バンドやろうぜ1
「あーバンドがやりてぇなー」
「はいはいはい!私もやる!!」
「……」
もっていた漫画を投げ飛ばして
ピンッと上に手を伸ばしたノーナを見つめる。
ワンワンオはもっさんから買ってもらった
高いゲーミングパソコンを床に置いて
寝そべってドラファ7をやっている。
耳にはしっかりヘッドフォンをして
"ほっといてくれ"というサインを出している。
「俺ベースしかできんのだが」
「ドラムやるっ!!」
「やったことあるの?」
「ないけど一時間あれば覚えられるわよ☆」
「ロックなめすぎじゃね?」
「悪魔なめすぎよー」
「……」
しばらくノーナと無言で見つめ合う。
「うむ。まぁやってみるか」
「ギターは?」
「賀寿明だな。ド下手だけどエフェクターの使い方は凄いぞあいつ」
「よし!新しい体作るわ☆」
「ばれないやつで頼むわ」
「分かった!女子はやめるね」
若干の不安を感じながら、
俺の3年ぶりのバンド活動は始まった。
とりあえず携帯でやつに連絡してみる。
「先輩どうしたんすか?急にやる気になって」
「いや、俺も33だしいつまでも若くねえなと思ってさ」
「分かりましたが……ドラムはどうします?」
俺と賀寿明は地元のライブハウスで
酔っ払って散々に暴れまわったので
一緒にやってくれるドラマーは皆無に等しい。
「おう。確保してるよ」
「……!!まさかノーナさんじゃないすよね……?」
「いや、ガチムチのおっさんだよ。安心しろ」
「ふぅ、良かった。できれば二度と
係わり合いになりたくないっすね」
すまんな賀寿明。今度で三度目の係わりになるはずだ。
三時間後、仕事を終えた賀寿明と俺と
謎の黒人がうちの近くの公園に揃っていた。
「鈴木・イヴァノウフスカヤ・直道と言います」
「……どうもよろしくっす」
2メートル近くあるムキムキでスキンの黒人は
白い歯を見せながら賀寿明と握手をする。
「な、名前から想像するに、直道さんは東欧系の日本人っすか?」
「ええ、父親がロシア系黒人で母親が日系黒人ハーフで、
わたしは生まれた時から日本人です」
よくそんな複雑でわけのわからない設定を思いつくもんだと
俺はノーナにあきれながらも感心する。
「直道さんはバンドはどんなのが好きっすか?」
「日本人だとポストロック系は大体好きですね」
「具体的には?」
「ダ○ニーとかピー○ルですかね。
外国のならインディー系ダンスロックがいいですよね。
エブリシング・エ○リシングやボ○ベイ・バイ○クル・○ラブ
とかあとメジャーですけど○ルーン5とか好きですよ」
「パンクやインディーは?」
「セ○ドーは神ですね。あとはふつうにバズコックスとかクラッシュですね。
リズム隊が面白いパンクが好きです」
「……気に入った!!」
賀寿明は手で直道のゴツイ背中をパンパンと叩く。
ロックマニアのお眼鏡には適ったようだ。
ノーナもよくそれなりにマニアックな会話についていくもんだな。
さっそく俺らは賀寿明のスポーツカーに乗って
音あわせのために市内の音楽スタジオに向かう。
ネットで空いているところを検索して電話したら快く了解してくれた。
「流れているのグラ○ムスでしょ?かわいいですよねー」
「N○Eが年間一位アルバムに選んだのは伊達じゃないっすよ」
二人の音楽ファントークを聞き流しながら
俺は車窓から流れていく景色を見ていた。
久しぶりのマイタウンのネオンサインが
ナウでヤングな俺のイエローソウルをビンビンに刺激する。
スタジオ内の各種電源を入れて、
長々としたエフェクターの群れを繋ぎ
アンプのボリュームをあげると
賀寿明の相変わらず下手糞だが不思議な音色を奏でる
ノイズギターが轟音で流れはじめ、
俺はそれに適当にコードを読んで合わせる。
俺のベースはアンプ直結である。
エフェクターはカザフスタン製の極悪な歪み方をするファズを
一個もっているがほとんどつかうことはない。
ギターの音がでかすぎるので、
コードさえある程度外さなければ
裏でベースラインが好き放題歌っていてもさしつかえないのだ。
俺は好きに高音と低音を行き来して
ひさしぶりのベースプレイを楽しむ。
ノーナというか直道はそんな俺のポストパンクとハードコアと
七十年代ポップスをいったりきたりするような
でたらめなベースラインに変拍子で見事にあわせてきた。
「……こ、これはいけるっすよ!!」
ピックを離したあとも鳴っているギターの七色の残響をミュートもせずに
賀寿明が興奮気味にまくしたてる。
まあ、まだただの音塊だが、たしかに聞くべき何かはあるな。
「明日から曲作りを始めましょう!!」
と賀寿明のテンション高く差し出した両手を
俺と直道が握り返した。
「ふうーっ。たまには男になるのもいいわね」
俺の部屋のベッドで
ノーナが物凄くご満悦の表情で両腕を伸ばす。
「あの黒人の身体(の保管場所)はまたもっさんの所だろ?
さすがに何体もあると邪魔じゃねえのか」
「だいじょうぶ。まだまだ空き部屋はあるから。
私が時間停止魔術かけるから、
管理の手間はもっさんたちにはかからないし」
「ならいいけどな」
「バンドって楽しいね☆」
俺に向けてノーナがウインクする。
「まあな。それなりにストレスの発散はできるぞ」
とはいえ大変なこともそれなりにあるのだ。
ブーイングされるならまだ良いが
無視されたりとか、一斉にトイレ休憩に入られることもある。
そんなとき若いころの俺らは血の気が多かったのもあって
観客席に突っ込んでいっていた。
よく警察沙汰にも大怪我にも
ならなかったなと今では思うのと同時に、
とてつもなく恥ずかしい黒歴史でもある。
今なら少なくとも人様にご迷惑はかけたくないしな。
そんなこんなで我々の新バンド初日は
上手く転がり始めた。
しかしそれが意外な方向へと向かっていくのを
このときの俺らは知る由もなかった




