一月四日深夜から未明にかけて行く初詣 1
「あけましておめでとー!!」
「ああ……おめ……で……と」
ノーナとワンワンオが新年明けてすぐ俺の部屋で騒ぎまわっている。
もちろんその声は家族には一切聞こえない。
んで、俺はウンコマンⅡ~聖戦の調べ~を
ちょうど今書き終わったところなので
凄まじく消耗している。
だが心までは死んではいないぜ!!
いいか、お前ら。天才には正月など必要ない。
今年こそ俺は小説家として独り立ちするのだ。
まずは"小説家になるお"での大成功を引っさげて
出版社に更なる新作を持込みじゃあああああああ!!!
ちょうど俺のスマホが鳴って賀寿明から毎年のあけおめメールが届く。
かろうじて動く左手でそのメールを確認する。
「謹賀新年。あけおめっす。
今年こそは、先輩が才能のない小説家の夢を諦め、ちゃんと働きますように」
という嫌味な文面を見て、俺は興奮しそして体力が尽き、意識を失った。
次に意識が回復したのは三日後だった。
「あれ、デスクトップの日付が一月三日って……」
「おー☆気付いたのね」
嬉しそうなノーナが
マイパソコンの設置されている机の椅子に座っている俺の顔をのぞき込む。
三日も意識を失っていたのか……
「あ、結構衰弱が酷かったから、ご家族を心配させないように
私がおっさんの身体動かしつつその間に魔術で治癒しといたから☆
ちょっと肝臓やすい臓も悪くなってから、ついでに治しといたわよっ☆」
「う、動かした……?!」
「うん☆姪っ子さんとも遊んだし、妹さんや弟さんの奥さん旦那さんにも挨拶しといたわ」
「……」
寝転がってドラファ7をやっているワンワンオの方を振り返ると、目を瞑って首を振る。
"悪魔と関わったからしかたない"と言っているような……。
な、なんか取り返しのつかないことをされてしまったような気がするが
……ま、まあいいか。
立ち上がり窓のカーテンを開け、外を見るともう真夜中で
時刻は日付が変わる直前である。
「そうだ。初詣にいかないと!!」
俺は椅子から立ち上がった。
毎年必ず俺は、三箇日に地元の神社へと初詣に行くのである。
基本的には朝方行くが、めんどうな時には深夜である。
ん……?たしか、初詣は三日までは二十四時間いつでもオッケーウェルカムだったよな……?
正月の三箇日は各神社の神様が不眠不休で七十二時間居る。というのが通説である。
(※平日は日が出ている時間帯だけ居るとのことだ)
四日の一時二分を射している時計を眺めながら、俺は思う。
ということは、四日の早朝くらいまでは神様居てもおかしくないんじゃね!?
ノーナの方を向くと
いつものように勝手に思考を読んでいたらしく、ニコニコしながらウンウンと頷いている。
ワンワンオの方も振り向くと、
ノーナの方をチラチラ見ながら、かなり戸惑いながらも俺に頷き返す。
よし、もう朝になってから行くのもめんどくさいし、思い立ったが吉日だ!
今から行くか!!
とりあえず俺たちは近所の神社へと行くことにした。
俺の住んでいる団地から車で十五分の小高い山の上にある、その小さな神社は
俺が十代のころから欠かさずに新年参っている所だ。
近くのゲートボール場跡地に車を停めて
ぶーぶー言っているノーナを早く帰りたそうなワンワンオに乗せて
俺の初詣を上空から見学してもらうことにする。
悪魔と悪霊なので、神社の神域を汚す問題とかなんかそういうのありそうだからな。
やる気のないワンワンオに
「ちゃんとノーナを宥めておいてくれたら、ドラファ7のレア武器幾つかやる」
と耳元で囁くと、ワンワンオはすぐに耳をピンっと張って、
ぎゃあぎゃあ文句を言っているノーナを乗せて
高速で上空まで上昇していった。
よし、さあいくか。俺は目深にキャップを被り
ダウンジャケットのポケットに両手をつっこむ。
そのまま田圃を左右に見ながら、農道の中を神社へと向かう。
神社の古い石段が見えてきた。
おお、まだ三箇日夜のお参り客のための照明が煌々と照らし
初詣用の旗も立っているな。
よかった。まるで俺を待っていてくれたみたいだ。ありがたい。
さあ、上がるか。石段から滑らないように金属製の手すりを左手で持ちながら
俺は慎重にその狭い石段を登っていく。手すりの冷たさに掴んだ指が凍える。
毎年、ここで手袋を忘れることを悔やむのだ。
五、六分くらいその調子で登り続けると、石段が途切れて、森に囲まれた神社の境内に入る。
そのまま石造りの小さいが、立派な鳥居をキャップを脱いで潜る。
コンクリート作りの土台の上に建っている拝殿の賽銭箱から千円を取り出して
そっと中に入れて、俺は鈴をならし二礼二拍手をした。
「多くは望みません。家族と家の安全をお願いします」
小さく呟くと、神社の周囲の木々が笑うように揺れた。
よし。これでいいな。三箇日過ぎてて少し不安だったが、何事も無くてよかった。
俺は満足して、ゆっくりと石段を降りて
ゲートポール場跡地に戻った。
「つまんなーい。空から豆粒みたいなおっさん見たって、ジャパニーズ文化を堪能できないー」
車内に戻った俺に、上空から降りてきたノーナがブツクサ言いながら、助手席に乗り込む。
「いや、そう言われても……」
「私も参拝したいーしーたーいー」
「えぇ……」
後部座席に乗り込んだワンワンオは、難しい顔をして外を眺めるふりをしている。
「うーん。いや、まてよ……身体かえたらいいんじゃないか?」
「お、冴えてる☆」
「とりあえず家に帰らせてくれ」
「りょ☆」
一転してウキウキになったノーナを乗せて車は走る。
いい機会だから、ここ何年も参拝してない市内の一番大きな神社に行ってみるか。
賀寿明んとこの神社行ってもいいが、
さすがに年明けからノーナと関わり持たせるのはかわいそうだしな……。
賀寿明のお父さんにも悪いし。
家にワンワンオを置いて、俺は車を市内へと走らす。
ノーナは「身体取りにいってくる☆」と助手席から消えた。
緊張するなあ。久しぶりの大きな神社への参拝だわ。
ここ数年はまともに外で活動してなかったのもあるが
こうなんというか、精神的にちゃんとしようという気もあまりなかったのが
結果的に悪魔を呼び寄せてしまったのかもしれないな。
それがよかったのか、悪かったのか……。
そんなことを思いながら車を走らせていると
「おまたせ☆」とノーナが助手席に瞬間移動して戻ってきた。
「能内の方か」
ワンワンオが居た寺に行ったときに使った大人の女性の身体である。
白いライトダウンジャケットを着て、長髪をなびかせている。
「直道だと目立つからねー。おー、いいねーいい雰囲気だ☆」
助手席から、正月明けの澄み渡った街の空気を眺めながらノーナがのたまう。
「悪魔なのに、人間世界の行事に乗っかっていいのか?」
「いいのよっ☆正式な悪魔業は休業してますからー」
今年のバンドの展望などを話しながら
深夜の市内を車は走り、そして市内最大の神社である
四季神社(仮名)にたどり着いた。
時刻は午前一時四十七分を指している。




