宝探し
「なぁノーナ」
「何よ」
いつものごとく俺たちは部屋でボケッと
ゲームやパソコンをしている。
ノーナはもっさんの稼いだ金で某ソシャゲを廃課金して
最近楽しんでいる。
「俺さ、何か今年の夏、ウンコマン書くだけで終わったんだけど」
暑かったので結局、外にあまり出かけないまま
夏は終わってしまった。もちろんノーナやワンワンオも
そうである。殆ど全員で何らかの電子機器の画面を見ていた気がする。
「外出たいなら、バイトでもしたら?」
ノーナはあっさりそう言って、ポチポチとタブレットの画面を押し始める。
「働きたくないでござる!!絶対に働きたくないでござる!!」
「……例の星に行くとかは?」
「いや、それは止めとくわ。碌な結果にならねぇだろ」
「バンドは?」
「みんな仕事でいそがしいんだって」
ニートなのは俺だけだよ!……あ、ノーナもか。
「……仕方ないわねぇ。仕事が無いなら創るわっ!!」
ノーナはタブレットをベッドに放り投げると
ビシッと俺を指差して、ポーズを決める。
「人様に迷惑になるのはやめてな……」
「もちろんよっ!!このノーナ様に任せなさい!!」
物凄い不安になりつつ、一応俺はノーナに許可を出した。
二時間後
俺は真夜中の荒波の中を漁船に乗って進んでいた。
どこのの星かも分からない。
「ちょっと!!これ沈まないよな!!」
「沈むわけ無いでしょう!!悪魔の加護と、最新鋭の船よ!!
荒波なんて大したこと無いわ、あっはっは!!」
背後から物凄い高波が襲ってきたが
ノーナがタブレットを片手に、片手で舵を回しながら、謎の呪文を唱えて
船を無理やり安定させる。
「……」
俺は船室に入って、ブランデーとかウイスキーを
あるだけ飲んで、むりやり眠りについた。
「ついたわよ!!」
「……なにここ」
俺は翌朝、晴れ渡った。無人島の砂浜に立っていた。
背後ではマストの折れた船が二つに割れて沈んでいく。
ノーナの魔力で無理やりもたせていたようだ。
「我等の拠点よ!!」
と言いながらノーナはさっそくタブレットを見ている。
ずっと何をやっているのかと思えば
どうやらいつものソシャゲのようだ。
「……あ、もっさんたちいるな」
海岸の向こうで
何やらパソコンに喋っていたもっさんがそれを畳んで
隣に居たリーファーさんと駆けてきた。
アロハシャツにビーチサンダルである。
リーファーさんはTシャツにショートパンツだ。
「あ、どうも」
「いや、すいませんね。何か巻き込んだみたいで」
「え、どういう……」
「ここで宝探しをするのよ!!」
俺たちの間に入ったノーナが、全員を見回して言う。
「この島?それとも海のほう?」
「海ね。ここは生活拠点よ」
「……うちの家族心配しないかな」
「催眠術かけたから、帰ってくるまで気付かないで
生活してるわよ」
「おまえなぁ……」
「硬いこといわないで、まずは拠点を造るわよ」
「私は配信があるので、ちょっとそこらを映しながら放送してきますね」
「あ、お仕事ですね。頑張ってください」
「ありがとうございます」
もっさんは丁寧に頭を下げて、
リーファーさんとジャングルの中に入っていった。
「衛星を使った回線で配信してるのよ」
「さすが人気配信者、金あるなあ」
「ちなみに私のタブレットもよ!!どこでもソシャゲできるわ」
「通信料が月額いくらか聞きたくもねぇわ……」
「もっさんの通帳、何億か貯まってるわよ。通帳見る?」
「いやいいわ。そんなもん見せられたら気を失うわ」
生まれてこの方、自分の通帳に二十万以上残っていたことはない。
ノーナは、砂浜から離れた見晴らしの良い高台に
俺を連れていって
「ここに拠点を造るわ。ちょっと離れてて」
と言い、
瞬時に幾何学的な外見の、コンクリート造り
頑強そうな三階建ての家を出現させた。
けっこうデザインがあっさりしていて、いかにもリゾートハウスと言った感じだ。
「ふむ。あとは安定したネット回線ね。この衛星回線微妙に弱いのよね」
「おいおい。無人島にきてまでゲームかよ」
「スタミナ消費こそが人生よ。ガチャは哲学ね」
「……かける言葉もねぇわ」
ノーナは海底から太いケーブルを引っ張ってきて、家の壁の中へと入れ込む。
「よし、これで良いわ。まずはこの家でソシャゲね」
「俺もパソコンやるわ」
「いいわね!二人でくつろぎましょう」
そのまま、もっさんたちも交えて、ダラダラと一週間ほど
綺麗な島の景色を見ながら、
ダラダラ室内で遊んだり、もっさんは外へ出て行って
島の光景を放送したりしながら、過ごした後に俺は
あることに気付く。
「宝探しは!!」
「あ!!……いや、でもスタミナ消費させて」
「うん……ウンコマンの続き書くか。読者とアンチが待ってるし」
さらにダラダラと一週間ほど、再び同じことを四人で繰り返す。
そして、ある朝、
「メンテ入ったわ。暇つぶしに行きましょうか」
とソファに横たわってタブレットをタッチしていたノーナが呟く。
どうやらやっているソシャゲがメンテナンスに入って
五時間ほど、ゲームができないらしい。
いよいよ、俺たちは宝探しに行くはずなのだが
二週間ほど、居心地の良いリゾートハウスでダラダラしたので
完全にやる気が出ない。
もっさんは、すでに無人島内に謎の遺跡を発見して
そっちで配信が盛り上がっているので、宝探しにはいけないらしい。
とりあえず、水着を着た俺は同じくスクール水着に着替えているノーナに
「……なんでそれ?」
「小柄な女子が着たら、おっさんたちがいちころなんでしょ?
ソシャゲで覚えたわよ」
「……微妙に間違ってる気がするけど、まあいいや」
そして俺たちは、ソシャゲのメンテ明けに間に合うように
海底のお宝探査に乗り出した。
浜辺にノーナがでかい空気の泡を一つ作る。
その中に入るように促されて、入ると、そのまま海の中に押し出された。
「ちょ、待て、沈む沈む」
と海中に入っていく。すると泡は割れずに
海中の中で息が出来るではないか。
「大体、五時間くらい、酸素あるから。あと多少の圧力では割れないからね」
とノーナが泡の中に首を突っ込んで説明してくる。
「分かった。とりあえず行こうか。
とっとと帰ってウンコマンの続きかきたいし」
俺は海底の中を泡に包まれて、歩いていく。
そのまま一時間ほど海底を歩き続けると
海底に丸くでかい大穴があるのが分かる。
「これね。さ、いきましょ」
穴の中にノーナに押されて吸い込まれるように、飛び込む。
沈み続ける。
そこからは長くなるので省略していくが
とんでもない巨大イカとノーナが格闘しているのを見たり
謎の海底生物に食われそうになって、逆にノーナが大口を開けて食べたり
海底遺跡を発見して「アトランティスは本当に存在したんだ……」と呟いてみたり
とりあえず三時間四十分くらい分けのわからんことが延々と続いた。
ああ、海底なのだが終始ノーナの身体がなぜか激しく発光していて
まったく見るのは問題なかった。
そんな感じで海底を沈んだり、歩いたりしていると
中世のガリオン船が沈んでいるのを見つけた。
「お、おお……ついに宝探しっぽいことに……」
と感動していると、ノーナが拳と蹴りで船を跡形もなくぶっ壊しながら
「うん。あったあった」
と金貨の入った宝箱や金の神像などを抱えてくる。
「あのさ……一応宝探しみたいなことさせてくれよ……」
「そんなことよりメンテ明けの時間迫ってるし」
「お、おう」
ノーナは、そういうと俺を周囲の泡ごと持ち上げて
急速に海中を上がり始めた。
「メンテ明けはレアが出る確率高いのよねぇ」
「う、うん」
「いくら突っ込もうかしら、うふふふふ」
完全に手に持った宝や、持ち上げた俺のことを忘れているノーナに
何も言えない俺は、とりあえず夜の浜辺に辿りついて
すぐに泡から外に出る。空気が旨い。
ノーナは財宝を全部浜辺に放り出して、リゾートハウスへと
駆け出していった。
「あのさぁ……」
俺は重い財宝を一人で頑張って、リゾートハウスまで引きずりながら運んだ。
ちょうどもっさんたちも帰ってきたので
どうするか訊いてみると
「こちらとしては、もう良い放送はできたので……」
と申し訳なさそうな顔を二人にされる。
ノーナはリビングでスクール水着のまま
ワクテカした顔でソシャゲノメンテ明けを待っている。
俺は、とりあえず、重い財宝の束を再び、外に出して
倉庫まで運んで、そこに放り込んだ。
そしてリゾートハウスで軽食を食べて
再びウンコマンを書き始める。
ノーナは早くも廃課金で回しているガチャの結果に一喜一憂しているようだ。
うん、別に来なくてもよかったよね。
家でパソコンやソシャゲしてればよかったよね。
と思いながら、俺はかきあげたウンコマンの新ストーリーを今日もネットに投稿した。
結局どこ行っても俺はウンコマンから逃れられないらしい。
なんだこれはなんかの呪いか。悪いことした罰か。
外は満点の夜空が瞬く。
もう秋だ。




