいお小遣いでしょ」
「まぁな。何か変わればいいな」
「あの子は変わるわよ。手ごたえをお金と言う形で具体的に手に入れれば
おっさんみたいな、擦れた大人よりも遥かに
生きるエネルギーになるからね」
「何か、おまえ、善人みたいなんだけど」
「ふっ、天使の設定した正規才能ルートから外れたマイナーなのを
嫌がらせで、ばら撒いてみたくなっただけよ」
「はいはい。言い訳おつ」
ノーナは余裕の笑顔で何かを説明し始める。
「喋った事や、少しでも形にしたものは聞いたり見た受け手のどこかに溶け込んで
残っていくのよ。それがおっさんのでもね。
meme……ミームって言って遺伝外情報のことなんだけど……」
「まっ、まて……ということはだ……」
なんということだ。やばいことを俺は思いついてしまった。
ノーナは無表情で、ワンワンオの肩を叩いて
ハリセン装備の準備を始めている。
おそらく、俺の思考を読んだのだろう。
だが、言わずにはいられない!!
「俺の超傑作小説、ウンコマンの影響を受けた人たちが未来に……!!!!」
途中で思いっきり、ハリセンを二人から叩かれた上に
ノーナに首筋を叩かれて、俺は意識を失った。




