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トナカイの妖精    作者: 弐屋 丑二


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第十話文化侵略

……声が戻ったらしてやろうと思ったが……これは説教どころではないな。

異星人とは言え、人死にと、

星ひとつの命運がかかっているのだ。慎重に答えねば……。


「まずはお前の国は世界のどのくらい征服してんの?」

とりあえずは情報だ。

「大体三分の一かなー。地球より小さい星だしねー」

かなりの大国だな。地球で言えば全盛期のローマ帝国やモンゴル帝国以上か。

「で、本気出したら何日くらいで世界征服できるの?

 あと予想される戦死者数も教えてくれ」

「私が出て行けば20秒かな。各国の首脳暗殺して終わりね。

 でもそれじゃ、私の悪魔の仕事が完遂しないから

 じわじわと近代兵器使いながら攻めるとして……」

ノーナはジッと考え込んでいる。

「向こうの時間で五年くらいね。戦死者は二百万くらいかなー」

ふむ……それで世界征服が完了するわけか。

「世界征服完了後はどうするの?」

ノーナのことだ。まだ先があるだろう。

「まずねー。平和になったことにして有能なサマンサをあの世に連れて行って、

 できるだけ無能で欲が深そうな側近を沢山作る。

 それから世界元首である私がいきなり刺客から暗殺される。もちろんされるフリよ。

 そして人々の私への洗脳を一気に解く」

どうなると思う?と言う恐ろしい表情をノーナはする。

「また戦いの始まりだな」

ノーナは嬉しいそうに腕をピストルの形にして"バンッ"と口真似をする。

「もし奇跡的に平和になりそうだったら、適当に茶々入れれば

 百年くらいは世界大戦してくれると思うわ」

鼻歌を歌いながらノーナは俺に投げキッスをして言った。

「百年もしたら世界人口も半減して、復讐が復讐を呼び、

 この世の地獄のできあがりねっ」

……ここまで計画が練りあがっていたら

ハリセンで今更叩いても効果はなさそうだな。

ふーむ。何か手はないものか……。

「おっさん、あと三時間でシヴァルザークの夜明けだから

 そのころまた行くわよ。冒険もいいけど、まずは世界大戦を開戦しないとね☆」

悩んでいる俺を嘲笑うようにノーナはせかしてくる。




考えろ。考えるんだ俺。このアホの計画通りにさせられん。

……あ、ノーナの世界征服計画に欠けている要素があるような……。


「なあノーナ、シヴァルザークって宗教はあるのか?

 あと文化や娯楽はあるのか?」

「んーあることはあるわねー。

 ノーダスライト教っていう偽救世主の精神病質者が二千年前に作った、

 何の効果も無いゴミ宗教の信者数が一番多いわ」

「あとはパイヤタオという地球人なら誰でも描けるレベルの落書きみたいな宗教画とか」

「ミネルタオッシャという二弦の弦楽器と打楽器をバックに

 全裸の男女が数人歌いまくるという性風俗と一体化した、

 よくわからない音楽もあるわ。」

うむ。あることはあるんだな。

「地球みたいに多様な干渉が入り乱れている星と

 何の加護も救いも無い星は、文化レベルもまったく違うのよ」

……いけるかどうかは分からないが、言うだけは言ってみるか。

「お前さ、そのノーダスライト教のっとらない?

 サマンサさんだけじゃなくて、お前がみんなの神になるんだよ」

何も世界支配は武力だけではない。文化侵略という手もあるのだ。

「でな、お前が言うゴミみたいな文化レベルの星の芸術家もどきどもに

 お前が好きな地球の音楽とか絵画とか、神のお告げで伝えまくったら

 面白くないか?」

"意味が分からない"という顔をノーナがする。

「お前の好きな日本のマンガとかも、うまくお前が神託として伝えれば、

 数百年先にはシヴァルザークオリジナルの名作漫画が読めるだろ?」

"……あ!?"という顔をノーナがやっとした。どうやらまったく範疇の外だったらしい。


「お、おもしろいかも……つまり、おっさんが言ってるのは

 惑星シヴァルザーク自体を私の趣味で染めあげろと……」

ノーナの目がキラキラしてきた。

もう少しテンションがあがればベッドを飛び跳ねそうだ。

「そうだ。ただし人死にはできるだけ無しでだ。

 未来の芸術家の卵や、芸術家の祖先を殺したらもったいないだろ?」

深く理解したらしいノーナは首を縦に振りまくる。

楽しそうな想像に、今にもその小さな口から涎が垂れそうだ。

よし、あと一押し。

「どうだ!星ひとつお前の趣味で染め上げて、個人の楽しみの場にするとか

 悪魔にとって、こんな悪徳はないだろう!!!!」

ノーナがベッドで飛び跳ね始めた。

「しかもこんな試みをやっているアホは宇宙どこにもいないはずなので、

 未知に挑戦するという意味で、お前の言う"冒険"でもある!!!!」

ノーナが俺の手を握り締め、ニパッと笑って宣言する。



「わかった!世界大戦やめる!わたくし悪魔ノーナ!!

 今日からノーダスライト教の神になります!!!」



よかった。どうやら通じたようだ。俺はホッと胸をなでおろした。



三時間後、俺たちは予定通りシヴァルザークにまた向かった。

ノーナは「あの漫画とーあのテーマパークとーあの映画とーあの作家もいいなぁ☆」

と一人で眼を輝かせながらブツブツと呟いていて

すでに今後の計画に余念が無いようだ。

「ノーナ様。御出陣はいつでも出来ます」

ワープした先の居間に待機していた、

メイド服姿のサマンサさんがノーナに命令を促す。

「うん。とりやめ。兵役は解除、専業だけ残して農地に戻して。

 戦闘艦は半分は解体して資源再利用。あと全世界と和平工作開始してね」

ノーナは興味なさそうに、ぶっきらぼうに命令を下し、またブツブツと独り言をはじめた。

「了解です」

サマンサさんは朝令暮改を地で行くような

無茶なノーナの命令にも、顔色ひとつ変えずに扉を開けて出て行った。

今更だけど、悪魔の洗脳ってこええな。


開戦のための出陣もなくなったので、

のんびりと城内を散歩することにした俺らは

城門の上から、シヴァルザークの朝焼けをふたりで眺める。

「地球には無いような、いい作品が沢山生まれたらいいな」

「生まれますとも!おっさんありがとね。久々に物凄い悪行で、悪魔としての面目もたったわ」

「いや、いいんだ。いつか、サマンサさんの願いも叶ったらいいな」

ノーナは少し腕組みして、考えてから言った。

「……善行には協力できないから、ノーコメントでっ!」

シヴァルザークの初夏のさわやかな風が、ふたりの間を通り過ぎた。




その後ノーナは世界中のノーダスライト教の信者を悪魔の力で洗脳し、

擬似神として君臨しつつ、神託という形で

信者の中から芸術家の才能がある者達の夢の中に

自分の好きな映画をフルサイズで毎晩流したり、

自分の好きなオーケストラやバンドのアルバムを全曲聞かせたり、

自分の好きな小説やマンガを毎晩読ませたり、

自分の好きな名画だけを集めた美術館を巡らせたりして、

無理やり芸術的才能を開花させるという荒業を使って

シヴァルザークの文化レベルを強引に引き上げまくっているらしい。

「半年で宮廷音楽と宗教画を地球の中世レベルにする」

のが当面の目標だそうだ。


サマンサさんは

ノーダスライト神になったノーナの代わりに

二代目マーブ女王として世界平和と技術発展に

尽くしているようだ。

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