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トナカイの妖精    作者: 弐屋 中二


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32/41

乗っ取り

「うふふ、エアプの運営なんかに任せて居られないわ」

「さーあ、ディレクターの松田君、会議で

 ドラゴニックアースの排出率をあげると明言しなさい」

ノーナはベッドの上で目を瞑り、何か、怪しいことを呟いている。

俺はすぐに分かった。もうこいつとも付き合って長い。


「ソシャゲの運営さんたちを操ってるだろ」


「な、なななな、なんのことよ」

慌てて、ノーナは目を開けて否定する。そして再び目を閉じて狼狽して

「あ、ああああああナノニックマースの排出率あげちゃったああああ」

「やっぱりな、ガチャの確率操作してるんだな」

「うん……だって運営がエアプで、いまユーザーが何が欲しいんだか

 分かってないんだもん……」

エアプ=エアプレー、またはエアプレーヤーの略だ。

やっていないのにそのゲームをプレイしたと騙る人や、または

ゲームの運営なのに自分たちの作っているゲームを理解していない人たちに向けられる

侮蔑語である。

「あのな、ネトゲやソシャゲの運営は、やりこんだプレイヤーには、

 総じてクソに見える。なんでか分かるか?」

「エアプだから?」

「ちょっとだけやるライトゲーマーから、一日中やっている廃人まで

 全方位見て仕事しないといけないからだよ」

「そうなの?」

「その他にも、自分たちの創作欲と

 求められている作品のせめぎ合いとかもあるだろ」

「ネットゲームでプレイヤー全員にジャストなもんなんか絶対に作れないんだよ。大体な……」

「何よ」

「一日中同じゲームやる廃人対策なんかひとつしかないだろうが」

「どんなの?」

「一年とかかかる、めっちゃ難しいコンテンツにずっと閉じ込めとくことだよ。

 ある意味、心の刑務所みたいなもんだろ」

「たしかに……」

「あとは、ソシャゲに廃課金いくらしたって、ちょっと運営が調整ミスしたら

 何十万、何百万というお前の課金が無駄になることも起こりうる」

「ま、まあね……」

「でも、それでもソシャゲの廃課金者は後を絶たない、何でか分かるか?」

「なんで?」

「圧倒的資金力で、短い間でも、他人を完璧に見下せる権利を買ってるんだよ」

「あー……確かに、私もこのゲームのあらゆるランキングで圧倒的一位だけど

 確かに気持ちいいもんね。長年の悪魔稼業でもここまでスカッとしたことないわ」

ないんかい。

「……やはりそうだったか。どのくらい課金したんだよ」

「七千万くらいかな」

想定外の金額に脱力する。

もっさんも、稼いだ金を勝手に使われるの、止めていいんやで……。

「……その金で、今日を生き延びられた人が沢山いるとは考えないのか……」

「今は、休業してるけど、悪魔だもーん。ぜーんぜんっ関係ありませーん」

ノーナは完全に開き直って、逆に舌を出して煽ってくる。

「しかしな、逆にそれだけ課金してたら、名乗り出たら

 お前のために色々としてくれると思うけどな」

「そうなのっ?」

「よくあるだろ。一人でそのゲームの運営を助けているレベルの

 廃課金者に特別称号プレゼントとか」

「おおおおおおおおお。貰おう」

ノーナはベッドの上からパッと消えた。

ため息をついて、俺はウンコマンの続きを書き続ける。

ワンワンオが大きな身体を折り畳めて、部屋の窓から帰ってきて

「ヴァオ(色々しんどいわ)」

と言いながら、床でノートPCを広げてネトゲをやり始める。

俺もいつものように色々と深くは聞かない。

しかし、ソシャゲもそろそろ下火であるということはよく聞こえてくる。

まあ、あんだけガチャでユーザーから直接利益吸い上げてて

それが永遠に続くわけ無いよな、ユーザー側だって飽きてくるから

射幸心を煽る手はどんどん使えなくなっていくだろうしな。

と思いながら、俺はひたすらキーボードを打ち続ける。


翌日もノーナは帰ってこなかった。

平和でいいな。と思いながら、近所を散歩したり

ワンワンオと駄弁ったりしていると

何となくつけたテレビからニュースが流れてくる。

「ネットゲームなどの運営で有名な、株式会社ノマウェイゴーの新代表取締役社長に

 社外から、急遽、野奈利音さんが就任することに決まりました。

 野奈さんは二十七歳の投資家で……」

どう見ても、スーツを着たノーナが記者会見に挑んでいる様を見て

ワンワンオと二人で同時に飲んでいたものを噴出す。

「ヴァウオ(やっちゃったか)」

「そうだな。勢い余って乗っ取ったな」

しらねぇぞ。と思いながら、俺は夕方のニュースにチャンネルを変えた。


その数日後、ノーナ帰ってこないと、

毎日、よく眠れるし、肌も艶々して、何かそろそろ働けそうな気さえするなと

ネットニュースをマウスでポチポチとクリックしながら、見ていると

「株式会社ノマウェイゴーが、新型ソーシャルゲーム、

 ドラゴニックファンタジア8を発表しました。同社の株価は高騰していますが

 権利関係など不明な部分もあり……」

お茶を噴きそうになって、何とか飲み込む。

ワンワンオも

「ヴァウアウ(おい、ドラファの続編がソシャゲってこれマジ?)

と背中から問いかけてくる。

「ノーナのやつ、全力で時代に逆行してんな……」

そろそろハリセンもってノーナがいる本社に上京するタイミングか……。

と考えていると、ノーナがいきなりベッドにワープしてくる。



「おっさん!!助けて!!原作者も権利者も開発者も社員も、取締役も

 全員操ったら、どうしたらいいか分からなくなった!!」



「……」

「……」

帰ってくるなり、まくし立てるノーナをワンワンオと冷たい目でノーナを見つめる。

「な、何よ。助けてよ」

「いや、お前のやりたいようにしたらいいと思うよ」

「ヴァオ(せやな)」

「そんなこと言わずに……」

珍しくノーナが低姿勢で頼み込んでくるので、思い浮かんだアイデアを述べる。

「とりあえず、ゲームをモチーフにした饅頭作ったり、ワイン畑に手を出したりしたらどうかな」

「そ、それ、失敗例でしょ。わかってるんだから」

「ヴァオウ(アジアに予算削って外注した、ドラファの新作ネトゲはどうよ)」

「そ、それもダメでしょ。たぶん、とんでもないものが出来るわよ」

「ゲームのキャラでバーチャルバンドを組んで、

 それに似せたロボットに実際に演奏させるのは?」

「そ、そんな見えてる地雷、踏むわけ無いじゃないの……」

「ヴァワウ(あえてフィールドマップを、スゴロク風にするのはどうかな)」

「意味不明よ。絶対売上下がるわよ、そんなことしたら」

「しょうがないな。実は今までやっていたファンタジーシリーズ全てが

 ただのネットゲームで、その開発者の社長を倒しに行くって言うストーリーはどうだろう」

「そ、そんなことしたら、今までのシリーズファンが全滅するわよ」

「ヴァウワ、ヴァウ(コピペした二つ、いや、五つの塔をあえて、登らせよう。あくまであえてな)」

「作る側が楽だからって、そんなことしたらダメよ」

「映画を見ているような、戻れない一本道のストーリーにしたらどう?」

「そ、それもダメでしょ。それなら映画見るわよ。いい加減にしてよ」

「ヴァウ(やっぱ、つれぇわ)」

「言えたじゃねぇか。じゃないー!!もうネタが古いわよ!!」

そんな感じで、適当に翌日の明け方までドラファ8の方向性について

話し合った俺たちは、一つの結論に達した。

「眠いな。じゃ、夕方まで寝るから」

「ヴァウワ(朝の散歩行ってくる)」

俺たちは無責任に放り出して、一人、目に隈を作ったノーナが

「……行ってくる……」

と会社へワープした。


その夕方、目を覚まして、ベッドから上半身だけ起こし

俺の部屋のテレビをつけると、ちょうどニュースをやっていた。

「今、話題の株式会社ノマウェイゴーが、再生エネルギーに携ると発表されました。

 ドラゴニックファンタジアの権利は、元の権利会社である……社へと売り戻すようです」

「この再生エネルギーとは、人糞を利用した画期的なもので……」

そこで、俺はテレビを消して、再び布団をかぶって寝た。

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