閑話2
「よくこんなに書いたな……」
"小説家になるお"で新シリーズ
ウンコマンⅡ~聖戦の調べ~
を書くために前作のウンコマンの設定を読み返しつつ調べながら、俺はため息を吐く。
何せ六十五万字で四十五話である。
一話平均、約一万数千字という異常な字数もさることながら
内容も薬物でもキメたかのようなぶっ飛んだものである。
(もちろん俺は薬物などやらないが)
狂気染みた執拗な情景描写と、白呆のようなモザイク言動の
キャラクター達の対比が文章の魔界を作り出している。
「天才だな……」
しかし、残念ながら文章力が中二レベルの俺には
アカシックレコードから降りてきたこの世の中に無い発想を
人々に理解させることができなかった。
読者からのレビューは
「三話まで読みましたが、時間の無駄でした」
「クソワロタwwwwwww」
「キモいけど好きですキモいけど」
「完全に才能無いと思うが、一ヶ月で六十五万字書いた頭のおかしい努力は認める」
「続編書いたらぶっ○す、右ストレートでぶっ○す」
などの熱いアンチコメントしかない。
ふっ、凡人どもの嫉妬が気持ちいいぜ。アンチは実質信者とも言うしな、
などと若干涙目になりながらも、頭の中で強がってみる。
「おっさんさー」
「なんだ」
ノーナがベッドの上でダルそうに手足を伸ばして言う。
右手にはアマ○ンから先ほど届いた漫画を持っている
「小説家になるのだけはやめよ?」
「うっ……どうしてだ」
「私も一応読んだんだけどさー……」
ノーナは実に言い難そうに言う。
「二十一世紀の地球に必要ないよー発想は分かるけどやっちゃだめだよー」
「……」
うむ。宇宙の広さを知っている悪魔にまでダメだしされるとは……これは……
もしかして……
「才能な……」
次の言葉が出る前に、俺は全力で座布団をノーナに投げつけて
パソコンに向かいなおす。
今日、ワンワンオは"霊界友の会"の会合に出席していて居ないのだ。
「ところでさー」
軽く座布団を回避したノーナが、自分の尻の下にそれを引きながらのたまう。
「なんでこの人ここにいるの?」
俺の部屋のいつもワンワンオの座っているポジションには
山田春仲さんが座っていた。宙を見ながら旨そうにお茶を啜っている。
「……いやなんか、賀寿明が朝いきなり連れて来て……」
そうなのだ。うちの両親が出勤した直後、
賀寿明のスポーツカーがいきなり我が家の前に横付けされて
「預かってほしいっす!!じゃ!!仕事あるんで!!」
と言うなり低いエンジン音を唸らせながら走り去ったのだ。
俺はとりあえず、何も喋らない山田春さんに気を使いながらも
部屋に上がらせたのだが、それからも今に至るまで一言も喋らない。
最初は姿を消していたノーナもあまりの山田春さんの反応の無さに
痺れを切らし、姿を現した上に話しかけてみたりしているのだが、
彼女はニッコリと微笑むだけである。
「うーん。もしかしてさーここ百数十年ほど見てなかったから、忘れてたけど……」
「……あなた、天使?」
その問いかけにも山田春さんは困った顔をするだけだった。
「天使?」
俺はノーナに問いかけた。
「うん。この世界ってのは必ず均整が取れるようにできていて
悪い奴がでてくれば、正義が同じくらい為されて
我々悪魔が出現すれば、天使もでてくるようになってるの」
「おお~、お前とうとうここから追い出されんの?」
若干本気で期待しながら俺は皮肉る。
「うーん。我々悪魔が完全なる自由意志を持つのとは逆に、
天使達は……なんというかシステム側の生み出すものだから
自分でも天使であると分かっていない場合も多いのね」
「知能的に?」
「それもあるけど、なんというかこうね……生まれつきの
身体や発達障碍とか自閉症的な人が為る場合が多いというか」
「だからこそ、我々悪魔が付け込む隙が多くて、
今の時代は圧倒的に我々が勝ってるんだけど、
その分システム側が、来るべき善悪の調整のために
物凄い数の天使を生んでいるという噂があるのよ」
「ふーん。よくわからんけど、バンドメンバーとして組んでるけどいいの?」
「いいわよ。我々悪魔は完全なる自由意志で貪欲に生きるの。
種族としての主義や、システム側の思惑なんか関係ないのよ」
「うーん……」
俺は閃いた。
「そうか!!つまり、その設定を"ウンコマンⅡ~聖戦の調べ~"に取り入れればいいんだよ!!!!」
「えっ……あっ、はい」
ノーナが絶句している目の前で俺は執筆に取り掛かる。
来た!!これは来た!!"小説家になるお"内のアクセス数第一位や!!
出版社からオファーきまくりの夢の印税生活やで!!ヒャッハー!!!
そのまま俺は猛烈な勢いで書き続け、
夕方に賀寿明が山田春さんの迎えで俺の部屋に入ってくるころには、
燃え尽きてガリガリになっていた。
こけた頬の上の霞んだふたつの目に宇宙服のような格好の賀寿明が映る。
「先輩ちーっす。ああ、また、面白くない小説書いて、無駄に燃え尽きたんすか……」
「おっ、ノーナさんも居なさそうだな。重装対魔服着なくても良かったな……」
宇宙服で部屋を見回した賀寿明は、ニコニコした山田春さんの手を取り
代わりにお礼のお菓子と、マク○ナル○のセット一式を置いて
部屋から出て行った。
スポーツカーのエンジン音が遠くへと去っていくころに
気を使って気配を消していたノーナが、再び姿を現す。
袋の中から取り出したマッ○シェ○クを飲みながら
動けない俺を椅子ごと退けてから、パソコンに書き上げた原稿を読みだす。
俺の数時間の闘争の末にできあがった
"ウンコマンⅡ~聖戦の調べ~第一章 苦役聖人ボツリヌス"だ。
ちなみに一万五千字である。
「……おっさんさー」
「……な、……なん……だ」
「発想はわかるけどー、これ誰が読むのよ……シモネタで汚いしさー」
平然とシェイクを啜りながらノーナはのたまう。
「ど……読者な……ら……これ……から…ふ、増……える」
「おっさん、全然才能な……」
"い"の言葉を聞く前に俺の意識は飛んだ。




