第十一話おさんぽ 前
「ねーねーおっさーん」
携帯ゲーム機を片手にノーナが呼びかける。
俺はクソオンゲドラファ7についての匿名掲示板のアンチスレッドを
見るのに忙しいので、聞こえないふりをする。
「シヴァルザークも方向性ついたしー、もっさんも人気ヨーチューバーになったよね?」
シヴァルザークは俺が生きているうちには、大きな文化的変容が見られないだろうし、
もっさんは相変わらず配信者として凄まじい人気を誇っている。
「でーさー。なんかちがうんだよねー」
うわ、またはじまった。
「もっさんは優秀だから、ほっといても私の命令以上に活躍するだろうし、
中米から使い魔も呼び寄せて、助手につけたし」
「シヴァルザークはルーマニアから使い魔よびよせて、その子に地球の膨大な文化リスト預けてー
代わりに神託してもらうようにしててさー、私いま暇なんだよねー」
意外とノーナの使い魔多いのな。こいつのわがままにこき使われて大変そうだ。
ノーナはベッドの上に立ち上がって剣を斜めに振るしぐさをした。
「わたしがしたい冒険はねー。こう、なんていうの、魔法が飛び交い剣が肉を切るようなねー」
ぐぬぬ、言葉の意味的にはシヴァルザークの文化開拓も冒険ではあるが、
たしかに身体性を伴ってはないので、一般的には違うかもしれん……。痛いとこ突かれた気がする。
「で、どうしたいのよ」
痺れを切らした俺は、ヘッドフォンを外しノーナについ訊いてしまった。
「お、のったわね☆」
ノーナが眼を輝かせた、知らない惑星にいきなり飛ばされるとかは頼むからもうやめてくれよ……。
「ノーアイデアです。おっさん何かいいのない?」
両手でかわいらしくバッテンを作ったノーナを見ながら、俺は少しホッとした。
「剣や魔法かー、っても地球じゃ無理だしなー。かといって他惑星はもういやだなー」
さり気なくダメだしをする。
「お前がファンタジーネトゲ作るとか、どっかの無人星をファンタジー世界にするとかどう?」
関係ないが、ネトゲに意識とか身体奪われる系ラノベって割と多いよな。
「最近大規模な魔力の消費が多かったからね……却下で☆」
ふーむ。だとすると元々あるものに乗らないといけないな。どうするか。
「賀寿明と悪霊討伐っていうか、心霊スポット冷やかしとかってどうなん?」
「わたしが行くと色々とパワーバランス崩れるからねー。
あと賀寿明さんも私のこと怖いみたいだし、お仕事の邪魔になるでしょ」
つまり最低でも力を弱める必要があるのか。
「例えば、おまえが何かの寄り代を作ってそれに乗り移るのは無理なの?」
ノーナは好き勝手に身体を乗っ取れるようなので、
乗っ取るのではなくて、自分で力の弱い外出用の
身体を作るのはどうかという提案だ。姿が違えば賀寿明もわからんだろうし。
「おお、それいいかも。ちょっとお出かけ用の身体作ってくる」
言うが早いか、ノーナは座ったまま動かなくなった。
意識をどこかに飛ばしているらしい。
ガチムチのおっさんとか、よく分からないキメラみたいなのに
ならなければいいなと思いながら、俺はまた匿名掲示板を見だした。




