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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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24/41

バンドやろうぜ2

「この作者さー」


俺の安物タブレットでネットを見ているらしいノーナが

何か言っているが聞こえないふりをする。

ワンワンオもそろそろ深夜のオンゲタイムのはずだが

ベッドの上のノーナの下で丸まったままだ。

「長いこと更新してないのよねー」

どうやら"小説家になるお"サイトを見ているらしい。

「多作なのはいいんだけど

 だいたい一話で飽きて終わってて、

 メインのファンタジーものも、もう一ヶ月以上更新ないわ……」

「……おもしろいの、そいつの話」

こらえきれず聞いてしまう。

元々は俺もなるお系作家の一人である。気にはなる。

あー"ウンコマン2~聖戦の調べ~"シリーズ書かないとなぁ……。

もう構想はすでに練ってあるのだ。

あとはアカシックレコードとの接続を待つのみである。

「んー微妙かな。読めないことはないけど、基本的に言葉選びが下手よ」

「ふーん。もっと面白い人の見たらいいんじゃない?」

「そうしたいけど、微妙に続きが気になるのよね~」

「難儀だねー」

「そうねー」

「あ、ところでさ。ライブが決まったって賀寿明が言ってたよ」

その瞬間ノーナが目を光らせながらこちらを

素早く振り向く。

「ほんとっ☆?」

「うん。ていうかこないだの練習以来一回もやってないけど、

 あいつ大丈夫かな……」

明らかに前回から賀寿明がおかしいのである。

実は奴は有名なバンドマンになるのが長年の夢なのだ。

資金は儲かりまくりの霊能者の仕事で作り、

その金で儲からなくてもいいからバンドのツアー等に行き

アルバムリリースしたら日本のマニア雑誌に載るような

インディーミュージシャンになりたいっす。

と前からずっと言っていた。

微妙に実現可能そうで実は難しいというなんともいえないハードル設定である。

あいつの中では今回のバンドでその微妙なラインの夢が叶いそうな

気がしているのであろう。

クソオンゲとクソ悪魔の相手で感性が死に絶えた俺には

そんな気配は微塵もしないのだが……。

「クソはやめてー。か・わ・い・い 悪魔ね☆」

向こうでノーナが文句を言っているが、勝手に思考を読むお前が言うなと。

今なら座布団を投げてもワンワンオはキャッチしないかもしれないが、

それもまた揉める要因になりそうなのでやらないことにした。



三日後



直道(ノーナ)と俺はライブハウスの前に居た。

直道はケースに入れたスネアとスティックを、

俺もケースに入れたロングスケールのごついベースを担いでいる。

「とうとう練習しなかったねー」

長身の直道が頭上から話しかけてくる。

「……あいつマジで何考えてるんだろうな」

ボロボロの厚手パーカーとジーンズに色あせたキャップを目深に被った俺と

紫のライトダウンジャケットを着た長身の黒人である直道を

キラキラした若者達が怪しげに見ながらライブハウスに入っていく。

そんな感じで十分くらい待ったあとに

賀寿明が到着した。

「いやーさーせんさーせん。おまたっすよ」

よく見ると見知らぬ女の子を連れているではないか。

直道と俺がガン見するとサッと賀寿明の後ろに隠れる。

「ちょっとちょっと、先輩らこわいですよ。レディには優しく。ね?」

何がレディには優しくね。じゃ。

八十年代の漫画でしか見んわそんなセリフ。

「あ、紹介がおくれましたね。この子は仲山田春さんです」

賀寿明が俺らに言うのと同時に仲山田さんは背中から出てきて

コクンと頭を下げると、また背中に隠れた。

ロングの黒髪にかくれた顔は目鼻立ちの整った美形で、

暖かそうなロングコートとスリムなジーンズと言った地味だが今風の服装である。

「ダハル?ハル?」

直道は名前の切れ目が分からないらしい。

いや、わからないふりをしているらしい。そうだ、絶対わざとだ。

どうかんがえても春が名前だろう。

「あー直道さんにはちょっと難しかったかな」

賀寿明が頭を掻きながら言う。



「仲・山田春が正しいくぎりです。実は山田春が苗字で、名前が仲さんなんですね。

 つまり仲山田春というのは芸名です。本名は山田春仲さんです」



「マジで!!!!!!!!!!!!!」



あまりにわけのわからない名前に俺は声をあげた。

世の中はまだまだ広いな……。

知らないことが多すぎる……

というか賀寿明……お前ノーナに続いて

また変な女にひっかかってないか……。






とりあえず色々聞くのも面倒なので

変な名前の美人と、賀寿明と俺らで

ライブハウスの裏口から、控え室に入る。

各々持ってきた楽器をそこに置くと

店長さんに賀寿明が俺らを紹介してくれて

俺はキャップを取って頭を下げる。直道は握手した。

山田春さんもちいさく「ヨロシクオネガイシマス」と呟いていた。

「……先輩、俺ら潜伏期間が長かったせいで、

 もうあのころの悪行を覚えている人たち居ないっぽいっすよ」

賀寿明が耳に顔を近づけて悪い表情で呟く。

俺は「せやな」とだけ返した。

さすがに三十過ぎてまた暴れるわけにはいかんからな。

あとは対バン(共演のことだ)するメンバーの皆さんに全員で

「よろしくお願いします」と頭を下げに行って

後ろの客席で本番を待つことにした。

予想外に大入りである。四百人くらいは居るんじゃないのか……?

どうやらトリ(最後の出演。この位置にいるのは一番の大物)

をつとめるメインバンドがここら一帯で

ネクストブレイク筆頭株だと云われている

若手のイケメン四人組のポストロックバンドで、

さっきリハーサル見てたら確かに演奏うめぇわ、

歌詞は深いわ、パフォーマンスも素晴らしいわで

未来永劫にわたって音楽と言う分野ではたぶん彼らにひとつも勝てない気がした。

今度アマゾンでCD探して買おう。頑張れジモティー(地元民)。

今は地方の若いアマチュアバンドでもきちんと音楽性あるのね。

おいさんたちが若いころはJポップ崩れのバンドばかりだったよ……。

ゴミバンドの俺らがどう客観的に見ても

頭ふたつ抜けるくらいの音楽性の無さだったぜ……。

あ、大切なこと忘れてた。


「おい賀寿明。曲が無いんだが」

そうなのだ。練習も一回のみで曲すら作っていないのだ我々は。

「ん?ああ、今から作りましょ」

「…お、おう」

ま、まあ確かに出番まで二時間くらいはあるが……。

「えーと……確か持ち時間が二十分なので、

 五分の曲二曲と、十分の曲一曲あればいいですよね」

「た……たしかにそうだが、おま……」

俺の言葉を遮って賀寿明が続ける。

「一曲目はワンコードでいきましょ。そうですねーDがいいかな。

 曲名も「D」で。リズムは直道さんがダンスビート叩いてください。

 適当に俺たちがそれに合わせますから」

「二曲目はツーコードですね。Gm7とC7にしますか。

 曲名は……んーそうだなぁ。"拙速"とかどうですか?

 いま急いでますし、直道さんは適当にブレイク入れながら

 ツービートっぽい感じでお願いします」

「三曲目はカノン進行……といいたいところですが

 めんどうなのでワンコードでCでいきます。

 先輩は勘でCセブンスや違うコード合わせたりしてみてください。

 曲名は最後なので"ラスト"で」

とりあえず開いた口がふさがらなかったが、

まあ、以前のバンドもてきとうなスリーコードにでたらめなリズムをのせて、

拡声器持った俺らのどっちかが楽器放り出しつつ、

酒焼けボイスで観客に怒鳴り散らしてただけだからな。

以前と比べるとマシと言うか、良く俺たちはバンドを続けてこれたなと思う。

自分のことでなんだが、誰か止める人いなかったんだろうか……。

普通バンドマンって、みんな頭悩ませて作曲してるよな……。

ロックの歴史とかコード進行の神秘に取り付かれてるよな……。

俺らはもしかして音楽の授業を聞く小中学生以下ではなかろうか……。


作曲?を終えた俺たちは四人で客席に座って

対バンのバンド達の演奏を聴いていた。

アコースティックとダブを合わせた様な綺麗な音作りのバンドから

大学生が勢いでやっているパンクバンドまで

4バンドほど良質なバンドサウンドに聞き入ったところで

出番が来た。なんとトリ前である、よそよそとステージ裏から

楽器や機材をもちこむ。俺はロングスケールのごついベースと

アフガニスタン製の極悪な歪みをするファズに二本のシールドケーブルだけである。

セッティングしながら周りを見回すと、後ろに居る直道はドラムセットを自分の背の高さに合わせている。

賀寿明は足元にエフェクターを並べるのに忙しそうだ。

ああ……そうだ山田春さんは何をするんだろう……と見回すと

彼女は俺と直道と賀寿明の中心、つまりステージの真ん中でマイクを調節しているではないか。

ん……つまり、歌うのか。……まあいいか、俺や賀寿明がマイクを握ると

叫びながら観客と乱闘になるまで、汚い言葉で煽りまくるだけだしな。


一番早くセッティングが終わったので客席の方を見ながらダラダラしていると

左側から賀寿明のギターの音が聞こえているいつもながら

どうやったらそんな音になるのかと言うような七色の音だ。

コードは予定通りDらしい。

歪んで異様な音がいくつも重なっているので聞き分けるのも一苦労だ。

直道に視線を送って先にダンスビートを叩いてもらい

それにベースラインを合わせる。ギターが変態的な音色なので

多少ベースラインがコードからはみ出てもかまわないだろう。

そのままベースを弾き始める、直道がモータウンっぽいダンスビートをたたき始めたので

ジェームスブ○ウンの曲ってこんな感じだったかなと

でたらめにベースを真似てみせる、その上に覆いかぶさるように

エフェクターのかかった大音量で賀寿明がギターを荒々しくカッティングさせる。

おお、ありそうでない変な曲が生まれそうだ。

いいぞ賀寿明もっとやれ。

ゴオオオオオオギャビィィィィィィィイというノイズのハレーションの波を

俺と直道のリズムが泳いでいく。

いいねぇ、悪くねぇな俺ら。と思っていると、

小さく歌声が入りだす、おお、山田春さん歌うのか……

何語だこれ。すげぇ、綺麗な声だな。

同じメロディラインを言葉を入れ替えて歌っているのだけなのだが

その度に、曲がまったく違う表情を見せる。

試しにベースラインのパターンを変えてみるがまったく揺るがない。

調子に乗って直道とアイコンタクトでブレイクを入れたりして

遊んでみる。直道はいつもノーナでやっているように俺の思考を読んで

「止めて」と思うだけでピタッと止めてくれる。

あまりに綺麗にブレイクが入りまくるので観客はアドリブだとは思うまい。

そんな感じで五分で演奏をまとめると、

一瞬の静寂の後に、観客席から戸惑いながらも大きな拍手が帰ってくる。


おお、やるじゃんおれら。

でもすいません、こんなクソバンドに大きな拍手を。と思って照れていると

二曲目が始まった。

まずは直道が叩き出し、俺はその性急なリズムにパンクっぽいシンプルなベースラインを合わせる。

そうすると今度は山田春さんがかわいらしく叫びだしたではないか、

相変わらず何語か分からないが、何かええな。

賀寿明はシンプルなアルペジオにまたわけのわからないエフェクターを数個かませて

異空間を作り出している。

後半に行くにつれ、だんだん曲が盛り上がっていくのと反対に、山田春さんは呟くように歌いだし、

最後は賀寿明がギターソロなのかただのノイズなのか

よくわからない早弾きをかまして会場中がノイズに包まれたところで唐突に曲が終わった。

またも大きな拍手。

さすがに何か騙されたような気がしてきた。

狐につままれていると言う表現がピッタリな感じだ。

まぁ悪魔に憑かれている俺が言うことではないが……。


ラストの曲がまた凄かった。

乗りに乗った直道がとうとう悪魔の本気を出し始め、手足が十本はあるんじゃないかという

ドラムビートが会場中を満たしだした所に

賀寿明が七色のノイズで応戦しだして

俺はどうせ聞こえねーからもういいやと思ってベースラインで歌いまくる。

そうすると荒れまくる三つの楽器音の隙間を縫うように山田春さんが

変幻自在にメロディを歌いだす。ワンコードのはずがスリーコードになり

フォーコードになり、外れては戻り戻っては外れ

最後は俺らが作り出した虹色の音塊がステージを、

上へ下へと跳ねるのが見えた……いや、見えた気がした。

もちろん終わった後は、観客総立ちで拍手喝采。

うん。こりゃもう何か絶対に騙されてるわ。ちげぇねぇ。

と首をかしげながら、俺はさっさと楽器を片付けてステージを降りた。





「いやいやいやいやいや!!最高でしたね!!!」


ステージ上ではトリのバンドが演奏を始め、

客席の後方でまだ興奮冷めやらぬ賀寿明が俺の肩を叩きながら喜んでいる。

直道も壁によっかかりながら腕を組んで満足そうだ。

山田春さんは汗を拭きながら缶ジュースを飲んでいる。

「お、おう。最高だったぜ」

とりあえず調子を合わせる、せっかく喜んでいる後輩を無下にはできない。

「この調子でインディーシーンを席巻しましょう!!!」

「いやーよかったよかった、あ、店長、どうでした?」

近づいてきた店長さんと談笑をし始めた賀寿明を尻目に、直道に尋ねる。

「なな、何か上手く行き過ぎてると思うんだが、

 お前なんかした?」

直道は白い歯をみせてから、大きく首を振った。

「いーや。私は何もしてないよ☆したらつまんないじゃん☆」

うーむ。そうまで言うなら上手くいっただけなのか。

クソオンゲとクソ悪魔に感性を殺されて

素直に喜べない病にかかっているのかもしれない……。

「クソじゃないよー、か・わ・い・い・悪魔☆」

思考を読んでマッチョな笑顔でニカッと微笑むノーナ……もとい直道に腹パンしたら

腹筋が固すぎて手が腫れた。

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