第八話惑星シヴァルザーク
「ねーねー、おっさんさー。冒険がしたいー」
俺の部屋にあるマンガを読み飽きたらしいノーナがベッドの上でのたまう。
「いいんじゃねえの。いってきたら?」
俺はネットの中の冒険に忙しいのだ。
「わたしたちってさー、部屋でだべってたり
マンション行って、話して、帰ってきただけで
実質何にもしてないじゃんー」
まあ、確かにそうだがわざわざ何かすることもないだろう。
「どんなんがしたいの?ライトセーバーもって宇宙人と戦う感じ?」
適当に言った俺の提案にノーナが眼を輝かした。
「いいねそれ!宇宙人と戦争する?他の星を侵略する?」
「ちょ、ちょ待った。まずな、宇宙人てそもそも居るのかよ」
"待ってました!"とノーナが顔を輝かした。しまった……。
「いるよー。そもそも私達悪魔って3次元と4次元の境目に住んでるから
この宇宙のことは色々詳しいわよっ」
まずい展開な気がする。止めねば
「ま、待った。ほら俺ってさ地球に住む純粋な無職33歳じゃん?」
「やっぱりほら地球の文明を越えたじょうほ……ほーっ」
真っ白な光が俺の視界を包み込んだ。
「あら、ノーナ様。おかえりなさいませ。二百五十三日ぶりですわ」
気付いたら俺は薄汚れたTシャツと伸びきって薄くなったジャージで
西洋風の建築の大きな屋敷の居間のようなところに立っていた。
周りを見回すと、重厚なアンティークの家具がたくさんあり
古風なメイド服を着たスラリとした美人女性が一人微笑んでいる。
「ほ?」
言葉が出ない。
「ああ、ここ私の国と城だから。おっさんは……んーそうねえ」
ノーナは少し考えて
「私のフィアンセってことでどう?
私が女王総統閣下だから、おっさんは大王大統領陛下にしようっと」
「ほ?ほほ?」
何言ってんだ、こいつ?
「ということでサマンサ上級将軍兼女王付きメイド。この方との結婚式を執り行う。
直ちに支度せよ」
「ははっ。ただちに」
気付いたら俺は白スーツを着させられて
八頭の角が生えた馬が引くに神輿みたいなのに
乗せられて、西洋風の大通りの石畳の上をパレードしていた。
沿道からは人間そっくりな、しかし青や緑の髪色もいる
住民たちが熱烈な歓迎をしている。
「じょうおうそうとうかっか!ばんざーい!」
「だいおうだいとうりょうへいか!ばんざーい!」
うむ。聞こえる声は日本語だ。なんだこれ。
「ほ?ほほほ?ほ?」
沿道の民衆に手を振りながら俺はノーナに"何だこれは?"と尋ねる。
ちなみに声はまだ出ない。
ノーナならジェスチャーと発声でわかるはずだ。
「なにって、結婚式よ。おっさんに権威付けしとくと
のちのち楽だからね。ま、楽しんで」
俺に抱きついて、沿道の人に笑顔を振りまきながら
ノーナは一瞬、ニヤリと、いかにも悪魔らしく狡猾に微笑んだ。
数時間ゆっくりとパレードをしたあとに
十数万人民衆が見守る中、
城下町の中央広場の高台で俺とノーナは結婚披露宴をあげた。
ノーナの小声の指示で
キスをしたふりをして、二人で高々とブーケを掲げる。
同時に地が震えるような大歓声が俺たちを包み込んだ。
眼のやり場が無くて見上げた先のブーケには、
見たこと無いような発光する花が数本入っていた。
城下の住民への結婚披露宴も終わり、
俺とノーナは城のさっきの居間に戻った。
夕方からは貴族たちが集まる場内で、本番の結婚式をもう一度開くらしい。
ノーナにたずねる。未だに声は出ない。たぶん急激な環境の変化によるPTSDだ。
「ほほ?ほー、ほっほ」
「ああ、ここは似てるけど地球じゃないわよ。惑星シヴァルザーク。
地球からは観測できない距離の星ね」
「!ほー!ほあー」
ぎゃあー!とうとうやりやがったこいつ!
「さっきサマンサって子が居たでしょ?」
あの美人のメイドさんだな。
「彼女の願いを私が聞いた結果が"これ"ね」
おま……まさか、悪魔の力で……
「悪魔って活動範囲は宇宙全体だから、ま、許してよね。
昔のことだしさー地球ではしないわよー」
声が戻ったら説教だな、これは……。
「準備が整いました、大広間へどうぞ」
話題の人物、サマンサさんが居間に入ってきた。
外はすっかり暮れて屋敷から見渡せる
広大な庭には松明が何本も燃えている。




